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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 六百六十四話 義理の親子の事情を察する

 人の(ごう)の深きこと、結局は何かの始まりには人の欲望が関わっていて、それが巡り巡っていずれ災いと成す。例え、世界が違ってもそこに暮らす人の根幹(こんかん)となる部分には変わりがない。

 それでも、欲を持つなと極端な事は言えず、言い方を変えれば欲とは向上心と言えなくもなく最たるものが願いとも言える。(おおむ)ね、人とはそういうものがあってこそ初めて何かを目指して動き始める事が出来ると考える事も出来る。

 そう考えるアレルは、(みずか)らも望む事があるからこそ困難に立ち向かえている自覚がある為に、欲望の全てを否定する事など出来はしない。そう思い表情に影を落とすアレルへ、瑠璃が声を掛けてくる。


 ──主様? どうかされましたか?


(ん、いや······何でもない。話してくれて、ありがとな瑠璃)


 ──いえいえ。でも、先程の方がこちらへ戻って来るみたいなので、ルリは姿を隠しますね。


(ああ、解った)


 精神感知で、アレルが言葉を返すと直ぐに瑠璃はアレルの肩からフードの中へとその身を隠す。すると、瑠璃の言う通り程なくして、馬達を連れて勝手口へと消えたラーパが馬達の代わりに人を連れてアレル達の前へと姿を現す。


「オイ、ジジイ! 人手連れてきてやったぞ。それじゃ、アタイは奥に引っ込んでるからなッ!」


 何故か、そう言って三人のヒト族の職人を連れてきたラーパは、(きびす)を返して再び勝手口から出て行こうとする。しかし、そこへ馬車を動かし終えたドノヴァンから怒鳴り声が飛んでいく。


「待てぇい、このバカ娘がッ! 今回は、お前もこっちで手伝わんかッ! この、恩知らずがっ」


「チッ、もう耄碌(もうろく)したのかクソジジイッ! この間は、アタイが関わったせいで仕事が流れたんだろうが!」


「ハッ! これじゃから、人を見る目を少しは(やしな)えと()うとるんじゃ。こっちの若者(わかもん)は、お前の出自なんぞ気にしとらんわ! のう?」


 と、流れる様な罵倒(ばとう)のし合いに巻き込まれたアレルは、ドノヴァンに促されて向けられたラーパの赤い瞳を真っ直ぐに受け止めながらも正直に答える。


「明日の朝には、この町を出たいんだ。でも、下ろしてある荷物の積み込みなんかもあるから、明日の早朝までに仕上げてもらいたい。だから、腕に自信があるなら頼む」


 アレルの返事に、ラーパはその赤い瞳を(きら)めかせてから、(おもむ)ろに頭に巻かれた布を取り去る。すると、ピョコンとその布に抑えつけられていた(うさぎ)耳がラーパの頭の上に屹立(きつりつ)する。


「なあ、アタイこんなんだけど本当に良いのか?」


「腕に自信が無いなら、断るが?」


「そ、そんな事はねッ──ありません! そこのジジイよりも上手くやりますんで、やらせてくれやがりましてッ!」


 余程、仕事を任せられるのが嬉しかったのか、ラーパは使い慣れない敬語まで使おうとして逆に言葉遣いが取っ散らかってしまう。


「じゃあ、頼むよ」


 そんなラーパに、笑いを(こら)えながらもアレルが再度頼むと、ラーパはニカッと笑って作業場へと駆けていく。その笑顔は、育ての親であるドノヴァンそっくりで、そういう所っていうのは()るもんなんだなとアレルは()()み思う。

 そこへ、ドノヴァンからアレルへ声が掛けられる。


「おい、お前さん! 届け先は、夜()き鳥の所で良いんじゃな?」


「えっ? ああ、そこで大丈夫だ! 代金は?」


 伝えた覚えの無いアレルは戸惑うも、ドノヴァンが商会の事をある程度知ってれば予想も出来るかと聞き流す。


「明日の受け渡しの時で構わんよ!」


 ドノヴァンがそう答えると、ラーパの連れてきた職人達も作業場へと入り、それぞれが馬車の四隅を起重機(クレーン)の先に固定し始める。

 それから、鉄製の鎖で(つな)がれた起重機(クレーン)の根元にある歯車状の昇降装置を息の合った動きで操作し、鉄鎖(てっさ)を巻き上げる事で馬車を起重機(クレーン)で持ち上げる。そして、馬車の下へ人が入れる程度まで上げると、昇降装置を固定してから馬車の下に入りドノヴァン達は車軸(しゃじく)周りを工具片手に()始める。

 その、余人(よじん)を立ち入らせない様子にアレルは、先程のやり取りで後は任せて帰れという事なのだろうと悟る。しかし、アレルがその場を立ち去ろうとしても、隣のアリシアが何故か作業場の方を熱心に眺めていて動かない。なので、どうしたかとアレルは軽くその肩に触れてアリシアの意識を自身へと向ける。


「何か、気になる事でもあったか?」


「えっ······あ、うん。あれ、馬車って結構重いはずなのに、どうして持ち上がるかなって」


「ああ、それか······あそこ、良く見てみてろよ。馬車を持ち上げてる鎖が、途中で(いく)つかの滑車(かっしゃ)を経由してるだろ? あれで、持ち上げる際の馬車の荷重を何倍にも軽くしてるんだ」


 アレルが指差す先、馬車の四隅を持ち上げる四つそれぞれの起重機(クレーン)の間の鎖は、天井に固定した四つの定滑車(ていかっしゃ)と固定していない四つ動滑車(どうかっしゃ)を経由している。


「まず、あの天井に固定しているので力の向きを変えて、下から引っ張るだけで物を持ち上げられる様にしている。そして、間の固定していないので持ち上げるのに必要な力を軽減しているんだけど、その軽減した分だけ引く鎖の長さも倍になるんだ。それで、軽減率が滑車(かっしゃ)一つにつき二倍だから、四つで大体(だいたい)八倍かな? そうなると、馬車を一m持ち上げるのに鎖も八m必要になる。あと、馬車の重さに関しては四箇所で吊り上げているから更に四分の一で、最終的に持ち上げるのに必要な力は三十二分の一になって······馬車が千kgあるとしても一箇所につき三十kgちょっとの力で持ち上がるんだ」


「······そういう仕組みで、あんな風に持ち上がっているんだ。ねえ、アレルがそれを知ってるのもやっぱり?」


 感心した様子のアリシアは、ハッキリとは口にしないまでも元の世界の知識かと(たず)ねてくる。


「ああ」


 それには軽く答えたものの、その仕組みを習うのが義務教育だと言ったらアリシアはもっと驚くだろうかとアレルは思う。ただ、それとは別にドノヴァンとラーパのやり取りから、色々と大変だなと思わず声を漏らしてしまう。


「······本来なら、俺の依頼なんて突っぱねる事も出来たはずなのにな」


「えっ? どういう事なの?」


 それに、隣にいるアリシアが疑問を返してくるが、さっきのやり取りを(はた)から見て判らないものかとアレルはアリシアの顔をじっと見てしまう。

 しかし、カルラスに入る前には自分達が大分(だいぶ)ギクシャクしていたのもあるし、ラーパに対して気を張っていたのもあって判らないのも無理ないかと、アレルは自身にも非がある事を思い出しアリシアから視線を外す。そして、そのままアレルは視線を作業場のドノヴァン達へと向ける。

 見ると、ドノヴァンとラーパが言い合いをしながら、それでも他の職人達がそれを支えつつ手際良く作業を進めている。その集中している様子に、余計な話し声で水を差す訳にはいかないとアレルは感じる。


「その話は、外に出てからにしよう。話し声で、作業の邪魔をしたくないからさ」


「······うん」


 アリシアは、アレルの言葉に素直に(うなず)いてはくれるものの、どこか緊張している様子を感じさせる。それもそのはずで、馬車を預けてしまった以上これまでの様に御者台で座っていれば良い訳ではなくなり、自分の足で歩調を合わせて歩くしかない。

 もしかしたら、アリシアには置いていかれる不安や遅れる心配があるのかもしれない。そう感じたアレルは、スッとアリシアの手を取ってアリシアへ軽く微笑む。


「じゃあ、行こうか」


「うん······」


 それでも、顔を(うつむ)かせてしまうアリシアの手を引いて、アレルはカルラスを後にするのであった。



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