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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 六百三話 古の三国の騎士達

 ハウザー家当主、クライド・ハウザー。ミゲルによると、つい最近分家と密約を()わしていた父親から家督(かとく)を奪い取ったらしいが、それ以外クライド個人の人物像が掴める話をアレルは聞けていない。

 実際に、相対してもおきながらアレルは見事にクライドにしてやられ、たった一つの嘘から自身がクライドに対して抱いた印象にすら疑問を感じさせられている。そのせいで、アレルは自身の判断だけでは危険だと思い、ハウザー家の成り立ちなどにも詳しそうなアリシアに意見をもらいたいと感じるに至った。

 騎士の事なので、相手はミリアでも良かったかもしれないが、アレルの勝手な印象でミリアの人の見る目は直感的で参考にならない気がした。あと、メリルは自分から騎士との関わりはあまりないと口にしていたので、申し訳ないとアレルは思ったが最初から候補にもなっていなかった。

 そして今、アレルが白羽の矢を立てたアリシアが、アレルからの言葉に口を開く。


「えっと······こういう場合、結論から話した方が良いよね?」


「へ? それはどういう······」


 アリシアの事なので、アレルはてっきり意気揚々(いきようよう)とエウロスとフローレイティアの歴史から話し始めるものだとばかり思っていた。しかし、(ふた)を開けてみればアリシアはアレルの顔色を見ながら躊躇(ためら)いがちに質問を返してきた。

 それが何を意味するのか、全く見当もつかないアレルは困惑を(あら)わにしてしまう。すると、アリシアは何かを一つずつ確かめるみたいに話し掛けてくる。


「えっと、アレルの話し方から察すると名前以外ほとんど知らないんだよね? それなら、門に行っても何も判らなかったって事で良いの?」


「そうだ。最悪な事に、俺達が街に入った直ぐ後に街から離れたらしい。つまり、クライドの目的は俺達の何かにあったって訳だ」


「じゃあ、アレルはクライドが私達に何か害をなそうとしていると考えてるって認識で良いの?」


「ああ」


「うん、それなら今のところは心配ないと思うの。私、クライドが家督(かとく)を継いだなんて話は知らないけれど、たぶん王都で色々とあった前後の話だと思うのね」


 そこでボソリと、それをアレルがどこで聞いてきたか知らないけどと、アリシアはアレルが話さない事への不満を漏らしながらも続ける。


「でも、父親の方のジュリアンは王都での事がある前から、ドミニクと親交があったのは私知ってるの」


「という事は、クライドが追放した父親ってビットーリオ派閥だったのか? いや、それより騎士なのに主である王家を無視してて良かったのか?」


「うん、ルクスタニア王家には従わせられない騎士が二人いるの。それの片方がハウザーの騎士で、もう一人がヴルムヴィント時代にエウロス様が授与されていた『天空騎士』っていう称号を持った騎士なの。でも、天空騎士の称号はエウロス様自身を指す様な特別な称号だから、ルクスタニア建国以来誰一人として授与された騎士はいないんだ。だから、今は唯一王家に異を唱えられる騎士がハウザーの騎士って事なの」


 つまり、アリシアの話から類推(るいすい)するに、クライドが父親を追放して家督(かとく)を奪っていなければ、ビットーリオ側はレグルスという王家の血筋とハウザーという他の王家へ向ける事の出来る(つるぎ)を手にしていた事になる。そうなれば、アリシアが捕らえられていた場合に国に対する逆賊として、対外的にハウザーの(つるぎ)を用いた正統な形での公開処刑なんて事も出来てしまう。

 そこから、ハウザー家が領地や爵位(しゃくい)だけでなく、王家を正す役目も(にな)わされていた本当に特別な家だった事をアレルは知る。ただ、そうなるとクライドが行った事はアリシアを守る事にも(つな)がるので、アレルは自身がクライドに振り回されていたんだと気が付く。


「成る程······ね。それが、家督(かとく)を奪ったクライドに対して、アリシアが心配ないって言う理由か」


「解ってくれた?」


「ああ」


 返事と共に、自らの考え過ぎだった事を知らされたアレルは脱力し、その体面に座るアリシアはどこかホッとした様な表情を浮かべる。ただ、それでも納得の出来ない事のあるアレルは更にアリシアへ(たず)ねる。


「でも、何でハウザー家だけがそんな特別な立ち位置に置かれてんだ?」


「うん、それがエウロス様とフローレイティア様の時代まで(さかのぼ)るの。当時、西方からふらりとやって来たと言われているエウロス様の身分は、フローレイティア様が与えた騎士としての身分しかなかったの。それでも、当時は魔王軍の脅威に加えて他国間との関係も緊張状態が続いていたんだって。その中でも、たった一人魔王軍相手に目覚ましい戦果を挙げていたエウロス様は近隣国でも無視の出来ない存在になってたの。そこで、黙っていられなかったのが隣国のノインシュタットとヴァーミリオンだったって伝えられているんだ」


「そうか、その頃はまだ同盟すら締結出来てなかったんだな」


「うん······それでね、ノインシュタットとヴァーミリオンにもエウロス様に比肩(ひけん)される騎士がいるって事で、対魔王軍の話し合いの場でその内の誰が一番か言い争いになったんだって。今にして思うと、凄く下らないって思われるかもしれないけど、実はそれが三国間同盟のきっかけだったってルクスタニアの古い文献(ぶんけん)に残っているの」


 危うく、アリシアの説明が入る前にしょうもないと口にしそうになったアレルは、心の中でヒヤリとしながらも続きを(うなが)す。


「それで?」


「うん、武勇に優れるエウロス様、戦闘面での柔軟性に優れたカーティス、そして騎士の頂点とされていたギルバート······この三名での決闘が行われたんだって。ちなみに、カーティスがノインシュタットの騎士でギルバートが後にハウザーの家名を名乗るヴァーミリオンの騎士ね。まあ、その辺を詳しく語ると長くなっちゃうから結果だけ言うとエウロス様の勝ちだったんだけど、その卓越(たくえつ)した剣技に他の二名も感銘(かんめい)を受けて共に魔王軍と戦う事を誓った上でエウロス様の剣技を学んだと言われているの。それで、さっきのアレルの疑問に答えるなら、ここからが重要になるんだけど良い?」


 アリシアは、ここまでが先程の質問に答える為の前フリで、今から話す内容が本題なんだとアレルに確認を取ってくる。それに、随分(ずいぶん)勿体(もったい)ぶるなと思いつつアレルは早く話せと(うなず)いて返す。


「ああ、()いたのは俺だしな」


「じゃあ、話すけど······結局、三騎士の誓いが果たされる事は無かったの。それというのも、ノインシュタットがね自国の騎士を自衛にしか使うつもりはないって、カーティスを王命で縛ってしまったかららしいの。それを受けて、ヴルムヴィントはエウロス様に自由を与える為に『天空騎士』の称号を用意したんだ。天に(つるぎ)を預けし騎士は、例え王家の人間であっても縛る事は出来ないって意味でね。でも、そんなまるで当て付けみたいな称号を出されたら、ノインシュタットとしては穏やかではいられないでしょ? そこで一番困ったのがヴァーミリオンで、ギルバートにエウロス様の様な称号を与えればノインシュタットが協力体制から離反してしまう。かといって、現状のままでは王家の(めい)が無ければギルバートは自由に動けず、予測の出来ない動きをする魔王軍に対して後手でしか動けなくなってしまう。だから、ヴァーミリオンは苦肉の策として、ギルバートに家名と所領を与えて一領主として扱うのと同時に、王家からは魔王軍討伐の為に尽力(じんりょく)せよって(めい)を下したの」


 その辺の感覚の良さは、やはりクリムエーラを率いるヴァーミリオン家の血筋の成せる(わざ)なのかとアレルは感心してしまう。

 要するに、当時のヴァーミリオン王家はノインシュタットを刺激する事なく、ギルバートという優秀な騎士をエウロスと同等ぐらいに自由に動ける様にしたかった。その為に、騎士でありながら家名と所領を与える事で身分を底上げして自己の判断で動ける裁量(さいりょう)を増やし、尚且(なおか)王命(おうめい)として魔王軍討伐の為に動く事を第一にさせた。

 そうやって、ヴルムヴィントとノインシュタットの均衡を保った様な対応をした事で、ヴァーミリオンもギルバートをエウロスの様に魔王軍討伐の為に動ける様にしたのだろうとアレルは考える。


「それでね、そういう経緯もあったし魔王軍討伐での功績も踏まえて、ルクスタニア建国後もハウザー家という騎士が目指すべき目標みたいなのを残す意味合いもあって、現在でもハウザー家は少し特別な立ち位置になっているの」


 そう言って、アリシアはアレルからの質問の答えを締め(くく)った。



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