外伝 第3話 星々の警鐘
※挿絵はAIイラストを使用しています
四人は小さなダイニングテーブルを囲んでいた。
テーブルの上には、キララが一生懸命作ったホットケーキが山のように積まれている。
形は不揃いで焼き色も様々だが、努力の跡がたっぷり詰まっていた。
「はい!キララ特製ホットケーキだよ!食べて食べて!」
キララは自信ありげにホットケーキをアルデンの皿に差し出した。
「今日はだいぶ上手にできたんだよ!」
と得意げに言う。
アルデンも「美味いじゃないか」と笑顔でフォークを動かす。
食事が進む中、キララが無邪気な笑顔で問いかけた。
「ねえアル、AURORAの調査員になってどんなことしてきたの?」
突然の質問に、アルデンの手がふと止まる。
笑みを浮かべていた表情がゆっくりと引き締まり、場の空気が変わった。
「……そうだな。そろそろ、話しておいた方がいいかもしれない」
その声のトーンに、ピカルとキララが思わず顔を上げる。
「俺がAURORA調査員として、この数年間で見てきたものを話す」
アルデンがフォークを置き、深く息を吸った。
「お前たちには、現実を知ってもらう必要がある」
コーギーちゃんも尻尾を止め、神妙な眼差しでアルデンを見つめた。
「俺が最初に調査したのは、ベリオス星系の第三惑星だった」
アルデンの声が、静かに食卓に響く。
「そこはかつて、アルフィオスと同じような自然豊かな星だった。緑の森が大陸を覆い、清らかな川が海へと流れていた」
キララが息を呑む。
過去形で語られる美しい光景に、嫌な予感を抱いていた。
「でも俺が到着した時には……」
アルデンの目が遠くを見つめる。
「豊かだった森は、すべて焼けて荒野になっていた。大地は黒く焦げ、空は不気味な色に覆われていた」
「どうして……」
「資源の過度な採掘と、それを巡る争いだった。森を切り倒し、地下を掘り返し、最後には戦争で燃やし尽くした」
ピカルの表情が険しくなる。
それは、アルフィオスでも起こりうる未来の姿だった。
「生き残った住民たちは、わずかな食料を求めて廃墟を彷徨っていた。子供たちの目には、希望の光が全く見えなかった」
キララが小さく震える。
そんな小さな子供たちが、そんな過酷な状況にいることを想像すると胸が痛んだ。
「次に調査したアストラ星では——」
アルデンが続ける。
「かつて夜空を美しく彩っていた光の網が、完全に途絶えていた」
「光の網……?」
「エネルギー供給システムだよ。都市と都市を結ぶ巨大なネットワークで、まるで星全体が光る蜘蛛の巣のように見えていたんだって」
コーギーちゃんが補足する。
「でも俺が見たのは、暗闇に沈んだ世界だった」
アルデンの声が重くなる。
「都市は廃墟と化し、人々は明かりもない中で絶望していた。技術を維持する知識も、それを伝える人材も、すべて失われてしまっていた」
テーブルの上に、重い沈黙が落ちた。
キララの手が、知らず知らずのうちに震えていた。
それをピカルがそっと握る。
「お兄ちゃん……」
「大丈夫だ」
ピカルが妹を安心させようとするが、彼自身も動揺を隠しきれずにいた。
「まだある」
アルデンが更に続ける。
「ゼフィロス星では、政治的な対立が激化して、星が三つに分裂していた」
その言葉に、ピカルがハッとする。
アルフィオスの現状と酷似している。
「互いを敵視し、協力することを完全に拒絶していた。結果、どの領域も単独では星を維持できずに、全体が徐々に衰退していった」
「それって……」
キララが不安そうに呟く。
「そう、今のアルフィオスと同じような状況だ」
アルデンが頷く。
「エルグラン家とリアナス家の対立、荒廃地域の拡大……すべて同じパターンなんだ。加えてアルフィオスは、地球よりも小さく脆弱な環境を持っている。この地球では緩やかに進む変化も、アルフィオスでは傾きが急な坂のように一気に加速してしまう。ほんの少しの揺らぎでも、大きな崩壊につながりやすいんだ」
ピカルが拳を握りしめる。
「つまり、僕たちの星も……」
「このままでは、同じ道を辿る」
アルデンがはっきりと断言した。
「俺はこれまで、十数個の衰退した星を見てきた。どれも最初は豊かで美しい世界だった。でも今は、生命の輝きを失った死の星になっている。そこでは家族同士でさえ食料を奪い合い、古代の書物や記録は燃やされ、知識は永遠に失われていた。海は毒に覆われ、生き物はほとんど絶滅し、かつての文明の面影すら消えていた。救援の手が差し伸べられても、派閥争いと疑念によって拒まれ、結局は誰も救えなかった」
アルデンの脳裏に、救うことのできなかった無数の命が蘇る。
手を伸ばしても届かず、ただ見守ることしかできなかった星々。
崩壊の光景を前に、AURORAの調査員として記録を残すことだけが自分に許された行動だった。
中立という名の制約が、どれほど重いものかを思い知らされた。
干渉は許されず、独断で動けば他の星系に混乱を招く危険がある。
それを理解していても、見殺しにするような痛みが胸を締めつけた。
あの時もその次の星でも、何度も同じ場面を繰り返した。
何もできずに失われていった命の光が、今も心の奥で消えない傷として残っている。
その言葉の重みに、部屋全体が静寂に包まれた。
コーギーちゃんも、普段の軽い調子を忘れて真剣な表情を浮かべている。
「でも……」
キララが震え声で言う。
「きっと何か、救う方法があるはずだよね?」
アルデンがキララを見つめる。
その瞳には、まだ希望の光が宿っていた。
「ああ、だからお前たちが地球にいるんだ」
口元はかすかに微笑んでいるものの、その表情の奥には数々の惨状を見てきた者特有の深い影が差している。
「地球には、まだ可能性がある。この星は分岐点にいる。環境問題や社会の対立はあるが、まだ完全に諦めてはいない」
ピカルが顔を上げる。
「僕たちが学ぶべきことは……」
「希望を捨てずに協力すること。分裂ではなく、統合を選ぶこと」
アルデンが力強く言う。
「そして何より、未来への意志を持ち続けることだ」
キララがゆっくりと頷く。
「分かった……私たち、頑張る」
「お前らなら大丈夫だ」
アルデンが優しく微笑む。
「俺が見てきた衰退した星々にも、かつてはお前のような希望に満ちた人たちがいたはずなんだ。でも、どこかで諦めてしまった」
「僕たちは諦めない」
ピカルが決意を込めて言う。
「アルフィオスを救ってみせる」
「お兄ちゃん……」
キララが兄を見上げる。
「私も、アルと約束する。絶対に希望を捨てないって」
アルデンが感動したような表情を見せる。
「ああ、その言葉を聞けて良かった」
そして、少し照れたように頭を掻く。
「まあ、俺も故郷への愛着もあるし、最後まで付き合ってやるからな」
コーギーちゃんが尻尾を振る。
「ボクもだよ!AURORAとして、最後まで支援する!」
重い現実を聞いた後でも、希望を失わない兄妹の姿に、アルデンは心から安心していた。
この子たちなら、きっと違う未来を作れる。
そんな確信を胸に、アルデンは再びフォークを手に取った。
「さあ、キララのホットケーキ、冷めないうちに食べよう」
「うん!」
キララの笑顔が戻る。
現実は厳しい。
でも、希望はまだ残っている。
窓の外で、地球の夜空に星が瞬いていた。
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