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【第二十二話『それぞれの土曜日』】③

主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。

    戦闘スタイルは、①しなる剣、②複数の種類の孔雀目ビット、③鋭利な大量の羽根

    戦術家だが感情に流されやすい。

    この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いを進路に志望している。

    今は、自分の目指すべき「誠」という人格態度を磨いている。

    3人目の仲間に天才サポーターのサダルが見つかった!現在チームは連勝中

 親友:現在、HPの半分と引き換えに新しい戦術を獲得して前衛特化になった。

    名前はハクラビ愛称はハク。太陽天秤座、月蠍座。すごく顔がいい。

    戦闘スタイルは、①軽弓、②双剣、③分身

    知らない物の値段を当てる特技がある。

    裏表のない性格、深刻な場面でも軽口を叩く。育ちが良くて挫折知らず。

 仲間:名前はサダル。太陽水瓶座、月蟹座。早生まれで少し体が小さい同じ学校同級生。

    戦闘スタイルは、①氷の双銃②魔方陣型迫撃砲③自律型bot④ガジェットの作成

    リゲルとハクのアバター戦の3人目ののチームメイト。

    万能支援をやってくれる。現在はやや二人より実力は上。 

    最低限の単位だけ取ってゲームセンターに入り浸っている。

    あまり仲のいい人がいないが、すごい才能をもっている。

    一度リゲルの誘いを拒絶した。


◆現実に戻る


「……うそ、もう四時?」


小さくつぶやいた声が、展望室の静寂に吸い込まれていく。

リゲルは、ほとんど反射のように端末を開き、表示された時刻に目を奪われた。


表示は、16:02。

わずかに汗ばんだ指先が、時間の確かさを裏付けていた。


窓の外の光も、いつの間にか変わっていた。

かつては蒼白く冴えていた空が、今はどこか金属を思わせる鈍い橙に染まっている。

天頂から差し込んでいた白光は斜めに傾き、展望室の床に、長く薄い影を描いていた。


「そんな……朝だったはずなのに……」


振り返ると、惑星模型のひとつが静かに回転を続けている。

まるで、彼が忘れていた時間を、律儀に刻んでいたかのように。


リゲルは、思わず自分の掌を見つめる。

そこには、何も残っていない。

けれど確かに、彼はこの部屋で、世界の外側に触れていた。


「……戻らなきゃ」


そう口にしても、すぐには動けなかった。

現実に戻るには、ほんの少しだけ“助走”が必要だった。


けれど――

その時ふと、ある匂いが脳裏に蘇った。

湿った土と、柔らかな藁の匂い。

そして、耳の奥に蘇る声――


「来週、また来てくれるって言ってたのに、全然来ないんだもん」


ラピスの、すねたような言い方と、そのあとに続く、少しだけ嬉しそうな笑い声。

あれは、何曜日のことだったろう。


思い出すまでもなく、もう何日も行っていなかった。

気づけば、足はすでに扉の方へ向かっていた。


冷たい床に靴音を残しながら、リゲルは展望室を後にする。


「……ラピス、いるかな」


ひとりごとのように呟いたその声には、どこかくすぐったいような、微かな後ろめたさが滲んでいた。


そうしてリゲルは、長い沈黙を破り、久しぶりにウサギ小屋へと歩き出した。


地下訓練施設ハクパート


朝の開錠と同時に、ハクは誰よりも早くこの場所に足を踏み入れていた。


白い照明が無音で灯り、人工的な青白さを保ったまま、時間の経過をまるで嘘のように隠している。


まだ誰もいない訓練室。その空気は、薄く張りつめたまま、動く者を試すようにじっとしていた。


ハクは小さく息を吐き、モニターに個人認証を通す。


その瞬間、壁面の魔法陣がゆっくりと展開を始めた。


無機質な青光が足元を染め、やがて双剣が召喚される――二本の異なる剣。


ひとつ目は、きらめく光を帯びた剣だった。


淡く輝く銀色の刃は、周囲の光を微かに反射しながら、まるで星屑を閉じ込めた結晶のように淡く揺れていた。


ひと振りすれば、その軌跡に沿って光の残像が残り、一瞬だけ空間そのものが記憶するかのように刃の動きをなぞって煌めいた。


刃先を傾ければ、鋭利な線が空間を切り裂くように、スッと音もなく空を裂く。


しかし、耳を澄ませば、ひと振りごとに小さな風鳴りが生まれる。


きぃん、と高く澄んだ音が、空気を切って響き、軌道の余韻が壁面にまで反射して余音を残す。


まるで、刃の動きそのものが音楽のようだった。


もうひとつは、黒曜石のように艶を帯びた暗い剣。


その刃は、周囲の光をゆっくりと吸い込みながら、輪郭の内側でほのかに淡い光を灯していた。


まるで夜の湖底に沈んだ星のように、見えない輝きが剣の奥底から揺らめいている。


闇に溶け込むような質感と、かすかに脈打つような光の共存。


その剣を振れば、吸収した光の余韻が刃の軌跡に沿って微かに揺れ、残像のように後を引く。


音はなく、それでいて確かな質量を感じさせる動き。


空気そのものが重くなるようで、振るたびに重低音が微かに空間を震わせた――ずぅん、と遠くで鐘が鳴ったような振動が足元に響く。


「……頼むぞ。どっちも、俺の半分だ」


光の剣――通称《金星の刃》は、美と調和の象徴。


戦場にあってなお優雅さを失わず、攻撃を“受ける”ことで輝きを増し、体力を回復しながら刃としての鋭さを保つ。


それは、傷つくことを恐れず、美しさで耐え抜くという、調和的な強さの象徴だった。


闇の剣――別名《キロンの刃》は、痛みと知恵の記憶そのもの。


敵の強化を静かに吸い上げ、自分の力として“傷を受け継ぐ”その設計は、まさに不完全さを受け入れる意思の具現だった。


光と闇、吸収と抑制――すべてが対を成す構造。


それを両手に抱えることは、「耐えて、最後に勝つ者」としての宿命を象徴していた。


ハクはかつて、「瞬間的に輝けない」ことに苦しんでいた。


だがこの双剣は、攻撃を受け続けることこそが最適解であると教えてくれる。


“残る”という行為そのものが武器となる構造。


彼にとって、これは自分を肯定する転機だった。


リゲルのビット光線との屈折連携、サダルの戦術支援との相性も申し分ない。


ライサの瞬間火力、アレッタの精密狙撃とは異なり、ハクは“戦況を歪ませ、維持し続ける者”となった。


光の剣が、相手の斬撃を吸収しながら美しく輝き、


闇の剣が、敵のバフを食らうように静かに光を飲み込む――


その姿は、痛みと癒しを両腕に抱える戦士の姿だった。


長期戦でこそ輝きを増す後半型構造。


目立たぬ序盤を支える伏線としても、十分すぎる存在感を持っていた。


最大HPを犠牲にして得た武装。


ひとつは、鋭い物理攻撃を主体とし、命中と同時に敵にデバフを与え、さらに自らの体力を少しずつ回復する仕組みを持つ。


もうひとつは、魔法属性を帯びた攻撃で敵のバフを逆流させて吸収し、その効果を自らに転化すると同時に、やはり体力回復を付随させる。


片方は“削りと弱体化”、もう片方は“吸収と強化”を役割として担い、どちらも攻撃されることで発動条件を満たす、非常に特化した設計だった。


どちらも、防御ではなく、“攻撃されることそのもの”を前提に設計された剣だった。


その代償として、ハク自身のHPは、かつてのちょうど半分になっていた。


「……HP、半分か。やっぱ……ギリだな」


だが、それでいい。


端末に保存されたログを振り返れば明らかだった。


自分が最も生存時間を稼いでいた戦いは、決して速攻型のそれではない。


回避と、防御と、撹乱。


“倒さず、倒されず、戦場を支え続ける”という在り方。


それこそが、自分の適性だ。


「じゃあ、やるか」


模擬敵――訓練人形が踏み込んでくる。


関節の音を微かに鳴らしながら突進するその影に対して、ハクは、避けない。


瞬間、鈍い打撃音が訓練室に響く。


肩口に重たい衝撃が走る。視界が一瞬滲むが、同時に光の剣が青白く輝き、反応するように震えた。


刃先がほんのわずかに跳ね、魔力を吸い上げるような吸引音が耳の奥を掠める。


シュウゥ……と熱を奪うような細い音とともに、敵の魔力が剣へと引き寄せられ、ハクの身体の芯へと暖かいものが戻ってくる。


続いて闇の剣がわずかに軌道を変え、刃の縁が訓練人形の肩をかすめるように撫でた。


その瞬間、パチッと小さな音が鳴り、敵の周囲に漂っていた強化魔法がざらついた光の膜となって揺らぎ、煙のように霧散する。


バフの逆流。奪うのではなく、“戻させる”。そんな不思議な感覚が、刃を通してハクの手に伝わってきた。


「……なるほど、な」


言葉にすると、実感が腹に落ちる。


攻撃され続ける限り、自分は“残り続ける”。


今度は光の剣を振りながら、肩越しにかわす。


受け流す瞬間――魔力の膜が手元にしゅるりと巻き付き、剣の柄に吸い込まれていく。


(……そうか、これ、“分身”にも使えるな)


ハクは魔力を操作し、輝水の分身を――完全ではなく、一部だけ、肩先と腕だけを模したものを展開する。


それに敵の攻撃が当たり、分身が砕ける。


同時に、光の剣がその破片ごと魔力を吸収し、“自分が攻撃されたと誤認させる”ことに成功した。


「……よし」


ほんの小さく頷いて、再び双剣を構える。


訓練室の空気が、熱を持ち始めていた。


時間が溶けるように流れていく。


次の瞬間、ハクは自らに魔法を照射する。


防壁なし、回避なし。


代わりに――光の双剣が、水の幕を引いたように揺れる。


「輝水――展開」


双剣から、きらきらと光る水が流れ出す。


それが周囲を覆い、剣と剣の間で共鳴する膜を形成した。


魔法弾が到達。


ズ、と軽く音がして、光弾は半ばで軌道をずらされる。


滑らせて抜ける――その感覚を、ハクは確かに掴みつつあった。


分身の構築。


水の膜が左右に分かれ、ハク自身を鏡像のように写した分身が二体、ふわりと浮かび上がる。


それは幻影ではない。


物理的にダメージを肩代わりできる構造を持っていた。


ハクはひとつ深呼吸し、分身の中に身を預けるように構える。


「攻撃されるのが、前提ってわけだ」


走る必要も、避ける必要もない。


ただ、そこに立ち続けること。


仲間が技を完成させるまでの時間を、耐えて、繋ぐこと。


それこそが、自分の役割。


そして――


その思考の隙間を縫うように、静かに現れる影があった。


「……ハク」


背後から聞き慣れた声。


振り返ると、水鏡の白鷺の精霊――ルミレナが、光の羽を揺らしながら静かに佇んでいた。


「貴方は、チームの時間を繋ぐ橋になる」


それだけを告げて、ルミレナは一歩、床を滑るように前へ出た。


ハクの掌に、一枚の小さな羽を落として。


光と闇。


回復と損耗。


そして、“残り続けること”――


ふと、端末が鳴った。


表示された時刻を見て、ハクは素で呟く。


「……うそ、もう十七時?」


誰に言うでもない苦笑が、訓練室に広がる。


地上の光が、遠い場所の出来事のように思えた。


けれど今日の自分は、確かに、昨日よりも――前に進んでいた。


◆自室と再設計サダルパート


 サダルの部屋には時計がなかった。

 人工光に照らされたモニターの輝きだけが、時間の流れをぼかしていた。


 音はほとんどない。カーテンは閉ざされ、空気清浄機の低い駆動音と、キーボードではなく空中に投影された操作パネルを叩く指の音だけが淡々と続いている。


 机上には、三面モニターと多数の立体ホログラム。

 映っているのは、校内模擬戦のログ、過去の演習記録、戦術構造モデル、そして未承認の実験案。


 その中心に、新たなタスク群が並んでいた。

 ――《第2期構成:3名編成・中距離対応型 暫定案4》

 リゲルのビット展開時間と射出角度、ハクのHP再分配アルゴリズム、そしてサダル自身の補助魔法の伝達レイテンシ。


 それらがすべて、ひとつの構造体として結びつけられている。


「吸収……バフ奪取……再分配……」


 彼の指が止まる。

 ハクの双剣は、従来型の“攻撃特化”や“防御特化”の設計を明確に外れていた。

 体力を削られながらも吸収し続け、バフとデバフを切り替える反転構造。

 前例がない。だが、理論上は成立している。


 さらに、戦場に配置された時の“耐性の分布変化”が、サダルの計算では特異な結果を出していた。

 敵の行動選択が、無意識にハクを避ける方向に偏る。

 恐らく、剣の属性干渉によって魔力の流れがゆるやかに反射している。


 この“重み”が戦場に及ぼす圧力こそが、今の設計の肝だ。

「これは……壁じゃなくて、磁場か」


 サダルは、モデル上に可視化されたハクの立ち位置に、魔力場の流れをオーバーレイする。

 そこには、まるで海流のように複雑な反応パターンが生まれていた。


 受けることで変化を起こし、変化そのものが敵の行動に影響する。

 彼の剣は、ただの武器ではない。場の構造に“意味”を与える中核だった。


 一方で、リゲルのビットは相変わらず明快だ。

 構造展開と同時に最大5本、射線を自動で算出・照準・追尾する。

 高威力だが、精度が落ちると持続力が損なわれる。


 そこを支えるのが、サダル自身の冷却補助回路と再調整スクリプト。

 すべては繋がっていた。


 ひとつ欠ければ、機能しない。

 逆に、すべてが噛み合えば――


「……勝てる。構造としては、破綻がない」


 彼の声は無意識に漏れたものだった。

 戦術モデルが構造的に成立するということ。

 それは単に“勝てる”という意味ではなく、“信じられる形”になったということだった。


 サダルは椅子を回転させ、モニター越しにふたりの姿を投影した。

 リゲルの射出姿勢。

 ハクの着剣体勢。


 どちらも粗削りで、まだ未完成だ。

 けれど、重ねたデータは嘘をつかない。


(……チームが、成長してる)


 そのことに、はじめて胸が熱くなる感覚があった。

 単なる設計や数式では埋めきれない、何か。

 自分の知識が、誰かの行動に活きる。

 ただの手順が、誰かの可能性を押し上げる。


 それが、心地よかった。


(初めてかもしれないな……)

 誰かと強くなることが、こんなに嬉しいと思ったのは。


 ふと、画面の端に時刻が浮かび上がる。

「……十七時?」


 一瞬、時間の意味がわからなかった。

 昼過ぎに始めたはずの作業が、いつのまにか日没を越えている。

 けれど、疲労はなかった。


 この思考はまだ終わっていない。

 再び彼はモニターに向き直る。


「この構造は……崩れない。

 でも、“導くもの”が必要だ」


 戦術モデルに命を吹き込むのは、計算でも魔力でもない。

 それは、“意志”だった。


 誰が中心に立ち、戦場を導くのか。

 誰が、戦略の意味を示すのか。


 リゲルの姿が、自然に頭に浮かぶ。

 だが、同時に――

 敵の攻撃を受けきって、それでも立ち続けるハクの背中も、そこに重なっていた。


 そしてサダルは、ふたりの名前を口に出さず、ただ小さく笑った。

 それは、演算結果でも予測でもない、確信のような微笑だった。


◆土曜の夕方、飼育小屋にて


 夕方の光が、東棟の裏をゆっくりと染めていた。

 飼育小屋の屋根をかすめるように射し込む橙色の光が、床のわずかな埃を浮かび上がらせ、

 それが柔らかく揺れる藁の間で、まるで時間の残り香のように漂っていた。


 リゲルは、飼育小屋の引き戸を開けた瞬間、かすかに懐かしい匂いに包まれた。

 湿った草と動物の体温、少し乾いた木の香り。

 そして、かすかに石鹸とラベンダーを混ぜたような、ラピスの匂いも混ざっていた。


 耳の奥で、以前ここで交わしたやりとりが、断片的に蘇る。

「……リゲル?」


 奥の方で、ボーカルの毛並みにブラシをかけていたラピスが顔を上げた。

 制服の袖はきれいに折りたたまれ、エプロンにはほこり一つない。

 髪も整っていて、以前より少しだけ背筋が伸びて見えた。


「久しぶり。来るなら言えばよかったのに」

「……来てみたら、来たくなった」


 リゲルは苦笑を混ぜて答える。

 ラピスは肩をすくめながら、ボーカルの頭を優しくなでた。


「どう? 選抜戦。調子よさそうって聞いてるけど」

「うん。まあ……思ったより、うまくいってる」


 リゲルは、控えめにそう言ったが、頬の筋肉は隠しきれずに緩んでいた。

「そっか。よかったじゃん」


 それ以上、ラピスは深く聞かなかった。

 けれどその目には、ほんのりとした安堵が滲んでいた。


「生徒会の方も、最近はちゃんと回ってるよ」

「え?」

「前より、余裕ある。役割分担もうまくいっててさ。……あ、でも手を抜いてるわけじゃないよ」

「抜いてるようには見えない」


 ラピスが笑う。

 その笑みは、以前より少しだけ自信を帯びていた。


 リゲルは棚の上に置かれていたブラシを取ると、そっとギターの背を撫で始めた。

 ギターは、一瞬だけぴくりと耳を震わせたが、すぐに満足そうに目を閉じた。


 風が少し強くなり、窓の隙間から冷たい空気が差し込んでくる。

 リゲルはふと藁の量が少ないことに気づき、奥の袋から新しい束を取り出して敷き直した。


 冷え込む日曜の夕方、彼のその仕草はさりげないようでいて、確かな気遣いだった。


「……なんか、不思議だね」

 ラピスが呟く。

「お互い調子がいいと、逆に会えなくなるなんてさ」


「皮肉だね」


「でも、こうして会うと、すぐ戻れる。……そこが変じゃないのが、ちょっと嬉しい」

「うん」


 小屋の中に、穏やかな時間が満ちていく。

 以前のような、迷いや沈黙の重さではなく。

 互いに歩いた時間があることを前提とした、柔らかい“再会”の静けさ。


「でもさ、ちゃんと経ってるんだよね。リゲルも、顔つき変わった」

「ラピスも」


 ほんのわずかな沈黙。

 そして、ふたりはほぼ同時に小さく笑った。


 ボーカルがタイミングを見計らったかのようにくしゃみをし、キーボードがそれに反応して鼻先をぶつける。


 何も変わらないものと、確かに変わっていくもの。

 どちらもここにはあった。


「また、時々来てくれる?」

「……来るよ」

「選抜戦、終わるまででもいい」

「終わってからも来る」


 その返事に、ラピスは何も言わず、ただ静かに笑った。

 あの頃より、ほんの少しだけ、灯の強くなった笑顔だった。


◆偶然の集合


 昇降口前、三人の足が、ほぼ同時に止まった。


 リゲルは、飼育小屋からの帰り道だった。

 ハクは、訓練棟の奥で、限界まで負荷をかけた新双剣の試験を終えたばかり。

 サダルは、自室で一日かけて戦術構造の再設計をしていた帰りだった。


「……なんで今、三人いるの?」


 先に声を上げたのはハクだった。汗はすでに引いていたが、着替えたシャツの襟元はまだわずかに濡れている。


「偶然って、あるんだな……」


 サダルが端末をスリープにしながら、やや苦笑気味に言う。


「いや、今の時間、俺ら揃う約束してないよね?」


 リゲルがそう言うと、三人ともほんの少しだけ目を見合わせた。


 それぞれ、今日は“誰とも会わずに済む一日”のはずだった。

 実際、サダルは構造モデルに没頭し、ハクは誰にも見られない場所で装備テストをし、リゲルはようやくラピスと静かに言葉を交わせた。


 なのに。


「……結局、こうなるんだな」


 ハクがぼそっと呟く。


「それぞれ調子が上がってるとさ、逆に、会う時間って減るんだなって、今日思ったとこだった」


 リゲルが、ほんの少し気まずそうに言う。


 サダルは、うなずく。

「だから、偶然でも会えるの、ちょっと嬉しいかも」


「てか、ゲーセン麻雀、日曜だろ? 別に今日じゃないのに」


 ハクがそう付け加えると、三人とも自然と笑った。


 なんでもない会話。けれど、そこに妙な“安心”があった。


「俺、今日は地上に出たのすら夕方だった。ずっと設計組んでて」


 サダルが、報告のように言う。


「俺は、装備。新しい双剣……まあ、計算どおり“死にかけ”た」


 ハクがあっけらかんと笑う。


「俺は……朝から図書館で占星術の本読んた。その後飼育小屋。ラピスと、ちょっとだけ喋った」


 リゲルが、わずかに照れながら目をそらす。


「全員、一人で、ちゃんとやることやってたんだ」


 サダルが納得するように言った。


「で、最後にここで偶然、合流?」


 ハクが肩をすくめる。


「……うどん屋、行く?」


 リゲルが静かにそう言った瞬間、二人は同時に頷いた。


 陽はもう傾いて、校舎の影が足元を長く伸ばしていた。


 風が少し冷たい。でも、肩を並べて歩き出す三人の歩調は、自然と揃っていた。



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