序章 終わりの星、始まりの兄妹①
※挿絵はAIイラストを使用しています
この星、アルフィオスはかつて光に満ちていた。
自然と文明が共に息づき、空を駆ける通信は、世界の果てをも結んでいた。
技術と文化が調和し、人々は星と共に暮らしていた。
だが、それは過去の話。
資源は枯れ、文化は失われ、記録を担っていた一族は、真実と共に追放された。
誤った支配が続くうちに、星はゆっくりと、確実に崩れていった。
今、アルフィオスは、かろうじて命をつなぐ星となった。
統治を担うエルグラン家の領域は、繁栄の頃の半分以下。
民の暮らしは不安定で、災害や戦火に脆い。
一方、記録と知を継ぐリアナス家は、限られた領域で自給自足の暮らしを守り続けている。
だがそれも、いつまで続くかは分からない。
星を治めるエルグラン家も、もはや絶対的な信頼を得ているとは言いがたい。
支配の象徴だった彼らの権威は、時代の変化とともに徐々に色あせ、民の不安とともに揺らぎ始めていた。
住民たちの間では、こうささやかれるようになった。
「この星はもう、終わるしかない」と。
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星を治める若き次期当主・ノヴァは、父から受け継いだ「統治の最終試練」として、星の再生を命じられた。
「お前に統治者の資格があるのなら、この滅びゆく星を止めてみよ。これが最後の試練だ」
脳裏に、あの燃えるような光を宿した冷ややかな瞳を向けてきた父の姿が浮かぶ。
重く響いた言葉が、今も耳の奥で再生される。
「はぁ‥‥‥」
口から出るものは空虚な溜息ばかり。
夜の静けさに包まれた執務室。
手元の灯りだけが微かに揺らめき、 ひとり佇むノヴァの冷徹な視線が机に散らばった資料をじっと見据えていた。
「ハッ、父上やその前の代でも手を打ち尽くしたというのに? これ以上何をしろと‥‥‥」
あまりの無理難題に、苦い顔をして皮肉めいた笑いが洩れる。
こんな希望もない、未来もない地に何をすればいいのか。
黙ってこのまま星と運命を共にするのか。
「‥‥‥馬鹿馬鹿しい」
そんな運命に縛られているなんて御免だ。
古いやり方ばかりを守ろうとする先代や周囲にもううんざりだ。
「この星の未来は、俺が切り拓く。手段は──選ばない」
炎が揺らぐ先、ひときわ古びた資料が視界に映る。
そこに記された一族の名──リアナス。
ノヴァの瞳に、かすかな光が宿った。
だがその一方で、ノヴァの胸の奥には、確かに引っかかるものもあった。
リアナス家。
かつてエルグラン家と共に星を支えていた分家。
しかし星の衰退をめぐる意見の対立から、120年前に決裂。
あの時、記録の改ざんという汚名を着せられて追放されたリアナス家の真意は、ノヴァ自身すら正確には知らない。
父は多くを語らず、周囲はリアナスを異端と断じた。
だが最近になって、失われた記録や古い文献に触れるにつれ、ノヴァの中に小さな疑問が芽生えていた。
──果たして、全てが真実だったのか?
そして自分は今、かつての父たちと同じ過ちを繰り返そうとしているのではないか?
そんな思いを胸に秘めながらも、ノヴァは静かに立ち上がった。
「……ならば、真実を見極めるためにも、動くしかない」
その決意と共に、彼の視線は遠くに向けられる。
かつて星の知を担った一族が静かに暮らす、記録の地へ。
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薄く光の差し込む静かな空間。
そこは、かつての知識と記録を蓄積した“記録の間”。
リアナス家が長きにわたって守り続けてきたこの場所で、ピカルは一人、今日も分厚い記録資料を広げていた。
その表情には穏やかさと知性が宿り、どこか静けさをたたえた佇まいが印象的だ。
頭には、リアナス家の守護者に代々継がれる象徴〈守冠〉が静かに置かれている。
見た目は繊細な装飾が施された小ぶりな王冠。
その内部には星の記憶装置と繋がる機構が備わっており、過去の記録や知識にアクセスできる。
日常的に着用するものではなく、記録の閲覧や星との交信といった特別な場面にだけ使われる、神聖な装具だ。
整然と並ぶ書架、時折浮かび上がるデジタル映像の光が、無言のまま集中する彼の横顔を淡く照らす。
「‥‥‥星全体の人口推移は、前期から約4.2%減‥‥‥再生可能エネルギーの稼働率は‥‥‥」
目を細めながら、ピカルは記録を読み進め、静かに分析していた。
まるで、この星の鼓動に耳を傾けるように。
そこに、ひとつの通達が届いた。
記録の間の中央端末に、統治府からの封印付き通信が表示され、ピカルの手が止まる。
端末に映し出された“差出人”の名を見た瞬間、彼はわずかに顔をしかめた。
「‥‥‥この名前は‥‥‥」
エルグラン家とリアナス家は、かつて星を支える両輪であり、役割を分かち合う存在だった。
だが約120年前、星の衰退をめぐる判断の違いから対立が起き、ついには決裂に至った。
当時リアナス家が提出した予測は、星の存続に関わる重要な警告だったが、その一部は統治者一派の手によって意図的に改ざんされたと言われている。
その結果、リアナス家は“虚偽の報告”を理由に追放されることとなり、両家の溝は決定的となった。
以後も公の場では協力の姿勢を見せているが、実際には深い不信が続いている。
ピカルにとって、エルグラン家の名は、決して快い響きではなかった。
歴代の記録や、伝聞から伝わる彼らの印象は、決して良いものではない。
直接の面識はないが、リアナスの血を継ぐ者として、その名に心地よさを覚えることはなかった。
だが、無視するわけにもいかない。
相手は、この星の統治者だ。
「‥‥‥行くしか、ないか」
序章②に続きます。
ピカルの守冠の部分ですが、一部アニメーションとしてshote動画を作ってあります。
ご興味あればぜひご覧ください。
https://www.youtube.com/shorts/KY2bydbOMsE




