第二話
「んー。燃やすのは勿体なかったかなぁ、やっぱり……」
私のいた離れの屋敷には私しか住んでいなかった。
メイドも執事も本邸にしか居ないので誰も傷つけずに屋敷に放火し行方を眩ます。
スピリタスはホントによく燃えた。
私のギリギリ種火になるかも怪しい小さい炎でもだ。
酒好きとしてはいかがなものかとは思ったが自分がこの世界で自由に居きるためには仕方がないと、しぶしぶ納得させる。
激しく炎上する屋敷を尻目に、森を抜け、近くの町に着いた
日は完全に昇っており、町には人が溢れている。
人の合間を縫いながらある場所に向かう。
冒険者ギルド
そう看板が掲示された建物に入っていく
混んでない受付を探し、声をかける。
「依頼を出したいのですけど……出来ますか?」
「大丈夫ですが……どういった内容でしょうか?」
受付の女性に別の国への護衛依頼と報酬を伝える。
持っていた金額で足りるか心配だったがなんとかなりそうだ。
「この内容でしたらすぐ見つかるとは思いますが……こちらで待たれますか?」
別の国へはこの町からだと一週間位の旅になる。
旅の準備をしたい為、明日朝また来ることを伝え冒険者ギルドを出た。
次に向かう場所は決まっている
この町には珍しい鍛冶屋があるのを姉から聞いていた。
そうこの国でも数少ないドワーフの働く鍛冶屋だ。
数分歩くと目的の場所に着いた。
建物からはカンッカンッと甲高い音が鳴り響いている。
「ごめんください……」
扉がなく開けっ放しになっている入り口から覗き込み、声をかけると奥のカウンターに人の青年がいた。
自分の声が聞こえたのか青年はこちらに近づいてきた。
「いらっしゃいませ。えっと……武器をお探しかな?」
困惑気味に聞いてくる青年に目的を告げる。
「今日は武器の購入ではなく……お酒を買い取って貰いたくて……」
「お酒……なるほど、今親方を呼んでくるね」
そういって青年が奥に引っ込んでいくと鳴っていた音が鳴り止み、奥からドタドタと恰幅のいい、いかにもなドワーフおじさんが現れた。
「ドワーフに酒を売ろうなんざどんな奴かと思ったが、お眼鏡に叶う酒もってんのか?」
自分の姿を確認したドワーフのおじさんは少し落胆気味に聞いてくる
「まがりなりにも一人の酒好きとして……最高の一品をお出しします。」
「ふ、ははっ!!、まぁいいこっちに来な。」
自分の堂々とした答えに喜んで貰えたのか手招きされ奥へと進む。
どうやら青年は受付に戻るようで私とドワーフのおじさん二人でソファーやテーブルのおかれた部屋へ入る。
どかっと豪快にソファーへ座り、おじさんは自分にも席に着くように促す。
「で、酒は?どんなもの持ってんだ?」
「まぁ、少しお待ちください。まずはこちらを……」
席に座った私はまず、自分の飲みたい酒を思い浮かべながら手を叩いた。
パンッという手の音の後にテーブルに1本の瓶が現れる。
「……なんだその酒……濁ってんぞ?」
「これはですね、とある国では神事にも使われることもあるお酒です。」
透明な瓶を白く濁らせたそれは日本でも古くから飲まれている濁酒、どぶろく
出したはいいものの……
「すみません……お猪口……いや、グラスありますか……」
「ん、飲んで決めるのか?なら先にいってくれ」
ドワーフのおじさんは部屋を出たかと思うとすぐに戻ってきて幾つものグラスを持ってきた。
とりあえず適当に二つグラスをとりどぶろくに触れる。
瓶はひんやりと冷えており飲み頃の温度だ。
とくとくとグラスに一口づつ注ぎひとつを手渡す。
「なんだおまえも飲むのか……まぁいい……」
この世界に来て始めてのお酒……
自分も楽しむべく口に含んだ。
「ん?!これは……」
「ふぁぁ…うまぁ…」
二人同時に声が漏れる。
口のなかで甘さと酸味の絡み合うとろけるような口当たり
あぁ懐かしきどぶろく……
感じた味は日本にいたときと変わらず、この世界でも、体でもお酒は最高においしかった
「……この酒はやっぱり売るのやめます。」
「はぁっ?!なに言ってんだ!俺は買うぞこんな酒飲んだことないからな!」
「……金貨10枚。」
この国でかなり自由に生活できる金額を吹っ掛けてみた。
「いいぞ!即金で渡してやろう!」
嘘でしょ?
「いや、空いてる酒ですし、この酒はあまり保存もきかなくて……」
そういって仕舞おうと手を伸ばしたが
「構わん。もうのんじまうからな!」
こちらの制止も振り切られどぶろくはドワーフのおじさんに一気飲みされてしまった……。
おぅ……
「んぐっ……んん……ぷふぁ……」
「あぁ……」
なくなってしまったどぶろくに膝を着き崩れ落ちた。
「他にもなにかないのか?まだ珍しい酒あるだろう?」
「ありますが……買えるんですか?」
「気に入ればさっきより出してやるぞ。珍しいより酒精が強い方がいいがな!」
それならいい酒がある。
ある酒を思い浮かべながら私は手を叩いた。