表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/175

十話 密室の中の魔女たち

 私の力は潜むことだけど、だからって狭いところが好きなわけじゃない。むしろ潜んだ先は空間的には制限がなくて広々としているのだ。それに狭いということはそこに人がいれば密集してしまうということで、対人に難のある私としては好ましい環境ではない。


 晴香の拠点にあった軍用の大型車両は確かに車としては大きかったし居住の設備もそろっているけど、それでも私達の人数を収めるには少し手狭だった。


 そもそもこの車の本来の目的は見えざる獣の観測であったらしく、そのための機材が結構な場所を取っている。そちらのほうにも椅子くらいはあるけど座り心地は良くなく、必然として私たちは四人程度を想定した居住スペースに密集して過ごすことになっていた。


「はあ、はあ、はあ」


 人の密度に私の息が荒くなる。結ちゃんの住んでいた倉庫はそれなりに広かったらから人が多くても距離を取れたけど、この車内はそうじゃない。それに他の皆には何とか慣れてきたけど、寝返ったばかりのあの女がいるのも私の精神に負担を与えていた。


 今すぐ適当なところに潜んで一人になりたい。


 そう私の弱いところが訴えかけてくるけどその欲求を私は必至で抑える。


「切歌、つらそうだけど大丈夫?」


 それを押しとどめているのはソファに隣り合って座っている王子様の存在だった。勿論彼の近くは車内でも裏の奪い合いが起こるような状態だったのだけど、私の気分がよくなさそうのを見て王子様のほうから寄って来てくれたのだ。


「だ、大丈夫、ふひひ」


 気分は良くない、良くないけどそのおかげで王子様が間近にいてくれる。普段なら顔を合わせるのは気恥ずかしくなってしまうのだけど、こちらを心から心配してくれる王子様というのはなんというか別腹だった。このシチュエーションを満喫するためなら他人に囲まれて心臓が委縮するような状況だって耐えられる…………苦しいは苦しいんだけど、それに嬉しさが加わってなんだか別の扉が開きそうかも。


「大丈夫ならいいんだけど、つらくなったら力を使ってもいいからね」

「う、うん…………でも、がんばる。私も、変わらないと、だから」

「そっか」


 私がそう答えると王子様は少しうれしそうに微笑む…………ふ、ふひひひひひ。思わずよだれが出そうになったのを私はそっと隠す。そんな優しい王子様だからこそ私はつい本心を隠して甘えてしまうのだ。


「ネーサマ、あいつ嘘くさいです」

「あらあら夏妃ちゃん。人をあんまり疑うのはよくないわよ」


 小さな声で、王子様とは逆側に座るエセ姉妹がそんなことをほざく。別に私は嘘を吐いたわけではない。頑張る気持ちもあるし実際に努力もしている、ただこの場合においては気持ちにおける割合が少しばかり違うだけだ。


「ええと…………僕はそんなこと思ってないからね」


 困ったような笑みを浮かべて王子様がフォローを入れる…………それが逆に心苦しいけれど愉悦のような感情も同時にわいてくる。王子様の葛藤する表情に時折結ちゃんが興奮することがあったけれど、その気持ちが私にもわかってしまったかもしれない。


「私としては陽様にそれだけ厚かましく接せられるあなた達全員に思うところがありますわ」


 いつの間にか戻っていたのかあの寝返り女、比江鳥環奈が呆れた表情で私たちの前へと立っていた。けれどその視線は私やエセ姉妹だけではなくソファ全体に向けられている。


「内心でうらやんでるくせに済ました顔してんじゃねーのよ」

「羨んでなどいませんわ!」


 ソファの裏からぬっと顔を出した結ちゃんの指摘に環奈はむきになって反論する…………その時点で語るに落ちていると自分で気づかないのだろうか。


「二人とも、あんまり大きい声出すと舞が起きちゃうから」


 そんな二人に王子様が控えめに声をかける。その傍らには彼の足元でその膝へもたれるように眠る舞の姿があった。相変わらずのムチムチボディの彼女が王子様に密着している姿に私も思うところがないわけじゃないけれど、純真な子供相手に嫉妬しない程度には私だって大人だ…………大人であるべきなのだ。


「目的地まではまだ長いんだから、みんな仲良くしよう」

 

 出発からこの方和気あいあいとした空気はなく、それを唯一気に病んでいるであろう王子様が無駄と悟りつつもそんな提案をする。王子様も夢想家ではないから私たちが心の底から仲良くすることなどありえないことは理解している…………それでもそう望んでいることさえ示しておけば表面的な抑止力にはなることも王子様は理解しているのだ。


 正直言って私は結ちゃん以外のみんなと仲良くなりたい気持ちは薄い。もちろん以前に比べれば慣れたと思うし自分を変えるためにも交流の努力をするつもりはある…………ただ、それでも結ちゃんのように心から信頼する関係にはなれないと思う。そしてそれは向こうだって同じだと思うのだ。


 まあ、結ちゃんも偽悪的というか悪ぶって口では私を利用するような発言や態度はあるけれど…………最終的には相手を見捨てられないところがあるから、きっと最後まで私の手を離さないでいてくれると信じられる。


「確かに、あと二週間もこの空気じゃ息が詰まるのよ」


 表情を変えることなく結ちゃんが賛同を口にする…………あれは息が詰まるのは本当だけどことさら仲良くするつもりはないという顔だと思う。最初に言っていた他の皆を利用して蹴落とすという目論見は薄れているみたいだけど、皆を完全に信用するつもりもないのは私と同じはずだから。


 …………それにしても改めて二週間と言われると私のやる気もしぼんでいく。いくら王子様から気にかけてもらえるとはいえこの状態が二週間も続くのだと意識すると今すぐに潜んで引き籠りたくなってしまう。長い。でもこれ以上短縮しようとすると王子様に無理をさせることになって体調が心配になってしまうのだ。


「やはりもう少しスペースがあればよろしいのですけど」


 出発の前にも何度となく繰り返された議論を再び環奈が口にする…………正論ではあるのだけどこの女は空気が読めないのかと私は思う。それで話し合った結論が今のスペースなのだからここで蒸し返しても面倒になるだけなのに。


「スペースを作りたいなら無駄なものを捨てればいいだけよ」


 吐き捨てるように口にした夏妃の視線は居住スペースに隣接して置かれている観測機器へと向けられていた。当然ながら私たちにそれを扱う技術はなく無用の長物だ。それがなければ車内のスペースは倍増とは言わずともかなり余裕がある状態になるのは間違いない。


「そうね、無駄なものを捨てるのはお姉さんも賛成かな」

「まあ、ゴミはゴミなのよ」

「うん、捨てれば、いいと思う」

 

 美優も結ちゃんも夏妃に同意する。そして私も同意するのは出発前の話し合いでその提案を反対したのがただ一人であり、この場の全員がその一人を嫌いだからだ。私たちはお互いに線を引いているけれど、その一点に関してだけは一致しているのだ。


「何度も言うがお前らがゴミと言いやがるその機材は一度壊れたら二度と再現できない貴重な技術の塊だからな…………改めて警告しておくが実行したその瞬間に私はこの車を分解する」


 恐らくというかほぼ確実に私たちの会話を盗聴していたのだろう。いつの間にか運転席にいたはずの晴香が不機嫌そうな顔で私たちを見ていた。出発前にあの観測機材を車から降ろそうという全員一致の提案に唯一反対して今と同様の脅しを彼女はしたのだ。


 この車に積まれている機材は葉山による特製のものであり、見えざる魔女や獣を辛うじて観測可能な貴重な技術の塊だからと…………でも私たちは晴香も嫌いだが見えざる魔女を生み出した葉山のことも嫌いなのだ。その脅しが無かったら念入りに破壊していたことだろう。


「運転手が席を離れるなんて危険極まりないの。お前は一生運転席に引き籠ってるべきなのよ」

「ちゃんと自動運転にしてある。それにどうせどこまでも荒野が続いてるだけなんだからまっすぐ走らせてるだけでも事故りゃしねえよ」


 けっ、と晴香は吐き捨てる。確かに理屈で言えばその通りだけど結ちゃんの物言いを直訳すれば顔を見たくないから運転席から出てくるな、だ。


「大体てめえら狭いほうがそいつといちゃいちゃできて嬉しいとかほざいていただろうが」

「それはそれ、なの。そもそも車内が広くてもどうせ陽の周りに集まるのだから狭いことあんまり意味はないのよ」


 ぶっちゃけた話を結ちゃんが口にする…………その通りだった。実際狭いと言っても全員が散っていれば互いの距離をそれなりに取れるだけの余裕はあるのだ。全員が一つのソファに寄り集まっているから狭く感じられるのだ。


 狭いほうがいちゃつけるという話は、単にそう想像すると気持ちが豊かになるというだけのことだった。


「相変わらずお前らの感情は理解できん」


 理解する努力もしたくないというように晴香が息を吐く…………私としても別に彼女に理解されたくはない。しかしこの女は王子様へと視線を向ける。


「お前もそいつらの相手に疲れたら運転席に来い。助手席は空いてるからな」

「ああうん…………晴香も一人でずっと運転してるのも飽きるだろうしね」


 実際のところ自動運転もあるし晴香がそんな繊細な神経をしているとは私は思わない。ただそれでも見えざる魔女に対して平等に気を遣う王子様は、きっと何度か彼女に気を遣ってその時間を割くことだろう。


 やっぱり晴香のことは嫌いだなあ、私。


 お読み頂きありがとうございます。

 励みになりますのでご評価、ブックマーク、感想等を頂けるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ