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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 六百九話 時を経て渡されようとしているもの

 聖女の能力、フローレイティアが(のこ)した謎、それらに迫ろうとすると必ずと言っていい程にミスティアークという国の存在が邪魔をする。それは、さながら(けむ)に巻かれている様な感覚で、ミスティアークという存在が霧の様に掴めない国である事も相まって皮肉が効き過ぎているなとアレルは思う。

 ただ、その一方でフローレイティアの娘である三姉妹が頻繁(ひんぱん)に連絡を取り合っていた記録が残っているという点がアレルは気になってくる。あくまで仮説に過ぎないが、やり取りの記録が残っているのにその内容が一切残されていないという事は、ミスティアークが現存してない事も聖女の能力が不確かなのも、それからフローレイティアの遺産に関して何も判らないのも、全てが意図的にそうなる様に仕組まれているのでないかと考えられる。

 もし、それが間違いでないのなら、ミスティアークの存在を建国から現在までのどこかで人為的に消した何らかの痕跡(こんせき)が残っていてもおかしくはない。だが、それが残っていない以上、その考えに至る仮説は全て棄却(ききゃく)されるべきと判断せざるを得ない。

 ただ、こうしてある所まで推測が近づくと必ずミスティアーク関連で逆説的に否定されるあたり、何かが意図的に隠されている事だけは確かだとアレルは確信を得る。


「アレル?」


 そうして、色々と自身の考えを(まと)める間、しばらく黙り込んでいたアレルに気付いたアリシアが声を掛けてくる。

 そう、今アレルの目の前にいるアリシアがその母から言われた言葉が本当ならば、ミスティアークによって隠されている全てがいずれアリシアへ向かって帰結(きけつ)する事になる。フローレイティアの手記にもある様に、未来に(つな)ぐと記述されている以上エウロスとフローレイティア二人の血筋で銀髪の女児として生まれたアリシアに、そうして(つな)がれてきた何かが(もたら)されるのだけは確かな様に感じられる。

 ただ、そこでアレルは不意に(みょう)な直感が働いてしまう。ミスティアークに関して、記録に残っていない所までは理解出来るが、人の口に戸は立てられないと言われる様に人の記憶からまで消されているのはどうにもおかしい。つまり、何者かによって人々の記憶からもミスティアークの詳細についてのみ消されており、その名前だけが伝聞(でんぶん)されているという奇妙な現状が作り出されていると考える事が出来る。

 そして、記憶を操作するという類似性から、アレルはミスティアークと最近知ったとある人物を結びつける。


「なあ、単なる勘ではあるんだけど······もしかしたら、王都にいるっていう宮廷魔法師ってミスティアークの関係者なんじゃないか?」


「えっ!? どうして、そんなッ?」


 ただ、あまりにも飛躍(ひやく)し過ぎな考えに、アリシアは驚きのあまり言葉を詰まらせてしまう。


「いや、ほら宮廷魔法師の奴って自分の容姿を思い出せない様に記憶操作か何かをしている疑惑があっただろ? それが、ミスティアークの方にも人々の記憶から所在地がすっかり忘れられている事から、過去の人々も記憶を操作されているんじゃないかって考えたんだ」


「······うん、そういう事なら解らなくもないけど」


「それに、(くだん)の宮廷魔法師にはエルフかもしれないなんて話もあっただろ? だから、二千年前······それこそ、賢者イスマイールあたりがソイツの可能性もあるんじゃないか?」


 そんな風に、自身の推測を話したアレルだったが、それには即座にアリシアが首を左右に振って否定してくる。


「それだけは無いよ。だって、イスマイールはあくまでも普通のエルフだから二千年も生きていないと思う。たぶん、二千年も生きているとしたら、永遠の時を生きるって言われてるハイエルフでないと駄目なんじゃないかな?」


「そっか······でも、宮廷魔法師がミスティアーク関係者の子孫って事ぐらいなら考えられないか?」


「うん、それぐらいなら······でも、ミスティアークがルクスタニアに何かしようとしているなんて考えたくないな」


 アリシアは、そう言って静かに(うつむ)いてしまう。その反応に、これは自分が無神経だったと思ったアレルは、ちゃんとアリシアが(うつむ)いたりせずに済む考えも伝える。


「いや、宮廷魔法師が何かを企んでいるにしても、それがミスティアークの総意って訳でもないんだから落ち込む必要は無いって。ルクスタニアにだって、色んな考えの奴等がいるだろ?」


「うん······そう、だね」


 アレルの言葉に、アリシアはスッと顔を上げてくれる。


「ほら、なんつうか······フローレイティアの遺産的なものを、そのペンダントみたいにアリシアへ渡す為に自分達の存在を隠すしかなかったのは何でだとか、そんな逆恨みみたいなのもいそうじゃないか。それに、もしミスティアークの総意だってんなら、今直ぐ隠れるのをやめれば良いだけの話だろうが」


「もう、良いよ。なんか、このままアレルが言い訳してるの止めないと、言いがかりみたいなの始まりそう」


 と、調子がノッてきたところでアレルは苦笑するアリシアに制止されてしまう。しかし、アリシアはそのままアレルへ首を(かし)げながら疑問を口にしてくる。


「ねえ、そういえばフローレイティア様の遺産って何?」


「へ? それは、手記の方に未来へ(つな)ぐなんて言葉があったから、その未来がルクスタニアの不思議な継承権──つまり、女王となる銀髪の女児へと繋がるんじゃないかって思ってさ」


 そのアレルの言葉に、アリシアは虚を突かれたみたいな呆然(ぼうぜん)とした表情のまま固まってしまう。ただ、アリシアは直ぐに驚きから立ち直ると、そのまま(みょう)()に落ちたみたいな表情を浮かべる。


「そっか······レイナーレ様達のやり取りが、フローレイティア様の(のこ)したものに対して事だったらルクスタニアの継承権もそこに関わっているって考える方が自然かもしれない」


「それでも、何の為に何を(のこ)したのかは判らないけれどな」


 アレルがそう言うと、アリシアは胸のペンダントのある辺りに右手を当てる。


「でも、そうやって知らず知らずだったかもしれないけど脈々と時を経てきたものを、私がちゃんと受け取らないといけないんだよね······」


 そう口にするアリシアの、どこか自身を追い込もうとする姿に少し前の自分が重なって見えたアレルは、アリシアが口にした言葉を鼻で笑う。


「別に、受け取らなくても構わないだろ? (のこ)したのは向こうの勝手で、だったら受け取るのも受け取らないのもこっちの勝手だ。いざ、その時が来たら受け取る権利があるぐらいの気持ちで、()らないと感じたらその場に捨て置けば良いさ」


 そんな事を言えば、きっと根が真面目(まじめ)なアリシアは自身の事を怒るだろうとアレルは思う。しかし、この場でアリシアが余計な荷物を背負い込んでしまうよりかはマシだと、アレルは自身をサンドバッグ代わりに差し出す。


「もうッ──」


 ほら来たと、アレルは心の中だけで身構える。


「──そんな事、したら駄目だよ。私だって、頼りないかもしれないけど責任はあるんだから」


「アリシア······」


 だが、状況はアレルが思った方向とは違い、アリシアは自らの生まれの責任をきちんと受け止めている姿勢を示す。


「うん、だからね私ちゃんとそれが目の前に現れたら受け取るよ。······もしかしたら、資格が足らないとかで受け取れない事もあるかもしれないけど。でも······ね、私にはアレルが今言ってくれた言葉もちゃんと届いているから、アレルがどういうつもりで言ってくれたか解っているから······ね。うん······凄く嬉しい。だから、ありがとうアレル」


 そう言って、笑顔を向けてくるアリシアはアレルにとってとても(まぶ)しく見えた。

 二千年、そんな永き時を経て渡されようとしているものがあるというのに、その重さをものともせずに受け止めてしまえる。そんなアリシアが持つ、生来の芯の強さみたいなものを感じたアレルはやはり自身とは違うなと思ってしまう。

 ただ、そうしてアレルが黙っていると、エヘヘと笑顔を少し悪戯(いたずら)っぽく変化させたアリシアが胸に当てていた手をポンポンと軽く叩く。


「成る程······わざと言い回しを悪ぶっても、そこに込められた気持ちは伝わってしまうのか。本当(ほんと)、厄介な遺産だよ」


「エヘヘ、いつも解る訳じゃないけどね」


 まるで、勝ち誇るみたいに朗らかな笑顔を浮かべるアリシアに、アレルはどうだかと肩を(すく)めて返す。ただ、そうしたやり取りをしながらもアレルは思ってしまう。

 生まれから何から何まで特別なアリシアと、ただ違う世界からやって来た希少性しか持ち合わせていない自分。所々で、アリシアも感じている様に似ている部分もあるのかもしれないが、アレルはアリシアと自身との間に確かに存在する(へだ)たりを感じるのであった。



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