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昼休みになると、とたんに教室が騒がしくなる。机をガタガタと動かす音、教室を飛び出してゆく生徒の足音、はしゃぎ出す生徒の声。
夏澄はすぐさま、楪に視線を向けた。楪は机の脇にぶら下げていたコンビニの袋を持って、席をたつ。そして、教室の外へ行ってしまった。
夏澄は慌てて立ち上がり、楪を追いかける。夏澄に声をかけようとしていた生徒たちが「ああ~」と残念そうに声をあげた。夏澄はそんな声にはまったく気付かない。
楪のあとをつけていけば、楪はどんどん階段を昇っていった。そして「立入禁止」と書いてある扉を何食わぬ顔で開けて、屋上へ出る。「立入禁止」は何の効果もなさないらしい。夏澄も構わず、扉を開けて楪を追いかけた。
屋上には、ぽつぽつと人がいた。今度こそ「立入禁止」を不憫に思う。誰も言うことを聞いてくれない「立入禁止」、憐れなり。
楪は屋上の一角に腰を下ろすと、ようやく夏澄の存在に気付いたようだ。「うわっ」とバケモノでも見たような顔をして声をあげる。
「や。さっきは驚かせてごめんね」
「おまえ、俺のことつけてきたの?」
「う、うん……」
夏澄が楪の隣に腰掛ける。楪は逃げることもなく、パンを食べ始めた。夏澄も包みをほどいて、弁当を食べる。
「さっきの、なに? 『ご主人さま』って」
「い、いやあ……その。えーと、……」
「意味わかんね。怖いんだけど」
「ですよね……」
楪の言うことはごもっとも。
見ず知らずの人間に「ご主人さま」と言われたら、それはそれは怖いだろう。夏澄は何も言い返すことができず、すみませんと言うしかなかった。前世の話をすればとうとう宇宙人扱いされてしまいそうなので、黙っているしかない。
「楪……くんは、いつもここでご飯食べているの?」
「ああ」
「なんで?」
「一人が好きなんだよ」
「どうして?」
「なんとなく」
むしむしと焼きそばパンを食べる楪は、夏澄のほうを見る気配がない。夏澄の言葉も、人間が発する言葉というより、オーディオプレーヤーから流れる音楽かなにかと思っているように、夏澄に興味を示さない。
「ねえ、友達になっていい?」
「いや」
「どうして?」
「一人が好きだから」
何を言っても、「一人が好きだから」に帰結する楪。
彼の態度は、明らかに夏澄との間に壁をつくりたがっていた。けれども、なぜだか彼と二人並んで座ることを居心地悪く感じない。こうもつっけんどんな態度、会話の続かなさ、居心地が悪くて仕方ないであろう状況でも、彼と一緒にいると不思議と心地よいのだ。
前世で、ずっと一緒にいたからだろうか。
「僕がこうして話しかけているの、迷惑だったりする?」
「べつに。好きにすれば」
「うん……」
――そう、楪も思ってくれたらいいな。
そんなことを夏澄は思う。
二人は、ほとんど会話をすることがなかった。夏澄が話しかけて、ひとこと、ふたことラリーをして、おしまい。そんな会話をぽつぽつと続けて、そして、昼休みは終了した。




