隣の席の蓮見さん その2
この辺りでもう蓮見さんが行きそうなところはあそこ……わんにゃんパラダイスなペットショップしか思い浮かばない。
確かこの辺りには、結構大きな店舗があったはずだ。
もしかしたらもう帰宅中で、今まさに家に着いた可能性、というのも頭をよぎらなかったわけではない。
ただ、なんとなく蓮見さんはまだ、この辺りにいるような気がして……。
「蓮見さん」
「天方くん? ど、どうしたんですかそんなに息を切らして……」
蓮見さんが、目を丸くして俺を見つめてくる。
やっぱりいた……絶対、まだここにいると思ったんだよね、なんか知らないけど。
「あー……よかった、やっと見つかったよー……」
はぁー、と溜息をつき、思わずしゃがみこんでしまった。
そしてそんな俺に「どうした?」とでも言いたげな顔で近寄ってくる、ガラスの向こうのマンチカン。
お前、本当に手足短いねぇ……。
「え、どうしたんですか? 何か用事があるなら、携帯を鳴らして貰えば……」
「何回も鳴らしたけど出なかったんだよ、蓮見さん」
「え? そんなはず……あー、すいません、マナーにしたまま忘れてました……」
「それで鞄の中に入れてたら、まず気がつかないよねぇ」
万一無視でもされてたらどうしよう、というのは杞憂だったようで、ほっとする。
いやまぁ、蓮見さんはそんな事しない、ってわかってるけどさ!
「それで、こんな所までどうしたんです? それに、今日は三枝さんの日では」
「あー、うん……それなんだけどね」
「さては、ケンカでもしました? もうっ、ダメですよ? ケンカをしては……」
「してないしてない、ケンカなんて」
「ふぅん……?」
してない。
ただ、心春を悲しませただけだ。
じーっと蓮見さんに目を覗き込まれると、物凄く居心地が悪い。思わず目を逸らしてしまったが、変に思われなかっただろうか……?
「……なるほどわかりました、それじゃあデートしましょう、天方くん!」
「……え、なんで?」
「そういう流れかな、と思いまして」
「どういう流れ!?」
わからない、やっぱり蓮見さんはさっぱりわからないよ!
「まぁまぁ! ほら、行きましょう天方くん!」
「ちょ、ちょっと蓮見さん! 引っ張らないで今足ガクガクなんで!!」
「ふふっ! いやでーす!」
いやー! やめて! 不様に転げ回る事になるからやめてー!!
あっ。
*
「すいません、まさか本当にダメだったとは……」
「大丈夫、大丈夫だよ、ちょっと躓いただけだから……」
ちょっと、車道の方にフラついてビビっただけだから。
「正直天方くんの事ですから、押すなよ、絶対押すなよ!? をやってるとばかり」
「芸人かな?」
知らなかった……蓮見さんの中で、俺は芸人枠に入っていたんだ……!
これは今後のためにも、認識をちゃんと訂正しておかなければならない。
またやられたら今度こそ死ぬ!
ここはガツンと言わなければ!
「大丈夫だよ蓮見さん、もう完全に回復したから!」
しょんぼりしてる蓮見さんにはガツンと言えなかったよ……。
「ほら! それはそうとデートなんでしょ? どこ行こうか!」
「あ、そうでしたね! ……ふふっ、天方くんもちゃんとデート、って思ってくれて、嬉しいです」
「そうだ、デートって言うなら、ちゃんと手を繋がないとね」
さっきは蓮見さんに手を引かれるままだったから、手を繋いだとは言えない。
今度は俺から蓮見さんの手を取り、指を絡め、それを見た蓮見さんが、ほんのりとほほを染めた。
「今日の天方くんは、ちょっと積極的ですね」
「そうかな? いつもこんなもんだったと思うけど……」
「いいえ、こうやって天方くんが自分から手を握ってくれたのは、動物園の時以来です」
「そうかな……うん、そうだったかもしれない、あれからは特に、蓮見さんから来るようになったしね」
「ふふっ、だから嬉しいです」
「そっか」
本当に嬉しそうに笑う蓮見さんを見ていると、なんか照れるな……普段変な事しか言わない蓮見さんだから、特に照れる。
まぁ、蓮見さんも耳まで赤く染まってるから、どっちもどっちか。
「私、行きたいところがあるんです……ついてきて、もらえますか?」
「もちろんいいよ! どこでも付き合うよ」
「今、どこでもって言いましたね?」
「どこでもとは言ってないです」
どこに連れていくつもりだよ……。
笑顔で俺の手を引くように歩く蓮見さんに、俺は逆らうことなどできなかった。




