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菫色の署名が導く悪女の契約。甘い悪夢は終わらない  作者: 星見蒼


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7、銀の君は初心者以下

ヴェルナレット嬢を交えた、どこか落ち着かない夕食を終えると、姉上は慌ただしく領地へと引き上げていった。

もう一日ぐらい滞在すればいいのに……と思わなくもないが、どこか疲れ切った表情に甘えたことは言えなかった。


姉上を見送り、自室へ戻る途中で、ジュールと出くわした。

というか、今までどこにいたのか。


「……あ、そうだ」


ジュールの顔を見て思い出す。


「ん?」

「姉上にドレスと宝石を用意するように言われたんだった」

「……ヴェルナレット嬢に?」

「そう」


これはジュールにお願いするより、アルマンに伝えればいいか。


「用意ってどうやって?」

「どうやってって……」


姉上は……どうしていたのだろうか?

ルシアン自身はいつも仕立て屋を呼んで、適当に服を見繕ってもらっていた。

それでいいのだろうか?

だが、『婚約者と一緒にドレスを買いに行った』という話も聞く。


(……もしかしなくても、俺は婚約者としてはイマイチではないだろうか?)


「まぁ何を考えているかはうっすらわかるけど」


ジュールに呆れたような視線を向けられるが、こればかりは反論のしようがない。しかもジュールの得意分野だ。


「……どうすればいい?」

「うわ……っ素直!!」

「仕方ないだろう。皆目見当がつかない」

「銀の君がこんなに情けないなんて、君のファンは知る由もないだろうなぁ」

「……その呼び方やめろ」

「坊ちゃま」

「なんでお前が坊ちゃまと呼ぶ」

「いやいや。面白いから?」

「……いいから、教えろ」

「はいはい。……まぁ初心者同士だから」

「……?」

「最初は仕立て屋に来てもらって……で、慣れてきたら、一緒に買い物」

「……ん?」

「つまりデートだな」

「はあ!?」


つい足が止まった。

……ちょうど自室の前。

立ち止まったルシアンを無視して、ジュールが扉を開ける。


「デートって……」

「婚約者だろう?」

「いやそうだけど……」

「悪女と婚約しましたよ~って宣伝して歩かないといけないだろう?」

「それは……そうなのか?」

「そりゃそうさ。まさか姉上にだけ紹介して終わりのつもりだったのか?」


頷きかけてやめる。


「外から見て当主として相応しくないと判断されない限り、君に似て頑固な姉上は諦めないだろう?」

「俺に似ているとか関係ない。それに姉上の方が頑固だ」

「……はいはい。どっちでもいいんですけどね」

「外堀から埋めるってことか……」

「なんか似合わない戦略だね~」


ジュールが笑いながらルシアンの部屋のソファに座る。

意外と長い脚が優雅に組まれた。

今更だが、主の部屋でくつろぎ過ぎではないだろうか?


「似合わなくて悪かったな」


同僚たちには“見掛け倒し”と言われている。

見た目だけは参謀タイプとかなんとか。

なんだそれは、と思っているが、そう見えるのであれば、見掛け倒しと言われても否定はできない。

そういうのは苦手だ。


「まぁ難しく考えなくてもいいと思うけどね」


呑気に告げるジュールに、どうしたものかと頭をひねる。


「婚約披露パーティー……はちょっとなぁ……」


確実に広まるだろうが、支度が面倒だ。

ジュールも同意見なのか、うんうんと頷いている。

次に浮かんだのが、


「夜会か……」


こちらの手間はないものの、正直なところ行きたくない。

あちこちから浴びせられる視線は鬱陶しくて嫌だ。

とはいえ手っ取り早いと言えば、早いはず。


ところが――


「……ちょっと無理じゃないか?」


まさかの反対意見だった。


「なんでだ?」

「……そのうち分かる」


そのうちっていつなのか。そもそもなぜ無理なのか?

気にはなるがジュールが無理というのなら、おそらく無理なのだろう。

うーんと唸っていると、ジュールがソファから立ち上がった。


「とりあえず、アルマンさんに仕立て屋を呼んでもらうようお願いしたら?」

「まぁ……そうだな」


これ以上、何も浮かばないのだから仕方ない。

悪女との婚約を広める方法は、後々考えるとして、

今後のことを思うと、ついついため息が出る。


(……婚約者ってめんどくさいなぁ)


世の女性たちにはとても聞かせられないことを、ルシアンは本気で思った。

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