【花より団子の意味】
※挿絵はAIイラストを使用しています
桜並木の下で、キララは立ち止まった。
ひらひら舞う花びらを見上げて、それから屋台へ視線が吸い寄せられる。
「やっぱり、こっちのほうが気になる!」
甘い香りのする団子が、春の風の中でつやつや光っていた。
「桜も好き! でもおいしいものはもっと気になるの!」
「お花見なのに?」と店の人に笑われても、キララは胸を張った。
受け取った串をそっと口に運ぶ。
もちもちした食感と、やさしい甘さ。思わず頬がゆるんだ。
「んー……しあわせ……!」
見上げれば桜はきれいだけれど、今のキララには手の中の団子のほうがずっと春らしく思えた。
「これがみんなが言う『花より団子』ってやつだね!」
得意げにそう言ったキララの隣で、ピカルがゆっくり歩み寄ってきた。
「……その使い方、少し違うぞ」
「え、そうなの?」
キララは串をくわえたまま、きょとんとした顔をした。
ピカルは桜を見上げてから、口を開いた。
「花より団子っていうのは、風流なものより実利を取る、っていう意味だ。美しい花を眺めるより、腹を満たす団子のほうがいい、と」
「うん、まさに今のわたし!」
「そうとも言い切れない」
ピカルは少しだけ考えるような顔をした。
「本来はちょっと皮肉が入ってる。風流を解さない、情緒がわからない、っていう含みだ。花の美しさより食い気を優先する人を、少しからかうような......」
「え、じゃあわたし、からかわれてるってこと!?」
「使い方によっては、な」
キララは慌てて桜を見上げた。
それからまた団子を見た。
桜と団子を、忙しく往復する。
「でも、わたしは桜もちゃんときれいだと思ってるよ! さっきもいっぱい見たし!
「知ってる」
「団子が気になるのは、桜がきれいじゃないからじゃなくて、団子もおいしそうだからで……あれ、なんか言い訳っぽい?」
「言い訳っぽいな」
「え~~~!」
ピカルがかすかに口の端を上げた。
キララがむっとして頬をふくらませる。
「じゃあさ! お兄ちゃんは、花と団子、どっちなの」
ピカルは桜を見上げた。
花びらが一枚、彼の肩に落ちて、すぐに風に連れて行かれた。
「……俺は、両方でいい」
「なにそれ、ずるい! それずるい答えだよ!」
「ずるくない。実際、そう思っただけだ」
キララは何か言い返そうとして、やめた。
ピカルの視線が、桜のほうへまっすぐ向いていたからだ。
花を見ているときのピカルの目は、いつもより少しだけ穏やかで、こういうときに何を言っても野暮な気がした。
キララは残りの団子を一口で食べて、それから自分も桜を見上げた。
「……じゃあ、わたしも両方にする」
「さっきまで団子一択だっただろ」
「気が変わったの! 団子食べたら、桜を見る余裕ができたんだよ」
「それは、それでいいのかもしれないな」
ピカルがそう言うと、キララはにっこり笑った。
二人で並んで、しばらく桜を見上げた。
花びらが降るたびに、甘い団子の香りがふわりと混ざる。
花も団子も、どちらも春だった。
どちらか選ぶ必要なんて、本当はなかったのかもしれない。
「お兄ちゃんも団子食べる? もう一本買ってくる!」
「……一本だけな」
「オッケー! そこで待ってて!」
キララは元気よく屋台へ駆けていった。
その背中に、桜の花びらがひとひら、ふわりとついていった。
投票リクエスト:花より〇〇 でキララが選ばれました
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