童心の魔女と普通に接したいだけの話(2)
「ま、舞…………どうしてここに?」
「おにーさんに会いたかったからだよ?」
突然の舞の乱入に思わず尋ねる僕の様子を不思議そうに彼女は答える。
「えっと、結たちはどうしたの?」
ジャックを借り受けるにあたって舞の世話を僕は結たちに頼んでおいた。ジャックがいなければ舞はおおむね普通の少女であるはずなので、結たちの元からそう簡単には抜け出せないはずだった。
「かくれんぼしてたんだけど、退屈だから抜け出してきたの」
「…………」
さては結たち、舞の世話が面倒臭くなってかくれんぼの体で放置してたな。ある程度僕らの関係も安定したということなのか、最初のころのように僕のお願いを絶対順守するという傾向も薄くなっている…………まあ、それ自体は喜ばしいことなんだろうけど。
「おにーさんはジャックと何を話してたの?」
そんなことを考えていると舞が返答に困る質問を飛ばしてくる。流石にジャックに話した内容をそのまま彼女に教えるわけにもいかない。
「んー」
僕が迷っている間に舞は唇に指をあてて天井を見上げ、ジャックに視線を向ける。
「ジャック、おにーさんと何を話してたの?」
「!?」
僕が話してくれないならジャックに聞く、舞の思考は単純明快だった…………拙い。僕とジャックは一方的な会話とボディランゲージでしかやり取りできないが、どうにも舞とジャックはテレパシーでも繋がっているのか明快に意思疎通できている様子がある。僕とジャックの会話がそのまま舞に伝わればいったいどういう反応になるのかは読めない。
「舞の将来について話してたんだよ!」
ゆえに僕はその前に口を開くしかなかった。もちろん正直に答えるわけにもいかないが同時に嘘も吐けない。僕にできるのは嘘でもないように言葉をずらすことだけだった。話した内容を広義で考えればそうなるのだから別に間違った物言いでもない。
「舞のしょうらいってなに?」
「それは、ええとね」
舞にとっては難しい言葉だったかと僕は言い換える言葉を考える。
「舞を未来でどう幸せにしようかって話だよ…………ええとほら、舞だって大人になったらお嫁さんになるとかそういうことを考えたりはしたことあるよね?」
現実を見れば舞は、舞を含めた見えざる魔女は大人どころかもはやそういう基準を超えた存在となってしまっている。けれど舞からすれば自分は子供という認識があってそれは今に至るまでずっと変わっていないはずなのだ…………そうであれば幼い子供の抱く未来へのイメージもずっと変わらずに持っているだろう。
「うん、舞は大人になったお嫁さんになるの!」
元気よく、その未来を疑っていないというように舞が頷く。
「だから舞が素敵なお嫁さんになるにはどうしたらいいかジャックと相談してたんだよ」
そんな彼女に僕はそう続ける。素敵なお嫁さんになるにはまずそのはしたない恰好をどうにかしなければいけないのだから、僕は間違ったことを口にしてはいないはずだ。
「んー、おにーさんにとって舞は素敵じゃないの?」
「そんなことはないよ」
少し不安そうに尋ねてくる舞に僕は即答してしまう。そういう表情を僕の発言でされるのは罪悪感が湧いてくるのだ。
「それじゃあなんで?」
「ええとほら、人には好みがあるしね。舞が旦那様にしたいと思った人に好かれる為にももっと素敵であるに越したことはないかなって」
「えっ、でも舞はおにーさんのお嫁さんになりたいから、おにーさんが素敵だって言ってくれるならそれで十分だよ?」
きょとんとしたような表情で舞が僕を見る。
「おにーさんは舞のこと、お嫁さんにしたくない?」
「そんなことはないよ」
僕にそれを否定できるわけもなく、そんな僕の反応にジャックも満足げに頷いていた。
「でもほら、舞はまだ子供だからね」
なら今すぐお嫁さんにして欲しいとか言われる前に僕はそう牽制しておく。現状で舞の認識が変わることがないということを知っている上での発言なのだから、それがこの上なく卑怯なものだとは理解している…………だけどとりあえず時間を稼ぐためのほかの言葉は思い浮かばなかったのだ。
「うん、舞はまだおにーさんと子作りできてないもんね」
「ぶっ!?」
突然舞から発せられた言葉に僕は思わず吹き出す。
「こ、子作りって…………そんな言葉誰から!」
慌てて尋ねながら念のためにジャックへ視線を向けるが、彼も困惑しているように首を振った。
「結おねーさんだよ?」
そんな僕らの反応を不思議そうに答える舞にあの女、と思わず拳を固めてしまった僕を流石に責められないだろうと思う。
「そ、それはいつ聞いたの?」
震える声で僕は詳細を尋ねる。
「前に結おねーさんにどうすれば大人になれるのか聞いたときに教えてもらったの。子作りが出来れば一人前の大人だって」
む・す・び・め。一体子供になんてことを教えているんだ。確かに見えざる魔女となった舞に大人になる基準を説明するとなったら大変だろうけど、彼女の場合は半分くらい僕をからかう意味で舞にそう教えた気がする。
「もしかして嘘だった?」
純真な瞳で尋ねる舞に僕は助けを求めるようにジャックへ視線を向ける。しかし先ほどの説明で子作りがどういうものか理解している彼は戸惑いの極地で固まっていた…………役に立たない。
「う、嘘じゃない、けど…………」
それが嘘だと言ってしまえば舞と結の間にまた不和が生まれる。認めるしかない僕はそれでもしどろもどろに言葉を続ける。何か、何とか誤魔化さないと今らからしようとか言い出しかねない。
「ただ舞には、まだちょっと早い、かな」
そうして何とか絞り出せたのはありきたりな理由だった。それでどうすれば早くなくなるのかと言われたら僕は詰む。彼女にはもっと大きくなったらとか使えないのだ…………今でも十分すぎるくらい大きい。
「うん、結おねーさんにもそう言われたの」
「そ、そうなんだ」
僕はほっと胸をなでおろす。流石に結もフォローくらいは入れてくれていたらしい。
「だから結おねーさんがそのうち一緒にやってあげるって言ってたの! すっごく楽しみ!」
にこにこと、それがどういうことかわかっていないまま舞が笑顔を浮かべる。
「…………」
「…………」
それに僕とジャックは無言で顔を見合わせた。
舞を健全な状態にするには、まず周囲の環境のほうをどうにかしないといけないらしい。
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