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昼休みになると、決まって夏澄は楪の後ろを着いてきた。どうして彼はここまで自分に懐いているのだろうと不思議に思いつつも、無理にはね除けることはできずに彼を受け入れてしまう。ただ、彼は一人でぺらぺら喋ってくれるので、気を遣わずにすんで楽だ。
「今日は何パンを持ってきたの?」
「コロッケパンとクリームパン」
「楪はいつも、しょっぱいパンと甘いパンを組み合わせるよね」
「そうしないと味が締まらないだろ」
「そういうもの?」
昼食はいつもコンビニのパン。母が生きていたころはお弁当を作ってもらっていた。母亡き今、楪はお弁当を作る気力もなく、コンビニのパンで昼食を済ませている。パンは嫌いではないのでいいのだが、お弁当を持っている生徒を見ると「いいな」とちょっぴり思ってしまう。
そんなことを考えていたからか、夏澄のお弁当をジッと見てしまっていた。ささみチーズフライ、卵焼き、にんじんシリシリ、トマト、ブロッコリー。華やかなお弁当には、愛情がたっぷり詰まっているように見えた。
「楪、これ、食べる?」
「えっ!? あっ、いや……いいよ。おまえの弁当だろ」
「そうだけど。このフライ、美味しいんだよ~。お母さんの揚げ物は絶品なんだ。美味しいから、食べてみてほしいな」
「……、わかった」
そこまで推されたら、断るのは忍びない。
しぶしぶ楪が頷くと、夏澄はパッと笑った。
そして、夏澄は箸でささみチーズフライをとって「はい」と楪に差し出してくる。楪が「?」と眉をひそめていれば、もう一度「はい」と言ってくる。
「え?」
「え? はい、あーん」
「『あーん』!?」
この生涯で、男に「あーん」をされる日がくるとは思っていなかった。
楪は苦笑いをしながら、体を後退させる。しかし、ささみチーズフライが追いかけてくる。ぐいっとささみチーズフライを唇に押しつけられたので、仕方なく楪は口を開けた。誰かに見られていたら最悪だ。
「――あ、美味しい」
しかしながら、ささみチーズフライの味は絶品だった。夏澄がこれだけ推してきたのも納得するくらい。作ってから半日近く経っているというのに、サクサク感が残っている。チーズがたっぷりと入っていて、ささみと蕩け合ってほどよい塩気が舌に残る。これだけ美味しいものをもらってしまったのが、申し訳なくなってしまった。
「えっと……もらってばっかりじゃあなんだし……俺の、食べる?」
「いいの!?」
ぬ、とコロッケパンを差し出せば、夏澄がぱあっと花が咲いたように笑った。
コンビニのコロッケパンと母親の手作りささみチーズフライでは等価交換になっていないようが気がしたが、夏澄が喜んでくれるならそれでいいかと思う。
夏澄が嬉しそうにコロッケパンにかぶりついた。少し遠慮したのか、コロッケ部分があまりかじれていない。ガッツリ言ってもいいのに、と思ったが、夏澄は満足げだった。
――かわいいな。
心のなかでポッと芽吹いた気持ちは、初めてのものではなくて。
この気持ちが頭を出すごとに、楪はすることがある。
「わ」
ぽんぽん、と夏澄の頭を撫でる。
こうすると、心が和らぐ。温かくなる。
撫でたときにくしゃっと笑う夏澄の表情が、好きだ。




