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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 六百四十一話 不意に与えられる選択肢

 一階に下りて、カウンターまでやって来たアレル達はそこにいた店主に二部屋分の鍵を返却する。その後、二つ三つ店主と別れの言葉を交わしたアレル達は、出入り口へと足を向けそのまま宿を後にした。

 宿の外へ出ると、カウンターにはいなかったミゲルが裏手の倉庫にあった馬車に馬達を繋いで、アレル達が直ぐに出発出来る様に用意してくれていた。


「お客様、一応無くなっている荷物がないか、確認だけしてもらえますか?」


「ああ、悪いな。わざわざ用意してもらって」


「いえ、仕事ですので」


 淡白(たんぱく)に返すミゲルを横目に、アリシアとメリルにミリアは荷台へと回り荷物の確認に動いてくれる。その際、メリルは確認だけなら任せて下さいと、アレルにだけ聞こえる様にすれ違いざまに伝えてくる。

 なので、普段からきっちりしているメリルにアリシアがいれば荷物の確認は問題ないなと思ったアレルは、その場に(とど)まりミゲルと少し世間話でもしようと考える。


「なあ、この後どこかで馬車の点検を頼もうと思っているんだけど、どっかに良い所はないか?」


「点検······ですか? そうですね······私も、こちらへ来て数年なのでそこまで詳しい訳ではありませんが、アーフェンのドノヴァンという(かた)が評判の良い職人だと聞いた事があります」


「ドノヴァン?」


 アリシアからの話では、人物の名前までは出てきていなかったのでアレルは思わずオウム返しをしてしまう。


「はい、ただ気難しい(かた)らしく余程の事がない限り仕事を引き受けないとか」


「そうか······でも、そういう人の(ほう)が腕は信頼出来そうだな」


 アレルの中では何の根拠もないが、気難しい人間というだけで何かしらの(こだわ)りがあり、そういう(こだわ)りがある人こそ仕事もきっちりこなしてくれるという安心感を感じてしまう。偏見なのは承知しているが、それでも自身の中ではどうしようもない部分なので仕方ないのだと、アレルは自分に言い訳をする。


「そういう事ならば、マスターに紹介状を書いてもらいましょうか?」


「えっ? 知り合いなのか?」


 そんな自身へ言い訳している所へ、ミゲルが紹介状などと思いもしなかった言葉を口にした事で、不意を突かれたアレルは驚かされる。しかし、当のミゲルはそんな事はお構い無しに説明を始める。


「はい、そもそも私がドノヴァンという(かた)の名を聞いたのもマスターからでしたし、若い頃は同じ町で店を営んでいた関係で今でも(たま)に近況を手紙でやり取りもしているらしいです」


「確かに、それなら紹介状も書けるって訳か······」


「それでも、普段ならそんな事はしないでしょうが、お客様ならばマスターも書いてくれると思います。どうしますか?」


 ミゲルの言葉に、アレルは色々と考えてしまい直ぐには返答出来なくなる。

 まず一つに、ツェーンに貴族達が(こぞ)って馬車の製造を頼む職人がいると言っていたアリシアの話と、今聞いたミゲルからの話が真っ向からぶつかり合っている。そのせいで、ツェーンとアーフェンのどちらに行けば良いのかという迷いを生み、更にどちらの職人に馬車を任せれば良いのかという迷いも生み出している。

 二つ目に、ここでミゲルの(ほう)を選んだとして、先にツェーンの情報を話してくれたアリシアの信頼を失う事にならないかという葛藤(かっとう)がある。時間があれば、この場でアリシアに相談して決めるなんて事も可能なのだが、既に出発までの時間が差し迫っている状況でそんな相談をしている暇はない。それに、紹介状を書いてもらうならば店主の顔を潰す様な真似は出来ないし、書いてもらう以上はアーフェン行きを決定しなければならないとアレルは考える。

 そうして、アレルが悩んでいると馬車の方から物音がして、荷台からアリシアが姿を現す。そして、アレルの事を一瞥(いちべつ)してから、アリシアはミゲルへフードで隠した顔を真っ直ぐに向ける。


「あの······今の、紹介状って話なんですが、書いて頂いて欲しいと思っています。頼めますか?」


「はい、大丈夫です。では、出発の(さまた)げにならない様に、直ぐにマスターへ頼んできます」


 ミゲルはそう言うと、アレルとアリシアへ頭を下げてから宿の中へと入っていく。

 それを見届けた後で、アレルは慌てて隣に立つアリシアへ今のやり取りの確認をする。


「良いのか? ア──っンネは、ツェーンを(すす)めていたんじゃなかったのか?」


「うん、だってアレルも言ってたでしょ? 人気があるなら、引き受けてもらえないかもしれないって。······それに、ツェーンよりもアーフェンの方が手前にあるから、王都から来ている兵士もアーフェンで駐留している可能性は低いと思うの」


 アリシアは、王都兵の話をする前にアレルの耳に顔を近づけ、耳打ちする形に移行してアレルへ話してくる。それで、警戒心が高まったお陰か、少しは頭の回転を速める事が出来たアレルは考える。

 確かに、分岐路付近には宿泊出来る様な町などはない。だとすれば、交代があるとしても何日も野営続きでは兵士の気力も()たない事が考えられるので、近くの町などが本隊の駐留地になっていると考えるのが妥当(だとう)だ。ツェーンも、近くではあるものの一番近い訳ではないが、王都兵側に何かしらの事情があった場合ツェーンが駐留地となっている事も考えられる。

 つまり、アリシアは馬車の点検を引き受けてもらえるかという点と、王都兵の駐留地となっている可能性の二点を観点にして紹介状を書いてもらおうと判断した事をアレルは悟る。


「あと、申し訳ないんだけど······紹介状は一応書いてもらっても使わない事も出来るでしょ? アレルも、シープヒルで同じ様な事を考えていたし、それでも良いかな······なんて」


 そこまで言って、アレルの耳から顔を離したアリシアはエヘヘと笑みを浮かべる。そんなアリシアに、アレルはそこまで思考が及ばなかった事で自分も疲れが溜まっている事を自覚させられ、敗北感にも似た(みょう)な気分を味わわせられてしまう。


「······言われてみればそうだな。でも、エリオットの奴とは違ってここでの紹介状を使わなかった時は、色々と落ち着いた後でちゃんと店主とミゲルに謝りに来ないとな」


「うんっ、そうだね。でも······エリオットって、マックスの子供だよね? どうして、その人はどうでも良いみたいな扱いなの?」


「ん? ああ、アイツは全部片付いた後で遅れてやって来た様な奴だからな。冷遇(れいぐう)するぐらいで、丁度良いんだよ」


 それも、実の所遅れる様に(はか)った人間がいた訳だが、エリオット自身の性質が嫌な事もあってアレルはエリオットへの扱いを変えるつもりがない。

 ただ、そんなエリオットの事なんてどうでも良いアレルは、行動一つで自身の悩みを吹き飛ばしてくれたアリシアに向き直る。


「まあ、そんな事よりも本当に助かったよ。あのまま一人で考えていたら、頭がどうにかなりそうだった。だから、ありがとな」


「ううん、いつも助けられてるのは私の(ほう)だもん。だから、まだアレルからお礼なんて言わなくて大丈夫だよ。······あっ、あと荷物は大丈夫だったから」


 思い出した様に報告するアリシアに、まだ(・・)と言ってくるあたりに負けず嫌いな所が見え隠れしてて、アレルは思わず笑みを浮かべてしまう。


「ねえッ、何でまた笑うの?」


「いや、何でだろうな?」


「もうッ、何なの!」


 (いきどお)りを(あら)わにするアリシアに、アレルは何故か笑いが止まらなくなる。

 助けているつもりが助けられて、助けられていると思えば助けている。そんな、どこか勝負でもしている様な関係に、アレルはアリシアがとても身近な存在に感じられたせいか、心のどこかでそれを嬉しく感じていた。



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