駐屯地跡攻略戦 一
降り注ぐ太陽の光、清々しい日中、細く高い木が密集した密林のど真ん中。
そんな一発で人間を殺せるような虫がウジャウジャ居そうなジャングルの中に、上原と須川、その他同い年ほどの女子二名が岩や地面にへたり込んだり、木に寄りかかったりしていた。
「毎回毎回、このサバイバル攻略戦もいい加減飽きてくるよな」
上原が独り言のようにぼやくと、茶髪を頭の後ろで軽く結び、腰まで垂らした勝気そうな少女が答えた。
「そりゃね。いくら景品が学食の二ヶ月分無料券でも、そこに辿り着くまでが教員五名の攻略阻止陣超突破じゃね」
彼女は不機嫌そうにフンッ と鼻を鳴らすと、持っていたライフル銃と小型のキャリーケースの様な物を適当に置いて、近くに倒れていた丸太に腰を落とした。かぶっていた緑のベレー帽を脱ぎ、頭をガシガシと掻く。
すると、もう一人女子である金髪碧眼の美少女が、
「仕方ないんじゃないですか?私達の学校は電気、水、食料、武器、etc、全て国民の税だけで賄って貰ってるんですから。そんな状況で『学食』なんて物があること事態おかしいんですよ」
言いながら、その少女も容姿とは不釣り合いな同型のライフル銃を足元に置くと、丸太にチョコン と腰を落とす。
「にしても、うどん一杯五千円は高すぎんでしょ」
「詳しくは知りませんけど、そういうお金は地方の公共団体とかに配分されて国民の皆さんに潤いをもたらしているとか」
「はぁ~、自分が親より金持ってるって変な感じよね~」
「まぁこのご時世、私達みたいな戦場を駆け回る兵士が一番稼ぎの良い職ですからねー」
金髪碧眼の少女は苦笑しながら腰の辺りに着けてある水筒の水を口に含む。
「おーい、宮木、ウェスティ。上原がそろそろ出発するってよ」
とここで、右手にライフル銃を、左手に長めのの軍刀を持っている茶髪の少年、須川が二人に声を掛けた。
「えーもう?」
宮木と呼ばれた少女がぼやくと、今度は須川とは別の声がした。
「元々、あと五キロ歩いた所にある川で最初の休憩だったんだ。もたもたしてると期間内に攻略戦のスタートポイントにも到着できないぞ」
声のした木の陰には、リュックを肩に掛け、同じライフル銃を持った少年がいた。上原桜麻だ。
「はいはいはーい。リーダー厳し過ぎると思いマースってかもうちょっと休みたい」
「黙れよ宮木。俺だってやりたくねぇよ。この年に六回もあるイベントも、ライフル抱えて森の中うろつくのも、景品目指していざ張り切っても教師陣に本気で来られてフルボッコにされるのも、そして何よりリーダーっていう立場そのものもなああああああああああああああああああああああああああ!」
上原が良い感じに逆ギレしたところで何故このような状況になったのか説明しておこう。
約五時間前の六時半。
十分という限られた時間内で、朝食を喉にかけ込むという闘いを終えた上原と須川は、自分達の部屋のドアに貼られてあった紙を見た。
それは手の平ほどの赤い紙だった。そして、上原達はこの赤い紙――通称「赤札」――が何を意味するものか分かっていた。
「……いよいよか」
「……ああ、いよいよだな」
訓練・大戦時機動整備中隊駐屯地跡攻略戦、の開始。
赤札が示すのはそういう事柄だった。
このイベントは年に六回行われる、いわば定期試験のようなものだった。
これには男女二人ずつ計四人の班がランダムに五班参加し(ランダムといっても学年は同じ)、一回に掛ける期間は三日、武器は専用のゴム弾と共に支給されるが、食料などは最低限のレーション以外は現地で調達すように、というかなりハッチャケたイベントなのだ。
上原と須川はB31小隊の第四班に所属している。
「って事は俺達はこれから学年主任のとこに行けばよいのか?」
「だろうな。今回は小銃とかの仕様がいつもと少し違うようだから、弾薬の事とか色々説明されるだろ」
そんな訳で、二階にある教員室の前。
すでに他の班が来ていたらしく、入ったとたん脳天スレスレに鉛弾をぶち込まれ、外で待っていろと言われたしだいである。
「銃の仕様の変化ってどんなんだ?」
「聞いた所だと対隔壁用ショットガン、可視光線式照準器、サイレンサー使用解禁などなど、まぁ他にも色々あるんじゃないか?」
そんな話をしていると教員室のドアが開き、生徒が二人出てきた。それぞれビールケースのような物を持っていて、中にはガチャガチャと鈍く黒光りしている銃器が見えた。
上原と須川が無意識にそれを目で追ってくと、ガッキィィィンッ と目の前を通り過ぎたナイフがコンクリートの壁に突き刺さった。
「次は貴様らだ。来い」
「「はい」」
言われた通りに偉そうにソファーに座っている主任の元へ半ば小走りで行く上原達。
ソファーの脇には先程の二人が持っていたのと同じケースが何個かあった。
「ルールは今までと同じ、駐屯地跡へ進行し待ち受ける教員五名を無力化し、建物内にある軍用ジープを奪ってくる、というものだ。サバイバルについても同様だ」
「………………………」
「………………………」
このルールは一年の時から変わらない。その作戦に使用する武器などがグレードアップしていってるだけだ。ちなみに軍用ジープの奪取についてだが、この学校の生徒全員は戦時の戦場でのみ車を走らせることができる、という特殊な免許を持っている。
「合格しだ場合の景品も今までと同じ、学食の二ヶ月間無料券だ。銃器に関してだが、今回から対隔壁用ショットガンの使用が許可される。もちろんゴム弾だが、直撃すれば骨折は確定だから注意するように。その他色々あるが面倒なんで詳しくはこれを読め」
「………………………」
「………………………」
そう言われ投げ突けられたのが、A4サイズの分厚い紙束だった。
「っとこれも頼むわ」
「………………………」
「………………………」
そして、ガタガタッ と積み上げられていくケースの山。
「コレ、他の連中にも渡しといてくれ。じゃ頼んだぞ」
「………………………」
「………………………」
そして、去って行く学年主任の後ろ姿。
「……結局何も言えなかったな」
「……何も言う必要はないさ。いつかあの脳天に無言で鉛弾をブチ込んでやる」
こうして、使いパシリをさせられた上原達は、無事銃器の入ったケースを届け終えた後、射撃演習場に行き、サブマシンガン(実弾)およびロケットランチャーこと打ち上げ花火を乱射し、生徒指導室に連行されながらも、清々しい笑顔で攻略戦に参加して行ったという。