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全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
第二部

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九話 無色の魔女たちの去就

「あと確認すべきことは女神の国に所属してない魔女に関して位だと思うのよ」


 もちろん細かい点では聞くべきことはまだたくさんあるの。それでも事前に聞いておくべき大きなもので残るのはそれくらいで、他のことは女神の国へと向かう道中に確認すればいいとわたくしは判断するの…………時間、そう時間は貴重なの。あの女に時間を与えれば与えるほど懐柔された戦力が増えていくことになるのよ。


「先ほども言いましたけれど、あなた達を除いた在来の魔女は全て女神の国の勧誘を受けていると思いますわ」

「でもその全員が承諾するはずはないの」


 むしろほとんどの魔女は反発するはずなのよ。もちろん都市を人質に取られれば従う魔女もいるだろうけど、それでもむしろ枷がなくなったとはっちゃける魔女のほうが多いようにわたくしには思えるの。前者の魔女が完全に懐柔される前に、できれば後者の魔女を味方につけて女神の国に戦いを挑みたいところなの。


「わたくしたちと女神の国の魔女以外に何人の魔女がいるか、その内のどれくらいが懐柔されるかどうか予想できるはずなの…………つーかしろ、なの」


 そのくらいも予想できないなら能無しもいいところなの。


「相変わらずむかつく言い方しかできない全裸ですわね」

「言っておくけどわたくしに対して全裸は蔑称べっしょうにならないの。わたくしは全裸であることに胸を張っているのよ」


 ふん、と鼻で笑いながらわたくしは言葉通りに胸を張る。そのせいで羽織った布から胸元がこぼれ出たけれど、それで慌てて目を逸らす陽の姿が本当に愛おしいの…………くふふ。


 その様子を環奈が思わず羨ましそうに見てしまったのを、わたくしは見逃していないの。


「全裸になるなら今のうちなのよ?」

「理解不能なことを言わないでほしいですわね」

「臆病者のいいわけなの…………まあ、それはそれとしてとっとと質問に答えを言うの」


 別にわたくしも環奈の全裸なんて見たくはないのでとっととうながす。


「…………まず在来の魔女に数に関しては二十名弱と聞いていますわ」

「まあ、実験で生き残った魔女の総数を考えれば妥当なところなの…………いやむしろ意外と生き残ってるものだと感心するの」


 葉山によって見えざる魔女を生み出す実験に集められたのはおよそ百人。その半数ほどが実験とその後の騒乱によって命を落としたの。


 その後はわたくしも遭遇したような心を病んだ魔女がいたりと、それもあってぶっちゃけもっと数は減っていると思っていたの。しかし今の環奈の話からすれば他の魔女たちもなかなか頑張っていたようなのよ。


「で、その内のどれくらいが女神の国の戦力になりそうなんだ?」


 さっさと肝心なことを話せというように晴香が促す。そういえばこの女の当初の予定では女神の国に対抗する戦力として在来の魔女を集めるという話だったの…………その目論見が外れたのはざまあみろなのだけれど、そのあおりをわたくし達も受けるから複雑な気分なのよ。


「そうですわね…………わたくしの見立てでは半数ほどではないかと思いますわ」

「根拠は?」

「今まで何度か勧誘を行ってはいましたけど大体は反抗心を抱えたまま恭順の姿勢を見せていましたわ。ただそれは相手が一人だったからだと思いますの…………今回のように大勢の魔女を一斉に勧誘した場合は条件が変わってしまうはずですわ」


 確かにそれはもっともな話なの。数を相手に一人では最初から勝てないと諦めそうなものだけど、隣に同じ境遇の人間がいれば協力して抗おうと考えることもできるの。


「女神の国も大人数の勧誘を一斉に行うのは初めてですから、反抗して逃亡する相手を捕まえるのも容易ではないと私は判断しますわ」

「その成功率が半々くらいとお前は踏んでるわけか」

「そうなりますわね」


 環奈は頷く。


「あの方は基本的には女神の国を離れませんから」


 そしてそれはエリカが参加しないからと…………いい加減こいつは裏切った立場だということを思い出すべきだとわたくしは思うのよ。


「とにかく、その残りを利用すれば戦力としては十分そうね。敵対する側の戦力が充実すれば一度は女神の国に下った連中も考えを改めるかもしれないし」

「こらこら夏妃ちゃん。利用なんて言っちゃだめよ」

「そうですね。すみません、ネーサマ」


 美優からたしなめられて夏妃は思い出したように陽の様子をちらちらと伺う。大切なのは美優と陽だけでそれ以外の人間などどうでもいい…………学習しねえ奴なの。


 その単純さは扱いやすくもあるけど、単純すぎて慕っている相手の前でも取り繕うことを忘れる辺りは愚かしいとしか言いようがないのよ…………まあ、陽のことだからその辺りも含めて受け入れているのだろうけど。


「女神の国の現在の状況も確認したいし、向こうに付いたら恐らく徒党を組んでいるであろうその連中に接触するのが最優先だな」

「それには賛成なの。そのためにもまずは女神の国までどうやって向かうかを決めるべきなのよ」

「あん? そんなもんどうとでもなるだろ」

「それはわたくし達だけなら、の話なの」


 確かに見えざる魔女であればまっすぐ走って女神の国へ向かったっていいの。疲れは知らないし食料補給や睡眠の必要もない…………ただ、わたくし達はそうでない人間を一人連れていく必要があるのよ。


「きひひ、そういえば貧弱な坊やがいるのを忘れていたな」

「…………僕?」


 からかうような笑みを向けられて陽が不満そうに顔をしかめる…………かわいいの。それは防衛隊で訓練を積んだ自負からくるものだろうけど、残念ながらこれに関しては晴香の物言いが正しいのよ。


 基本的にはただの人間と変わらない陽が、あの荒野を抜けて女神の国に辿り着くのはそのままでは無謀もいいところなの。


「お前も知っての通り都市の外は獣共が食い尽くして散々な状態だからな。酸素を消費する生物も消えたから植物が消えても大気はまだ呼吸可能な状態を保ってるが、場所によっちゃどうなってるかもわからん」


 この世界は様々な生物が共存することでそれらが生きていく可能な状態を保って来ていたの…………しかし見えざる獣によってそのバランスを大きく崩された今、普通の人間が裸で生きていけるような環境ではなくなっているのよ。


「つまり僕は残ったほうがいいと?」

「それは困るの」

「それは、駄目」

「却下だ」

「いけません、ニーサマ」

「お姉さんは反対だなあ」

「おにーさんも一緒じゃないとだめ!」

「私もお勧めしませんわ」


 あたりまえだけど、全員が反対したの。


「言っておくけれど、陽が向こうに奪われたら何もかも終わりなの」


 わたくし達は陽あっての集まりだし、これから取り込む予定の魔女たちの説得にも欠かせない存在であるのは間違いないの。それならばわざわざ女神の国にまで連れて行くほうが危険と考えることもできるけれど、仮にわたくしが向こうの立場ならば陽を連れていないと気づいた時点で残した彼を奪いに人員を派遣するの。

 しかしそれから守るために人を残すだけの余裕はわたくし達にはないし…………何よりもそんな決定をすれば全員が残るほうを選ぶに決まっているのよ。


「晴香、どうせお前のことだから陽を連れていく手段を確保しているはずなの」

「…………ちっ、相変わらず察しのいい女だ」


 舌打ちして忌々しそうに晴香はわたくしを見やる。どうせうまいタイミングでそれを明かして何かしらの要求をするつもりだったのだろうけど、その手には乗らないの。晴香はわたくし達に合流する前から陽を利用して在来の魔女を味方につけることを想定していたの…………そのための移動手段をこの周到な女が用意してないわけがないのよ。


「で、何があるの?」

「…………危険地帯での観測活動を目的とした軍用の大型車両がある。それなら気密性も高いし長期間車内で暮らせるよう設備も整ってる…………見た目がごついキャンピングカーを想像してくれりゃいい」

「ふむ、それは広いの?」

「いや、この人数だと流石に手狭だな」

「それは素晴らしいの」

「あ?」


 満足げに頷くわたくしに晴香が怪訝な表情を浮かべる。こんなことも理解できないとは本当に察しが悪い女なの。


「狭ければそれだけ陽との距離が狭いの…………いちゃいちゃし放題なのよ」

「…………」


 これ以上ないくらいに晴香が呆れた顔でわたくしを見たけれど、


 この場にわたくしの賛同者が多いことは確認するまでもないほどに明らかだったのよ。


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