一章〜拠り所〜 七十一話 読み切れない真意
パメラの言葉に、アレルは外套に隠れた騎士剣を左手で触れ、コルトに入ってからの行動を振り返る。
(そうだな······騎士剣は基本外套の下だったし、外した覚えがあるのもロナの所とカーペンターぐらいだったはず。今日もカーペンターで外したけど、あそこの連中はパメラのファンクラブみたいな奴等だから問題は無いだろう)
「ロナの所とカーペンターで外したぐらいだ。何か、問題あるか?」
「それならぁ、いいんだけどねぇ······」
「?」
いつになく、歯切れの悪いパメラの言い回しに、アレルは引っ掛かりを覚える。
「······詳しくは、ロナちゃんが来てから話すけどぉ──」
そう言いながら、パメラはアレルの耳元に顔を近づけて小声で囁く。
「──少し離れた所で、誰かに殺された二人の騎士風の遺体が見つかったの。たぶん、二人は傭兵なんだろうってウチの子が言ってたから、ロナちゃんに確認したらアレルちゃんがコルトに来る前に一悶着あった人達かもって。実際、片方は剣を持っていなかったから、変に疑われない様にアレルちゃんの剣は早めに手放した方が良いわ」
「なっ!?」
急な話で、動揺を隠せないアレルにパメラはそのまま続ける。
「アレルちゃんの剣については、ロナちゃんに聞いているから安心して。他の誰も知らないはずよ。ただね、その二人を殺したのが暗殺者だった場合は、いつも以上に注意して。ルクスタニアでは、騎士道が重んじられていて暗殺とかいった類のものは忌避されているの。でも、それ故に数少ない国内の暗殺者はその分実力者なのよ。ただ気掛かりなのが、この国では暗殺者って蔑視されている傾向があるから、そもそも暗殺者に依頼する人間がほとんどいないはずなの。その辺りがまだ不明瞭だから、アレルちゃんは気を付けてね」
そう言って、パメラはアレルから身体を離す。
パメラが囁く内容に、衝撃が走ったアレルではあったが、無理矢理にでも頭を働かせる。
(林で遭遇した、あの二人が殺された!? パメラの言い方から察するに、殺され方もそういう仕事に慣れた奴の仕業って、見ただけで判るものだったんだろう。······ただ、アイツ等を殺して何になる? 離反に対する処罰か? いや、それにしては動きが早過ぎる。監視者がいた? それなら、メリルとミリアが捕まった時点で姿を現してもおかしくはない。······一旦、落ち着こう)
アレルは、そう思い一度だけ深呼吸をする。その様子を心配したのか、パメラが声を掛ける。
「アレルちゃん、大丈夫ぅ?」
「ああ」
だが、アレルはそんなパメラの気遣いに気付かずに生返事を返して、再び考えを纏め始める。
(まず、考えるべきは傭兵二人を殺す理由。それから、実行犯と指示役の現在地か。······あの二人が生きていて困る事といえば、アリシア達と接触した事ぐらいだ。ただ、それを言いふらされて困るのはアリシア達だ。でも、アリシア達が暗殺者を雇うなんてありえない。つまり、他に言いふらされて困る奴がいるって事になる。だが、ソイツはクーデター派の傭兵を殺した事から、クーデター派の人間ではない第三者の可能性が高い)
アレルは、推測ではあるが姿の見えない第三者の存在に、ギリッと奥歯を噛み締める。
(しかも、最悪なのがソイツと暗殺者がコルトにいる可能性がある。傭兵二人が昨日の今日で殺されている事、ジョンドゥがアリシア達らしき人物の噂が出回っていると言っていた事から、その噂が広まっている範囲······北東の町からコルトにかけての範囲に今回の殺しに関わった奴がいるって考えられる)
そんな事を考えているせいか、アレルは余程険しい表情になっていたのだろう。それを気にしてか、パメラがアレルの肩を叩く。
「アレルちゃん? 何かわかったのぉ?」
「ああ、結構切羽詰まった状況なのかもしれないってのが判った」
「どういう事ぉ?」
「要点だけ話す」
アレルはそう言うと、口をパメラの耳に近づけて小声で囁く。
「今回、傭兵を殺した奴がそれを頼んだ奴と一緒に、コルトから北東の町にかけての範囲に潜伏している可能性がある。あの傭兵達は、ある任務に失敗したんだが、それを知るのが早過ぎる」
それだけ言って、アレルが身体を離すと、目を開いたパメラがアレルを見詰めていた。
「分かったわ。そっちは、私もどうにか動いてみるわ。······さて、そろそろ私達も馬車の方へいきましょぉ」
そう言って、パメラはいつもの顔に戻ると、油断していたアレルの腕を取る。
「オイッ」
不意をつかれ腕を取られたアレルは、腕を放させようと抵抗する。
しかし、それは続くパメラの言葉で制止させられる。
「アレルちゃんには、本当に感謝しているのよぉ」
「は?」
話が、突拍子も無い動き方をした為に、アレルは面食らってしまう。
そんなアレルに、パメラは微笑みを浮かべる。
「この国ってねぇ、本当に暗殺とか暗器とか邪道なものを軽蔑してるのよぉ。だからねぇ、ロナちゃんが抱えていた苦しみは、本人以外が簡単に推し測れるものではないのよぉ」
「······まあ、だろうな」
どうにか腕を放させようとしていたアレルだったが、パメラの話す内容に勢いを削がれてしまった。
なので、アレルはパメラに腕を取られたまま大人しく話に付き合う。
「それでぇ、アレルちゃんはたぶん、私やロナちゃんが自分に良くしてくれる事に引け目を感じていると思うのねぇ。だけどぉ、アレルちゃんは私達がどれ程感謝しているかも解らないでしょぉ?」
「まあ、な」
「それじゃあ、これからも私やロナちゃんが、アレルちゃんを助ける事に遠慮したらぁ······ダ・メ・よぉ」
そう言って、パメラはアレルの腕に、わざとらしく自身の胸を押し付けてくる。
しかし、それが何かを誤魔化そうとしていると勘づいたアレルは、心底嫌そうに空いてる手でパメラの腕を外しにかかる。
「お前はッ、ちょっとあからさま過ぎるぞッ」
そうして、アレルは自身の腕をパメラから引き剥がし、そのパメラを睨みつける。
「あらぁん?」
パメラは、引き剥がされた腕を名残惜しそうに見ながら、首を傾げる。
「話も脈絡がなさ過ぎるし、急に感謝とかなんとかって、一体何なんだ?」
とぼけるパメラを前に、アレルは立ち止まって疑惑の目を向ける。
自分達もどうにか動いてみる、そう言ってからパメラの言動はおかしくなった。それが、何を意味するかなんてアレルには判らない。
ただ、この会話が何かしらの対策を考える為の時間稼ぎだったのなら、もしもパメラ自身が何か危険な事をする覚悟を決めている最中だとしたなら、アレルはこのまま黙っている訳にはいかなかった。
しかし、当のパメラは我存ぜぬといった感じで、アレルの前でニコニコとしている。そして、パメラはアレルの目をまっすぐに見詰めながら、その口を開く。
「何かねぇ······あるわよぉ。それはねぇ」
「それは?」
「私がぁ······」
「パメラが?」
「アレルちゃんに、一目惚れしちゃってたって事ぉ! キャアァ、言っちゃったぁ!」
「············は?」
予想外の言葉に、呆気にとられるアレルを他所に、パメラは恥ずかしいと言いながら両手で顔を覆う。
そんな嘘や誤魔化しだと簡単に判る一言に、何故かアレルは完全にパメラの真意が読めなくなっていく。




