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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜拠り所〜 七十三話 英雄の遺産

 待ってましたぁ、と言わんばかりの表情で、くたびれたオッサン──タタンは、アレルに縋りつく。


「旦那ぁ、旦那ぁぁ!? ······ヘバッてんだ? じゃ、ありませんよッ! も〜う、商会の連中はこき使ってくるし、組合からは大目玉食らうしで大変だったんですよ〜!」


「自分で蒔いた種だろ? 不当に利益を得ようとした罰だ」


 アレルがそう言うと、タタンは一瞬だけ敵意とも憎しみとも取れる視線を向ける。でも、それでは状況が変わらない事も判っているのか、直ぐに下卑た笑みを浮かべる。


「そ、そんな事言わないで、助けて下さいよ〜。このままだと、パメラさんに──」


 と、自身の名前が出た所で、アレルの背中に隠れていたパメラが、ぴょこっと顔を出す。

 そして、ヤッホーとタタンに手を振る。


「私がぁ、なんだってぇ?」


「ヒッ、ヒッィィィィ!?」


 パメラの顔を見た瞬間、刹那的に表情が死んだタタンは、その次には大仰に尻餅をついて気味の悪い悲鳴を上げる。

 そうして、言葉を失ったタタンにパメラは首を傾げる。


「あらあらぁ? アレルちゃんに話し掛けてきた時はぁ、この若造のせいでとでも言いたげな目をしていたのに、私にはそんな態度なのぉ?」


 アワワワ、と声にならない音を漏らしながら、タタンは奥歯をガチガチ鳴らしてしている。

 最早、タタンは断頭台にて刃が振り下ろされるのを待つ事しか出来ない様な状態なのに、パメラはそんなタタンでも容赦はしない。


「あのねぇ、言ってなかったけど、あなたがまだコルトにいられるのは許されたからじゃないのよぉ。ホントはねぇ······お前なんて、店ごと消してしまおうと思ったけど、それだとアレルちゃんが気にするだろうから止めただけ。だから、お前がアレルちゃんに何かするつもりなら、本気で消すわよ」


 シン──、とまるで時の流れまでが凍りついた様に感じる程の、瞬時に凍傷になりそうな冷たい声がパメラから発せられる。

 そんな普段の喋り方との落差から、タタンはようやく自身の置かれている状況が理解出来たようだった。


「ヒッ!? い、いえ、違うんですよッ! 私は、ただ──」


「目障りよ」


「は、はいィィ! 申し訳ありませんでしたぁッ!?」


 パメラの言葉に、その意を汲んだタタンは、声を裏返しながらも立ち上がるより先に四つん這いで動き出す。

 そして、ようやく立ち上がると、逃げる様に──否、まさしく脱兎の如くその場から走り去った。


「う〜ん、あれ私にじゃなくてぇ、アレルちゃんに謝っていれば良かったんだけどぉ······」


「いや、パメラはタタンに一体何をしたんだよ?」


 アレルは、タタンのあまりの反応に、自身のやや後方にいるパメラに訝しげな眼差しを向ける。

 しかし、当のパメラは下唇に人差し指を当てて明後日の方を見る。


「え〜、私は何もしていないわよぉ」


(ああ、『私は』何もしてないんだな)


 パメラの口振りから、パメラ自身は何もしていないが、誰かはしたのだろうなとアレルは悟る。

 すると、パメラは突然アレルの背中を押し始める。


「もう、あんなのの事はいいじゃな〜い。積み込んだ荷物の確認をしましょうよぉ」


 さすがに、あんなの呼ばわりはないんじゃないかと思いつつ、アレルはパメラにも触れられたくない事があるんだろうと、されるがままにする。

 そうして、アレルは車庫内で入口側に荷台が向けられた馬車の前までやって来る。中には、既に商会の人間はおらず、タタンと話している間に退去したようで、外に数名が残っているのみだった。

 そこで、アレルは自身の背を押すのを止めたパメラに向き直る。


「なあ、積込みまでしてくれたのは助かるが、目録みたいなものはあるか?」


「あるわよぉ。ついでに、見積書もわたすからぁ、最終的な料金に関しては交渉してあげるわぁ」


 そう言いながら、パメラは自身の胸に手を突っ込み、折り畳まれた紙を取り出す。


(······最早、何も言うまい)


 パメラの初動で、その動きを予測したアレルは、両目を片手で覆ってそれを見ない様にする。

 そこへ、はいっとパメラの声がしたので、アレルはそのまま左手を差し出す。すると、左手に紙の感触が乗ったので、アレルはそれを受け取る。

 それから、アレルは右手をゆっくりどかして、左手の紙を開く。だが、しばらく眺めた後で、アレルは再び右手で両目で覆って天を仰いでしまう。


「······悪い、文字が読めないの忘れてた」


 そう言って、アレルは天を仰いだまま申し訳無さそうに、パメラに目録と見積書を返そうと差し出す。

 すると、パメラは茶化す事なく、アレルの注意を引く為かアレルの肩をつついてくる。


「······何だ?」


 アレルは、目を覆っている指の隙間からパメラを見る。


「たしかぁ、アレルちゃんって違う国の人よねぇ? それなら、別に読めなくても仕方がないわよぉ」


「そう······なのか?」


 アレルは、ルクスタニアや他国の識字率なんて知らない為に、怪しまれない様に探り探りパメラに確認をする。


「ええ。アレルちゃんの出身は判らないけどぉ、国によって使用されている文字は違うから他国の文字を読めない人は少なくないわよぉ。一応、アレルちゃんに渡したのは公用文字で書いているけどねぇ」


 そう言いながら、パメラはアレルの手から目録と見積書を受け取る。


「その公用文字すら知らないって奴は、さすがに珍しいんじゃないか?」


「そうでもないわよぉ。少なくともぉ、ヒト族の国同士で戦争していた頃には無かった文字だし、作られたのは亜人戦争が始まった頃とかじゃなかったかしらぁ?」


 そうして、文字文化の歴史の様なものを思い出すパメラに、アレルは疑問をぶつける。


「それって、協力する際の利便性を優先したって事か?」


「そういう事だったんでしょうねぇ。それでもぉ、言葉自体は二千年前にエウロス様の奇跡の一つでぇ、『相互理解の為に全ての人間に共通言語を授けた』なんてものがあるから、どの国に行っても言葉だけなら通じるのよぉ」


「じゃあ、言葉は通じていたのに、文字文化だけはその······亜人戦争? が起こるまでは、別々のものを使っていたのか?」


「まあ、意地の張り合いみたいなところもあったんでしょうねぇ」


(なんか、意外なところで言葉が通じる理由を知った気がする)


 アレルは、アリシアと会った時の疑問が、二千年前の英雄の奇跡だった事に衝撃を覚える。


「それにしても、文字が読めないのは不便だな」


「そう? じゃあ、ロナちゃんが来るまでもう暫く掛かるだろうしぃ、私でよければ目録の確認をしながら教えてあげるわよぉ?」


 ひらひらと、目録と見積書を振りながら、パメラはアレルに訊いてくる。

 それは、アレルにとっては渡りに船なので、警戒する事なく素直に頷く。


「ああ、助かるよ。ありがとう」


「はぁ〜い、頼まれましたぁ! ちょっとぉ──」


 素直なアレルに気分を良くしたのか、パメラは少々大袈裟に手を上げて応えると、車庫の外で待機している商会の人間を呼びに行く。

 そんなパメラの背中を眺めながら、アレルは本当に世話になってばかりだなと、内心申し訳ない気持ちになるのだった。



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