外伝 第2話 救いの赤き影②
外伝 第2話 救いの赤き影①の続きになります
※挿絵はAIイラストを使用しています
どれほどの時間が経ったのかも分からない。
空腹すら感じなくなり、ただ時間だけが過ぎていく。
キララの呼吸は浅くなり、額の傷からの出血も止まらない。
「キララ、起きて…… お願いだから……」
ピカルが泣きながら妹を揺さぶったが、反応は薄かった。
(僕があの時連れてこなければ……こんなことには……)
小さな肩を抱きしめる腕に、罪悪感と恐怖が重くのしかかっていた。
(もしキララが目を開けなかったら......)
そしてこのまま息をしなくなるかもしれない。
その想像が脳裏をかすめた瞬間、全身が凍りつくような恐怖に襲われる。
胸の奥で何かがひび割れ、呼吸すら苦しくなる。
ピカル自身もその恐怖と後悔に押し潰されそうになり、声を詰まらせながら涙を流していた。
そんな絶望的な状況の中で——
「おい!そこに誰かいるのか!?」
外から若い男性の声が聞こえた。
「ここです!僕たち、ここにいます!」
ピカルが必死に叫ぶ。
「分かった!今助けるからな!」
瓦礫を掻き分ける音が聞こえ始めた。
一人で重い石材を動かしているようで、時折うめき声も聞こえてくる。
当時15歳だったアルデンは、泣き声を頼りにこの場所にたどり着いていた。
ちょうどその頃、行方不明になった子供たちの捜索願が出され、境界集落から支援地区へと急行していた捜索チームの一員として現場に駆けつけていたのだ。
遠方で崩壊音を聞いた事もあり、真っ先に現場へ走ったのがアルデンだった。
「ここから中に入れそうだ」
体格的にまだ小さなアルデンが、一番狭い隙間から中に入り込もうとしていた。
「危険だ、アルデン!」
「大丈夫です!俺が一番小さいし、機敏に動けます!」
「無茶をするな!お前まで巻き込まれるぞ!」
「でも子供たちが待ってるんです!」
アルデンの決意は固かった。
大人たちが外側から重い瓦礫を取り除く間、彼は狭い隙間をくぐり抜けて建物の中に入った。
「よし、中に入れた!大丈夫か!?」
「はい……!」
ピカルが安堵の声を上げる。
キララを抱きしめながら、間近に迫った救助を待った。
「まず小さい子から出すぞ!外で医療班が待ってるから!」
「キララが怪我して....!」
「分かった!慎重に連れていく!」
アルデンは細心の注意を払いながら、意識の朦朧としたキララを抱え上げた。
外の大人たちと連携して、安全に彼女を救出する。
そしてピカルも無事に建物から出ることができた。
外の光がまぶしかった。
二人とも泥と埃にまみれて、特にキララは血を流していたが、命に別状はなかった。
既に到着していた医療班がキララの手当てを始める。
「ありがとう……ございました……」
ピカルが涙と安堵でぐちゃぐちゃになりながら、アルデンにお礼を言った。
「無事で良かった」
アルデンが優しく微笑みかける。
捜索隊の大人たちも安堵の表情を浮かべていた。
「アルデン。君がいなかったら、もっと時間がかかっていたかもしれない」
「いえ、みんなで力を合わせたから助けられたんです」
その時、キララがうっすらと目を開けた。
「おにい.…ちゃ……?」
「キララ!」
ピカルは反射的に駆け寄り、妹の傍へ身を投げ出した。
「この人が助けてくれたんだよ」
ピカルが説明すると、キララはぼんやりとアルデンを見上げた。
「ありが.…と……」
か細い声だったが、確かにお礼の言葉だった。
「どういたしまして、お嬢ちゃん」
アルデンが頭を撫でてくれると、キララは安心したように小さく微笑んだ。
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「あの時は本当に……」
現在に戻って、ピカルが深くため息をついた。
「アルデンが来てくれなかったら、僕たちはどうなっていたか……」
「まあ、結果的に無事だったから良いじゃないか」
アルデンは相変わらず軽い調子だったが、その目には当時の真剣さが宿っていた。
「あの時から、アルデンは僕たちにとって特別な存在なんだ」
「照れるじゃないか」
ピカルの言葉にアルデンが頭を掻きながら苦笑いする。
当時、あの有名なリアナス家の子供を救ったという事実だけでも、周囲から英雄扱いされていたことを思い出していた。
「でも、あの時から決めてたんだ」
キララが真っ直ぐにアルデンを見つめる。
「アルみたいに、困っている人を助けられる人になりたいって」
その言葉に、アルデンの表情が少し驚いたように変わった。
「そうか……そんなことを」
「うん!だから今、地球でいろんなことを学んでるの。いつか、誰かの役に立てるように」
キララの純粋な想いに、部屋の空気が温かくなった。
「立派になったじゃないか」
「そうだな」
ピカルも柔らかくキララを見ながら頷く。
その姿を見つめるアルデンの胸に、かつての記憶がよぎった。
あの崩落事故で二人を救い出したあとも、ピカルは長い間、自分を責め続けていた。
妹の額の傷を見るたびに顔を曇らせ、笑うことすら躊躇うようだった。
幼いながらに抱えた罪悪感は、年月が経っても薄れることはなかったのだ。
アルデンはそんなピカルの当時の姿を思い出し、胸の奥が痛んだ。
口には出さないが、あの出来事が兄妹の絆の形を決定づけ、ピカルを今のような過保護な兄にしたのだと、静かに感じていた。
そう思う一方で、誇らしさを感じていた。
あの時の小さな兄妹が今ではこんなにも立派に成長し、アルフィオスの未来を救うために地球で奮闘している。
(ここでの経験が更に彼らを成長させるんだろうな)
フッと口元が緩んだ。
「まあ、とにかく」
アルデンがカップを置く。
「あの時の借りは、一生かけて返していくつもりだからな」
「借り?借りなんて……」
「いや、あるんだよ」
アルデンが真面目な顔で言う。
「お前たちは俺に、人を守ることの本当の意味を教えてくれた。それは今でも、俺のAURORA調査員としての原動力になってる」
その言葉に、2人とも少し驚いた。
いつも軽い調子のアルデンが、こんなに真剣に語ることは珍しい。
「だから、お前たちの未来も、俺が守ってやる」
「アル……」
キララが感動して目を潤ませる。
「ちょっと、格好つけすぎじゃないか?」
コーギーちゃんが茶化すように言うと、アルデンの顔が急に照れたような表情になった。
「う、うるさい!たまには良いこと言っても良いだろう!」
その慌てぶりに、みんなが笑い出した。
やっぱり、アルデンはアルデンだった。
過去と現在、そして未来への希望が、小さな部屋の中で静かに繋がっていた。
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