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新たな命・4

「あっ……」

「どうした?」

「ほら、ここです」


 スルギは私の手を取って、自分の腹の上に導いた。


「おお。確かに。足か。随分と腕白だな」

「お転婆な姫が出てきても、あまりがっかりなさらないで下さいね」

「何よりもまず、スルギも子も無事で元気で有る事が一番大事だ」


 私は結び紐を解いた。雪のように白い乳房が重く実り、乳首の色は葡萄の実を思わせる色合いに変化してきている。どうやら近頃は真っ直ぐ上を向いて横になると、腹の重みで辛いらしい。確かに腹に常に重い荷物を抱え込んでいるのだから、楽ではなかろう。


「随分と腹も大きゅうなったものだな。腰が辛いそうだが、大事無いのか?」


 私は大きな腹とは対照的な細腰を手でゆっくりと擦りあげる。


「ああ……そうやって頂けると、心地良いです」  


 急にスルギの呼吸が規則正しいものに変わった。摩ってやったのが心地良かったようだ。もう深い眠りに入っていた。腹も乳房も私の目の前に晒したままなのに、驚くほどの早業だ。こうも無防備にされると、怪しからぬ事もしかねる心理を承知の上ならば、なかなかの策士なのだとも言える。


「だが、この程度の悪戯は構わぬよな?」


 乳首を口に含み、今にも弾けそうなほど大きくなった白い腹を撫でてみた。


「……ッあっ……正邦さまあ……」


 夢うつつに私の気配は身近に感じているらしい。声は艶めいでいるくせに、微笑みをうっすらと浮かべた寝顔は童女のようだった。自分がこのスルギにとって、一番近しい存在なのだ。そう実感できる事は、私に穏やかな喜びと安らぎをもたらした様であった。むき出しの腹と乳房を仕舞い、腹を冷やさぬように軽い夏掛けをかけてやると、私もスルギに寄り添って、深い眠りに入った。  


 その数日後、スルギは元気な王子を無事に出産した。名は成明ソンミョンとした。そして、スルギの言うとおりに、当分の間、成明ソンミョンの存在は秘密にされる事になった。


 翌日、私は庭園に判内侍府事を呼び寄せ、人払いを命じた。


「不届きものの後釜に誰がなるのか、判内侍府事、気をつけておいて欲しい」

「承りました。お話とは、この事で御座いますか?」

「いや、その……もう承知しているのではないか?」

 判内侍府事にしては珍しい柔らかい笑みを浮かべた。

「王子様の御誕生、誠におめでとうございます」

「うん。さすがに耳が早い」

「昨日の内に大妃様付きの呉尚宮から伺いました」

「秘密のはずだが宮中でどれ程の人数が承知しているのであろうな?」

「中殿様や他の御側室方の事でございますか?」

「ああ……あれらの実家が怪しからぬ事をあれこれ始めるのではないかと、気がかりでならん」

「根も葉もない別の噂を流しましたので、今はそちらに皆気を取られているはずですが、いつまで持ちますか……悪気は無くとも下仕えや女官達のふとした一言から悟られる恐れは十分に御座います」

「誰も男子を生めぬので、素性正しく年若く健康な美女を選び、側室に召しだす予定だと言う噂か」

「はい、さようでございます」

「その噂はどの程度信じられているのだ?」

「少なくとも、中殿様と全ての御側室方から私にお尋ねが御座います程度には」

「どう答えておいたのだ?」

「そのような事が御座いましたら、内侍府としては王様の御意思に従うばかりだと、申し上げておきました」

「側室達も中殿も寡人には何も尋ねない。だが、皆それぞれ翁主や傍仕えの者たちに噂に関してあれこれ言わせてみて、寡人の目の前では『出すぎた事を申すな』とか言いながら叱り付けて見せる。寡人は逆にどう思うか聞くだけだがな。すると皆『王家の御繁栄のために結構な事かと存じます』と判で押したように同じ答えが返ってくる。つまらん……あれらも好き好んでつまらん事ばかり言っているわけでは無かろうがな」

 判内侍府事はあれこれ考えているだろうに、じっと無言で私の言葉を待っている。

「あれは後宮に居たく無さそうだ。表から王子を支えた方が良いとも言いおった……中殿の据え換えは……」

 判内侍府事の視線は鋭くなった。

「朝廷が乱れましょうな」

「そうよな。あれもそう言うのだ」


 やはり、あきらめるしかないのだ。私はため息をついた。




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