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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 六百八十九話 明かされるもの

 実際、不思議な感覚だなとルチアーノは感じる。これまでは、ほとんど自分の意思で動く事などしてこなかった為か、どこか不安にも似た気持ちと変な高揚感(こうようかん)の様なものも同時に感じてしまう。

 これも、全部はあの甘過ぎる朱羽根のせいだと自分に言い訳をして、ルチアーノは今(みずか)らが排除すべき敵を(にら)みつける。


「待って下さい、普通そんな者がいるなら客の方にいると思うではありませんか?」


「そうですね······ですが、私は宿の中にと言ったので従業員の中にと思ってしまってもおかしくはなかったはずです」


 これは暴論だと、ルチアーノ自身も解っている。しかし、この暴論はガロンからある言葉を引き出す為の布石(ふせき)だ。何故なら、ある意味突き抜けた正論とも言える暴論を叩き伏せるには、ド正論でありとあらゆる可能性(逃げ道)を潰していき正面から叩き潰さなければならない。

 それ故に、ガロンは証拠の無い証明を正論で説明するしかないという(わな)(はま)り、(みずか)ら現状で存在するかも判らない正論を探し始めるしかない。


「いや、代理こそ支配人代理という立場にあって従業員という仲間を最初に疑ったんですか? それこそ、私達に対する裏切りになるのでは?」


「それは違いますね。私共が誠意を尽くさねばならないのは、常にお客様に対してです。そのお客様を、最初に疑う事など私の立場だからこそ出来ません」


「······それなら、従業員としての立場で言わせてもらいますが、その様に共に働く仲間を疑って一度きりかもしれない客の方を優先するなんて、代理こそ少しおかしいのではありませんか?」


 ガロンの声の中に、少しずつ苛立(いらだ)ちの様なものが混じり始める。それでも、まだ足りないとルチアーノは攻めの姿勢を崩さない。


愚問(ぐもん)ですね。一度きりだと思うからこそ、礼を尽くして対応するのです。私は、上の者からその様にして宿の業務を行うのだと教えられました。しかし、あなたはどうですかガロン? 気付いていないかもしれませんが、あなた先程からお客様(・・・)ではなく()と口にしてますよ。それこそ、あなたが私達とは違って従業員としての心構えが出来ていない事の表れなのでは?」


「クッ······た、確かにその通りかもしれませんが、客ッ──お客様の中にだって怪しい人間だっているだろ?」


 動揺からなのか、ガロンは客への呼び方を改めるも言葉遣いの方が(おろそ)かになってくる。そこへ、ルチアーノはダメ押しとばかりの一言を言い放つ。


「それこそ、先程あなたが口にした様に一度きりのお客様ならば宿を出て行った瞬間に、どんなに怪しかろうが関係なくなります。(むし)ろ、不味(まず)いのは従業員の中にいた場合なので、この際疑わしい者は一斉(いっせい)解雇(かいこ)するのもありかもしれませんね」


「ふ、ふざけんなッ! そんな理由で解雇(かいこ)されるなんて、理不尽過ぎるだろ? 何より、怪しいってんなら客の中にいる黒髪で(たま)に瞳が黄色っぽく光って見える奴の方が怪しいじゃねえかッ」


 ガロンは、椅子から立ち上がってまで自身の正当性を(うった)える。何をそこまで必死になるのか、ルチアーノには解らない。しかし、その一言で勝敗が決したと判断したルチアーノはため息を一つ挟む。


「······何故、あなたがアレル様の特徴を知っているのですか?」


 ルチアーノは、二階廊下でのいざこざの際にアレルの瞳の色が僅かに変化していた事に気付いていた。ガロンは黄色と口にしたが、それは琥珀の様な煌めきを宿した瞳だった。

 加えて、その変化はアレルの口振りから感知能力を使用している時に出る反応と考えられる。そして、甘さがあるが(みょう)な所で警戒心の強いアレルが、その状態で誰かが潜んでいるのに気付かないとはルチアーノには思えない。

 そこを踏まえると、明らかにガロンの発言はおかしい事が判る。確かに、二階での事があって以降アレルの瞳の色は変化したままであったが、それではガロンはいつそれを目にしたのだろうかという話になる。一階に下りる間も、途中でガロンにすれ違う事も無かったしアレルの方でも人目を避けたいただろうから機会は無かったはずだ。

 つまり、ガロンはアレルの特徴を目にした誰かに、その話を聞いたという事になるとルチアーノは結論づける。


「は、はあ? そんなの、他の奴が噂しているのを聞いて──」


「それは無いですね。あの人は、元は黒い瞳の(かた)です。仮に、他の誰かが見ていたとしても黄色だなんて口にはしませんよ」


「うっ······そ、そうだ! ここに来る途中で──」


「あなた、私よりも先にここへ来てましたよね? アレル様よりも先に一階へ下りた、私達よりも先に」


 そうして追い詰めると、ガロンは反論する(すべ)を失ったのか、テーブルへ両手をついて(うつむ)いてしまう。

 その様子に、意外と呆気(あっけ)なかったなとルチアーノが思っていると、急にガロンがケタケタと笑い始める。


「はぁ〜っと······せっかく(もぐ)り込んだのに、つまらねえ事で無駄にしちまったぜ。せっかくだから、この立場をもう少し利用してやろうと思っていたのに」


「······それは、自白と(とら)えてよろしいので?」


「ああ、構わないぜ。どうせ、依頼者に言われて連中が事を起こす前に、アンタ等の商会へ(もぐ)り込めって話だったからな」


 ガロンは、本性を露見(ろけん)させると共に、着苦しかったのか従業員服を着崩していく。それを、不快に感じつつもルチアーノはガロンへ(たず)ねる。


「その狙いは、何だったのですか?」


「とある人物の暗殺、別に言わなくてもアンタ等なら判ると思うけどなぁ?」


「さあ、どなたの事なのか皆目(かいもく)見当もつきませんね」


 どこか、こちらへその名を言わせようとしてくる気配をガロンから感じたルチアーノは、そう口にしてガロンの追求を(けむ)に巻く。そんなルチアーノの反応に、ガロンは舌打ちを返してくる。


「やっぱ、この程度で口にはしねえか。まあ良いや。どんな事になってんのかは知らねえが、狙われてんのは王都にいた高貴な(かた)ってところだろ? 依頼内容が、公国側へ逃げる気配のある奴が来たら殺せって話だったからな」


「······それで、何故商会への潜入が必要に?」


「言われたんだよ、その逃げてる奴は商会関係の宿へ泊まるからってな。まったく、面倒だったぜ。なんせ、どこに配属されるかも判らねえし、言葉遣いなんかも気を付けなきゃならねえ。まあ、運良くここに配属されても標的が来るかも判らねえ······それなのに、今日は笑えたぜ。弟のちょっかいに、ものの見事に引っ掛かるそれっぽいのが現れたんだからな」


 その言葉から、ルチアーノはガロンの弟なる者が道中でアレルへ何かをしたのだろうと察する。それを、その警戒心の高さから追い払うか何かをしたせいで、アレルは目をつけられたのだとルチアーノは考える。


「······逃亡中は、他者を寄せ付けたくなくなりますからね」


「その通り。それで、弟からどんな奴だったかを聞いた俺が待ち構えていた所へ、ノコノコやって来たもんだから連中の言う標的がこれなんだって確信したんだよ。だから、その後は前もって準備してた奴等を使って仕掛けさせてもらったって訳だ」


 ガロンはそう言って、ここまでの行いを全て自白する。しかし、その反省や諦めが感じられない姿勢に、まさかと思ったルチアーノは身構える。

 すると、ガロンは右手の(てのひら)をルチアーノへ向けてきて一言だけ(つぶや)く。


「······風掌(エア・パルマ)


 瞬間、ルチアーノへ不可視の衝撃が放たれ、ルチアーノが防御の為に交差させた両腕諸共(もろとも)背後の扉へルチアーノを吹き飛ばす。


「──グッ!?」


 叩きつけられた衝撃に、ルチアーノは息を漏らしてしまうが、魔法名を口にするものの為に威力自体はそれ程高くはない。この程度ならば、この場でどうにか出来ると感じたルチアーノだったが、対するガロンは(てのひら)をルチアーノへ向けたまま再び何かを口にし始める。


「我が魔力を(かて)に、吹き(すさ)ぶ風よ、我が眼前に(たたず)む者に──」


 その途中で、自身の不利を悟ったルチアーノは急いで扉から部屋の外へ出て、即座に扉を閉める事で自身の盾とする。しかし、次の瞬間──ルチアーノは、破壊される扉ごと廊下の壁へと叩きつけられるのであった。



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