隣の席の蓮見さん その3
その後、蓮見さんに連れられて、色々なところを回った。
その中でも特に面白かったのが、蓮見さんのお勧めの本屋さんだ。
まさか自分の知らないあんな地下に、ひっそり5件目の本屋があったとは……しかもやたらとマニアックな品揃えの……垂れ幕のついた奥の方が気になったなんてことはありませんよ、ほんとですよ?
「あんなところにある本屋、よく気づいたね」
「ふふっ、ネットで調べても出てきませんもんね、私も最初は知りませんでした」
「なのによく見つけたね、あんなところ……」
「よく読んでる本が、あそこなら売ってるよーととある掲示板で聞きまして」
「なるほど……あそこで買ってたのか……」
不思議だったんだよね、どこの本屋でも見かけなかったから。
いや、amaz○nで買ってるのかなー、とはちょっと思ったけどね?
なんとなく蓮見さんがamaz○nを使っているところが想像出来なかったというか……なんか文明の利器に疎そうだし?
でも、これで疑問も解決だ。
「とまぁ、私が駅前に来る時は、だいたいこんな感じですね」
「本屋さんにペットショップが中心なんだね、あとは……」
「あそこの喫茶店で本を読みながら紅茶を飲んで休憩ですね、今日は遅いので入りませんが……私のこと、ちょっとはわかってもらえましたか?」
「うん、これで今度からは、蓮見さんを探して走り回らなくてすみそう」
そうして俺たちが最後に来たのは、街中が一望できる駅ビル大階段。
そこをさらに上がった先にある、ちょっとした広場。
周囲にはカップルも多くて……う、ちょっと緊張してきたかも。
「はー、よく歩いて疲れましたねぇ……」
「今日は学校もあったしね……ごめんね、なんか付き合わせたみたいで……はい、これ」
「ありがとうございます……ふふっ、楽しかったですから、大丈夫です」
「そう言ってもらえると、助かるよ」
買ってきた紅茶を蓮見さんに手渡すと、その隣に腰かけた。
今、俺たちも周囲の人から見たらカップルに見えてるのかな……そう思っていると、蓮見さんがそっと俺の右手に手を重ねてきた。
少し肌寒くなってきた時間なので、蓮見さんの体温が気持ちいい。
「綺麗ですねぇ……」
「うん、ライトアップされて、凄く綺麗だね」
「ふふっ、そこは君の方が綺麗だよ、って言うところじゃないですか?」
「勘弁してよ……そう言うのが言えるのはイケメンかドラマの主人公だけだよ」
「たしかに、天方くんにそんな事言われたら、熱でもあるんですか? って心配しそう」
「おい」
「でもきっと、照れ隠しで言ってるんですよ、許してください」
こうやって笑顔ひとつで誤魔化せるんだから、美人って得だよなぁ。
それに誤魔化されてる俺も俺だけど。
「それで、今日はどうしたんですか?」
「うん」
はぁ、と溜息をつくと、息が白く染まった。
俺が話始めるのを、じっと待ってくれる蓮見さんがありがたい……。
「今日、心春を屋上に呼び出したんだ」
「……はい」
「夏休み前にも、同じように心春を呼び出したんだ、俺」
「それは、告白するために?」
「そう、告白して……夏休みを恋人と楽しく過ごそう! ってね」
まぁ結果は知っての通りだけど、と笑うと、なぜか蓮見さんの表情が強張った。
え、なんで?
「そ、それでは今日三枝さんを呼んだのは……」
「うん、実は」
「待ってください! ……ちょ、ちょっと、待って……!」
「え?」
驚いて隣を見ると、顔を青く染め、若干震えている蓮見さんがそこにいた。
流石にこんな状態の蓮見さんは初めて見るので、驚きしかない。
一体蓮見さんは、何にそんなに怯えてるんだろう……あ、もしかして?
「蓮見さん? 大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫です……でも、ちょっとだけ呼吸を整えさせてください……か、覚悟しますので!」
やっぱり。
これ、絶対勘違いしてるよね、俺が今日、心春を呼び出した理由。
「蓮見さん」
「は、はい」
「今日、俺心春に……」
「…………っ!」
じわぁ、っと蓮見さんの目に涙が溜まっていく。
こんな時でなんだけど、そんな蓮見さんの涙は舐めるとなんとなく甘そうだなぁ……と思ってしまったのは、きっと俺がおかしいからだと思う。
舐めないけどね?
「……っふふ、大丈夫ですから……三枝さんのこと、天方くんはずっと好きで……」
「蓮見さん、先に結論から言うけど……俺、蓮見さんが好きだ!」
「…………そ、そうですよね、天方くんは、蓮見さんが好きで……蓮見さんって誰ですか?」
「そこから!?」
じゃああなたは誰なんですか、蓮見鈴七さん!?




