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犬が転生したら飼い主と同級生になった件  作者: さく
第一章

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6/43

5

 昼休みになると、とたんに教室が騒がしくなる。机をガタガタと動かす音、教室を飛び出してゆく生徒の足音、はしゃぎ出す生徒の声。


 夏澄はすぐさま、楪に視線を向けた。楪は机の脇にぶら下げていたコンビニの袋を持って、席をたつ。そして、教室の外へ行ってしまった。


 夏澄は慌てて立ち上がり、楪を追いかける。夏澄に声をかけようとしていた生徒たちが「ああ~」と残念そうに声をあげた。夏澄はそんな声にはまったく気付かない。


 楪のあとをつけていけば、楪はどんどん階段を昇っていった。そして「立入禁止」と書いてある扉を何食わぬ顔で開けて、屋上へ出る。「立入禁止」は何の効果もなさないらしい。夏澄も構わず、扉を開けて楪を追いかけた。


 屋上には、ぽつぽつと人がいた。今度こそ「立入禁止」を不憫に思う。誰も言うことを聞いてくれない「立入禁止」、憐れなり。


 楪は屋上の一角に腰を下ろすと、ようやく夏澄の存在に気付いたようだ。「うわっ」とバケモノでも見たような顔をして声をあげる。



「や。さっきは驚かせてごめんね」


「おまえ、俺のことつけてきたの?」


「う、うん……」



 夏澄が楪の隣に腰掛ける。楪は逃げることもなく、パンを食べ始めた。夏澄も包みをほどいて、弁当を食べる。



「さっきの、なに? 『ご主人さま』って」


「い、いやあ……その。えーと、……」


「意味わかんね。怖いんだけど」


「ですよね……」



 楪の言うことはごもっとも。


 見ず知らずの人間に「ご主人さま」と言われたら、それはそれは怖いだろう。夏澄は何も言い返すことができず、すみませんと言うしかなかった。前世の話をすればとうとう宇宙人扱いされてしまいそうなので、黙っているしかない。



「楪……くんは、いつもここでご飯食べているの?」


「ああ」


「なんで?」


「一人が好きなんだよ」


「どうして?」


「なんとなく」



 むしむしと焼きそばパンを食べる楪は、夏澄のほうを見る気配がない。夏澄の言葉も、人間が発する言葉というより、オーディオプレーヤーから流れる音楽かなにかと思っているように、夏澄に興味を示さない。



「ねえ、友達になっていい?」


「いや」


「どうして?」


「一人が好きだから」



 何を言っても、「一人が好きだから」に帰結する楪。


 彼の態度は、明らかに夏澄との間に壁をつくりたがっていた。けれども、なぜだか彼と二人並んで座ることを居心地悪く感じない。こうもつっけんどんな態度、会話の続かなさ、居心地が悪くて仕方ないであろう状況でも、彼と一緒にいると不思議と心地よいのだ。


 前世で、ずっと一緒にいたからだろうか。

 


「僕がこうして話しかけているの、迷惑だったりする?」


「べつに。好きにすれば」


「うん……」



 ――そう、楪も思ってくれたらいいな。


 そんなことを夏澄は思う。


 二人は、ほとんど会話をすることがなかった。夏澄が話しかけて、ひとこと、ふたことラリーをして、おしまい。そんな会話をぽつぽつと続けて、そして、昼休みは終了した。



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