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【第二十二話『それぞれの土曜日』】①

主人公:名前はリゲル。太陽双子座、月魚座。孔雀のような雰囲気を持つ少年。

    戦闘スタイルは、①しなる剣、②複数の種類の孔雀目ビット、③鋭利な大量の羽根

    戦術家だが感情に流されやすい。

    この世界の外側の異形と関わり合う職業のアバター使いを進路に志望している。

    今は、自分の目指すべき「誠」という人格態度を磨いている。

    3人目の仲間に天才サポーターのサダルが見つかった!現在チームは連勝中

 精霊:名前はぴーちゃん。孔雀の精霊。曜日ごとに性格や見た目が変わる。

    土曜日のぴーちゃんは、寡黙でしっかり者。

    イメージカラーは水色。

    時間に厳格で、やるべきことをやってないと嘴でつついてくる。

◆土曜日のぴーちゃん

 今日は、祝日だった。登校もない。朝練もない。試験も、ない。


 その朝は、雲のヴェールに包まれていた。空は一面、絹のように薄い白。風が静かに窓を揺らし、涼しさが部屋の隅にまで染み込んでいる。


 暑くもなく、寒くもなく――ただ、考えるにはちょうどいい温度だった。


 リゲルは、布団の中で膝を抱え、頭まですっぽりとくるまっていた。毛布の奥にこもる体温に、もう少しだけ包まれていたかった。いつもより少しふかふかに感じる枕が、妙に心地いい。


(……今日は寝てていい。昨日、夜遅くまで頑張ったし……)


 意識がじわりと沈んでいく。もう一度、夢の続きを――


 コツン。


「……ん?」


 額に、軽い刺激。寝ぼけたまま手を伸ばしてみるが、何もない。そのまま寝返りを打って、布団に潜る。


 コツン。コツン。コツン。


「……ぅあ……やだ……もうちょっと……」


 今度はテンポが速い。布団の向こうからでも伝わってくる、小さな意思表示。


 それでもリゲルは、目を開けなかった。布団を深くかぶり、毛布の中に潜伏。


(……見えなければ、いないのと同じ……)


 そう信じて、沈黙を貫いた――そのときだった。


 コツン。

 コツン。

 コツンコツンコツン。


「……うわっ、やっ、やめて、首は反則!!」


 布団の隙間から差し込んだ嘴が、リゲルの一番苦手な“首筋”に集中攻撃を始めた。ピンポイントで弱点を突いてくる、まさかの戦術。


「ごめんごめん降参! 降参するってば!!」


 ばさっ、と布団を跳ねのけてリゲルが飛び起きた。その目の前に、精霊の土曜日のぴーちゃんがふわりと浮いていた。


 水色の羽根。無表情なまなざし。


 まったく感情を見せず、ただ仕事を遂行するかのように宙を舞っている。


 そして、一言。


「……図書館」


 容赦がなかった。でもその声には、責める色も、命令する圧もない。ただ、確実に“今日すべきこと”を告げる温度だった。


 リゲルは寝癖のまま、枕に突っ伏した。


「……図書館って……朝イチで行くとこじゃないと思うんだけどなぁ……」


 返事の代わりに、ぴーちゃんが言葉を重ねる。


「……星」


 昨日のことを思い出す。6人で秘密の部屋を見つけた。あの部屋の持ち主の情報があるかもしれない。


 そして、その過程の占星室で見つけた天球図、流れ星と魔術式の位相関係。


 気になったまま、寝落ちしていたあのページ。


 ぴーちゃんは、そっと羽根で枕をつつく。リゲルが顔を上げるのを待つかのように。


「……勉強」


「ぴーちゃん、ストレートすぎる……」


 リゲルが半分目を閉じながらぼやくと、ぴーちゃんは、もう一度、最後の言葉を投げかけた。


「……魔法」


 それは、確かに昨日、心をかき乱した響きだった。もやもやして、対象が何かははっきりしていないが、確実に好奇心が自分の中に渦巻いていた。


 まだ解けてない謎が、そこにある。


「……もう、わかったよ。行くよ、図書館」


 リゲルは、ようやく肩を起こして息を吐く。寝起きの髪を直す前に、まず冷たい水を一杯――そんな朝。


 ぴーちゃんは何も言わず、静かに前を飛んだ。


 図書館。星。勉強。魔法。


 たった四つのことばで、今日が始まる。


◆図書館へ――過去の気配を探して(リゲルパート)


 ぴーちゃんに追い立てられるようにして起きた朝。


 リゲルは、一人で図書館に向かっていた。途中、訓練棟の方へ曲がっていくハクの背中を遠目に見送った。


 サダルは朝から自室にこもると言っていた。何か調べ物があるのだろう。自然と、今日は別行動になっていた。


 敷地の端、芝生の上を風がすべっていく。雲は薄く、空の向こう側が透けて見えるようだった。


 それはどこか、昨日見た星図の“上”に広がるものに思えた。


 図書館の自動扉が静かに開く。中は、思ったよりも暗かった。照明は一部が落とされ、窓からの自然光が床をなぞるように差している。


 棚の合間に浮かぶ埃の粒が、まるでゆっくりと沈む星のように見えた。


(……誰も、いない?)


 その静けさに、思わず足音を控えた。


 受付に人影はなく、端末にもログインの気配はない。ただ、奥の閲覧スペースに微かに残る紅茶の香りだけが、最近まで誰かがいたことを物語っていた。


 リゲルは息を整え、目的の棚へ向かう。


 昨日の夜、見つけかけた一冊。


 秘密の部屋の“持ち主”――あの机とあの鍵、そして星図の貼られた壁を遺した、過去の生徒の痕跡。それを知るための糸口が、ここにあるはずだった。


 分類番号〈7A-58:占星/古典魔術/記録〉。


 いくつかの書架を巡りながら、古びた製本の背表紙に指を走らせる。


(たしかこのあたりに……)


 だが、ない。


 昨日、みんなと解散した後に図書館に因った時に一度手に取りかけたはずの、あの過去の先輩たちの魔術研究誌が、棚ごとごっそり入れ替わっていた。


 閲覧中の表示はない。検索端末でも所蔵データは確認できるが、現在位置が“処理中”とだけ表示される。


「……誰かが、持ってった?」


 リゲルは思わず声を漏らす。


 だが、周囲に返事をする者はいない。ぴーちゃんすら姿を消していた。


 まるでこの静けさそのものが、昨日の出来事の続きを――あるいは、それを隠そうとする何かを、演出しているように思えた。


 リゲルは棚を離れ、ふと奥の階段を見上げる。


 二階の古記録エリア。


 そこには、退学者や旧制度期の生徒記録、退役したアバター志望者たちの名簿が眠っている。


(……名前くらい、残ってないかな)


 その思いつきは、一縷の希望だった。


 だが――


 古記録データベースの閲覧端末は、今日に限って“定期メンテナンス中”だった。


 アクセスには許可コードが必要とされ、通用の学生ログインでは弾かれてしまう。


 椅子に腰を下ろす。深呼吸をひとつ。


 空は晴れていた。けれど、手がかりは何ひとつ掴めなかった。


(……やっぱり、簡単には教えてもらえないか)


 机の上に置かれた、昨日のメモ帳を思い出す。


 そこに書かれていた惑星の記号と軌道図、そして“見つけた人へ”という走り書き。


 あの言葉の主に、少しだけ近づいた気がしていたのに――今日は、届かなかった。


 だが、不思議と焦りはなかった。ただ、もう少し調べてみよう。


 そんな静かな好奇心だけが、胸の奥に残っていた。


◆現在の気配を感じて


 図書館の空気は、どこか昨日の天文室に似ていた。


 広く静かで、ひんやりとしていて、空気が止まっているような気さえする。


 けれど、その冷たさが、今のリゲルには心地よかった。


 受付には誰もいなかった。自動記録端末が、無音で反応を示す。


 いつものようにログインして、貸出権限を確認すると、ぴーちゃんがふわりと浮かぶ。


 けれど今日は、何も言わなかった。ただ、ついてくるだけ。


 リゲルは迷いなく、図書館の西側の奥――学生にはあまり人気のない、やや古びた資料区へ向かった。


 そのエリアには、他と違う、独特の匂いが漂っていた。


 紙の繊維が空気中の湿気を吸い込んで膨らんだような匂い。


 防湿処理はされているはずなのに、何かが長い時間をかけてこの空間に積み重なってきたのだと、鼻が告げてくる。


 埃を含んだ古書の匂い――けれどそれは、昨日、占星室で感じた静けさと、どこか似ていた。


(……占星術の本、あったよね。あの時は、タイトルまで気にしてなかったけど)


 昨日の天球図――星座と魔術式が連動する、あの見開きのページが、頭から離れない。


 あのページが載っていた本を、もう一度探してみたくなった。


 それが“何”だったのか。どういう意味だったのか。どうして、自分はそこに惹かれたのか。


 それを確かめるために、リゲルは、占星術関連の棚を一つひとつ、丁寧に指先でなぞっていく。


 “天文記録”“基礎星象学”“航行術と星の道”――違う。


 “魔術式と星位”――少しだけ近い。けれど、昨日のあれとは違う。


 “現代占星学と歴史的変遷”――古めかしい装丁の分厚い本。背表紙には金の箔押し。


 目を引かれ、リゲルは本を取り出してみる。


 ぱらり、ぱらりとめくるたび、少しだけ紙の摩擦音が響く。


 けれど、あの天球図は、出てこない。


(違う、これじゃない。あのページじゃない)


 棚に戻し、次の本を手に取る――その繰り返し。


 ぴーちゃんは何も言わず、そばで静かに羽を揺らしていた。


 その沈黙は、責めでも催促でもなかった。


 ただ、一緒に「探している」という感じ。


 けれど、何冊目をめくっても、昨日の本は見つからない。


 自分が見たのは、本当に“そこにあった”ものだったのか?


 あるいは、誰かが意図的に置いた――ある時間だけ“存在した”本だったのではないか?


 そんな疑念が、ひとひらの埃のように、胸の奥でふわりと舞った。


 そのときだった。


 棚の中段、ひときわ背表紙の擦れた一冊に、リゲルの指が触れた。


 《古典占星術の基礎》


 装飾のない簡素な装丁。けれど、どこか凛とした気配が宿っている気がした。


 ――その瞬間、ふわりと羽音がする。


「……それ」


 低く、短く、ぴーちゃんの声が落ちてきた。


 それきり沈黙。問い返しても、もう何も言わない。


 リゲルは、そっとその本を抜き取った。ページの隙間に積もった微かな埃が、指先にざらりと触れる。


 読み取り機に表紙裏のタグをかざすと、薄い音とともに貸出履歴が浮かび上がる。


 《最終貸出日:○月○日》


 小さく目を凝らして、その日付を見た瞬間、リゲルは思わず息を呑んだ。


 それは、五十年以上も前の記録だった。


 貸し出された記録は、それを含めて三件きり。


 それ以降、この本は誰にも触れられていない。


 埃を含んだ紙の匂いが、鼻腔の奥をくすぐる。


 魔術とも科学とも違う、どこか曖昧で、けれど力の根源に近いような“古さ”の匂い。


 その空気を深く吸い込んで、リゲルはそっとページを開いた。


◆本の内容


 ページをめくるたび、指先にほんのわずかな抵抗が返ってくる。それはまるで、誰かがこの本を大切に読んでいた証のようだった。


 紙はざらりとした手触りで、ところどころ、インクの粒が少しだけ浮き出ている。表紙から漂う微かな革の香りと、長い時間のなかで本棚に染み込んだ埃のような匂いが、どこか懐かしい空気を作り出していた。


 リゲルは深く息を吸い込む。


 目の前の活字は、きっと五十年以上前に誰かが綴ったものだ。それなのに、今の自分に語りかけてくる声がある気がした。


 ――星は、あなたを映す鏡ではなく、あなたが歩くべき“迷宮”である。


 そんな一文から始まる「古典占星術の基礎」は、決して易しい内容ではなかった。けれど、どこか読者の心の奥を静かに揺らすリズムがあった。


 黄道十二宮。天体の象徴。品位と逆行。一つ一つの言葉が、夜空の星をなぞるように、静かに心に降り積もっていく。


 読み進めるうちに、最後のページに妙な“折れ”があることに気づく。そこには、ごく丁寧な字で小さなメモが添えられていた。


 ――順に読むべし:基礎編 → 別冊・中級(ハウスルーラー/アスペクト) → 別冊・上級(トランジット/プライマリー) → 別冊・月の欠損理論。

 ※途中飛ばすと、星が喋らなくなる。


 思わず笑ってしまう。けれどそれは、滑稽さからではなく、どこか“自分だけが見つけた道しるべ”のような喜びだった。


 ページの余白には、過去の読者が書き込んだらしき小さな印もある。読み進める順序、ハウスと惑星の組み合わせ図、アスペクトの線を引くコツ。


 そのすべてが、まるで今の自分のために残された“遺言”のように思えた。


 リゲルはそっと本を閉じる。指先に残る紙の感触と、鼻腔に残る紙の匂い。それらは、今日限りのものではない気がした。


 ――そうか。


 これは、ただの本じゃない。星を見ること。読むこと。そこに何かを重ねていくこと。


 それが、誰にも言わずに始まる“自分だけの趣味”として、今、静かに芽を出した瞬間だった。


◆将来の気配を期待して


 本を閉じた瞬間、世界の空気が一変した気がした。


 頭の奥に、ふわりと浮かびあがるのは“星”という概念そのものだ。


 遠く冷たいようでいて、どこか親密なもの。現実の延長にありながら、触れるにはあまりに遠く、けれど、もしも魔法がその距離を超える術であるなら――それはきっと、新しい何かを生む手がかりになる。


 リゲルは机に肘をついたまま、目を閉じる。


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