↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛の欠片は星空に舞う ~妊娠中に裏切られた私、義弟の甘い罠に落ちてしまいました~  作者: G3M


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/20

第1話 帰宅

 沙紀は病院から、自分で運転して帰宅した。メルセデスのハンドルを握る指先は、見た目ほど緊張していない。だが内心は、わずかにざわついていた。


 ガレージに車を滑り込ませ、ヒールの音を高らかに響かせながらアプローチを歩く。胡蝶蘭の白い花弁があしらわれたガラス戸は、彼女の属する世界の虚飾をそのままに見せていた。


 玄関ホールは吹き抜けで、無人の劇場のようにがらんとしている。沙紀は立ったまま膝を折り、左右の靴を無造作に脱ぎ捨てた。


 スリッパに履き替える動作も、三年の結婚生活ですでに様式化された儀礼にすぎない。ダイニングキッチンに入り、椅子を引いて腰を下ろすと、淡いオレンジ色のバッグからスマートフォンを取り出し、母親に電話をかけた。


「今、病院から帰ってきたの。子供ができたわ」


 母親の声は、予想どおり、満足げに響いた。


「頑張ったわね、沙紀。結婚して三年かしら」


「ええ」


 沙紀は喉の奥に込み上げるものを、ぐっと押し殺した。涙を流すには、まだ早すぎる。


 母親は当然のように忠告を重ねた。無理をするな、義父母との関係はどうか、夫の拓也とはどうか——。沙紀はすべてを「大丈夫」で片付けた。「昨日も愛し合ったわ」という返事は、自分でも芝居がかっていると思った。だが、母親を安心させるには十分だった。


「辛かったら、いつでも帰ってくるのよ」


「もう切るわ。夕食の用意をするの。今夜は特別だから」


 電話を切ると、沙紀は拓也の好物であるローストビーフを、丁寧に作り始めた。肉の表面に焼き色をつけながら、彼女は思う。こうした儀式めいた夕食が夫婦の絆を象徴する、などという考えはブルジョワ的な方便にすぎない。


 それでも今日だけは、その方便にすがりつきたかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。