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『領地から一歩も出てないのに悪女!? 契約書は読み慣れてますが、ひと月500万リアの契約婚約って……私生児の私にどうしろと?』  作者: 星見蒼


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4/4

4、見抜けぬお坊ちゃま

「姉上!!」


ルシアンは目的の部屋に到着するなり、ノックもせずに駆け込んだ。

言い訳をするなら、ドアは開いていたのだ。

だから、ノックの必要性は感じなかったのだが……


「まぁ、淑女の部屋に随分と失礼なこと」


姉のセラフィーヌがジロリと自分を睨んでいる。

しかし、それどころではない。

……目の前の状況が理解できない。


なぜか姉上がヴェルナレット嬢が着ているドレスを軽く持ち上げている。

そのせいで――


(足首……足首が見えている……)


紳士としてあるまじきことに、視線を逸らすことができない。

あと少しでふくらはぎまで見えてしまいそうな危うさが、余計に視線を固定させる。


「……ルシアン、いつまで見ているのですか?」


姉上の冷ややかな声に、慌てて背を向けた。


「……すみません」


(いや……そもそも姉上が悪いのでは?)


確かに女性の素足を凝視するなど論外だとは思う。思うが……どうにも納得がいかない。どう考えても姉上の行動の方が常識的ではない。


「もういいわ。……ヴェルナレット嬢、貴女も声ぐらい上げるべきだと思うけれど」


姉上から許可が下り、ルシアンはくるりと体の向きを変える。

すると姉上の言葉に不思議そうにしているヴェルナレット嬢の顔が見えた。


「声?」

「ええ……男性に足を見られたのよ?」

「……足って……足首ですよね?」


ヴェルナレット嬢は自身の足元に視線を落としてから、先ほどと変わらぬ表情のまま首を傾げている。

その様子に、姉上が深いため息を吐いた。


(……男に……足首を見られることに抵抗がないのか?)


“悪女”なのだから想定の範囲内だというのに、どこか落胆している自分がいる。


(……なんだ……?この落ち着かない感じは……)


健康そうな、太陽の下が似合いそうな雰囲気のせいなのか、胸のどこともいえない部分がざわりとする。


「ルシアン」


いつの間にか姉上が目の前に立っていた。

見慣れた、生まれた時からずっと見てきた姉の姿に心が落ち着きを取り戻す。

そうして、自分が何をしにここへ来たのかを思い出した。


「姉上……わざわざ領地からお越しいただかなくとも……」

「面白いことを言うわね。次期当主の婚約者よ」

「……いかがでしたか?」

「わたくしが紹介した女性たちは、気に入らなかったと?」

「彼女たちは私に当主になって欲しそうでしたからね」


姉上が無言でルシアンを見ている。

その瞳に、告げる。


「当主にはなりません」

「……そんなに騎士の仕事がいいのかしら?」

「ええ」


ルシアンと同じアイスブルーの瞳。

ずっとルシアンを守り続けてくれた。


――強く優しい人


これ以上、自分の犠牲になって欲しくない。


長く重い沈黙が落ちる。

自分たちだけではなく、ヴェルナレット嬢もその侍女も。誰も何も言わない。

身じろぎすらしない。


その中で、姉上が静かに息を吐いた。

それだけで滞っていた空気が動く。


「分かっていると思うけれど、婚約を結んだ以上は、彼女はクレヴォワール侯爵家の人間です」


姉上の視線が、ヴェルナレット嬢へと向けられた。

ルシアンも同じように彼女を見る。

なぜか彼女は両手を胸元でぎゅっと組んでいた。

不思議に思いつつも、姉上へと視線を戻す。


「……まだ“婚約しただけ”ですが?」

「それでも、です」


射抜くような強い眼差し。

それにルシアンは大きく頷き返した。


「分かっています。クレヴォワール侯爵家に泥を塗るようなことはしません」


ところが、姉上は小さく首を左右に振った。


「わたくしが言っているのは、そういうことではないわ」


真意が計れず、ルシアンは姉の言葉を待つ。


「婚約者として、きちんと向き合いなさい」

「もちろんです」


素直に返事をしたルシアンに、なぜか姉は再び大きくため息を吐いた。

そして――


「とりあえず、彼女にドレスと宝飾品を用意しなさい」


意外とも思える指示だったが、よくよく考えてみれば


(……確かに贈り物は婚約者としての義務だしな……)


だからこそ納得し、「分かりました」と返したはずなのに。


姉上の目は“そうではない”と言いたげで。

子供の頃に『本当に……あなたって子は』と叱られた時と変わらない――

いや、まったく同じ表情だった。

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