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全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
閑話

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童心の魔女と普通に接したいだけの話(1)

正直に言えば僕は最初舞のことを恐ろしく感じなかったかといえば嘘になる。彼女はその見た目にそぐわずどこまでもの子供で…………子供だからこそ無知で残酷だった。


 もちろん彼女の犯した罪は僕ら守られるだけだった人類の罪だ。舞をその適性があるからと見えざる魔女にして都市を守ることを強制しなければ彼女は罪を犯すこともなくただの無垢な少女でいられたはずなのだから。


 ゆえにその罪の重さから舞を守るのは僕に課せられた義務だと思っている。彼女にその罪を自覚させるのか今のままそっとしておくかはまだ決めていない。

 だけどいずれ自覚させるしかないだろうとは思っている。なぜなら僕らと過ごすうちに彼女が自分でしてしまう可能性もあるからだ…………そしてその時はきっと僕らから教えられるよりも悪い結果になると思うのだ。


 ただ、それでも僕にはまだ舞をどうするか決められないでいる。


 その決断を下すには、彼女の姿があまりにも純真すぎるから。


                 ◇


「まあ、それはそれとしてだよ」


 僕は目の前のクマのぬいぐるみに話しかける。それは端から見れば誰もいない個室でぬいぐるみに話しかけるおかしな青年の図ではあるだろうけど、そのクマのぬいぐるみにはちゃんと自我が…………多分きっと恐らくあるはずなので僕がおかしいわけではない。


「僕が君に相談したいのは舞の現状についてだ」


 それを証拠に僕言葉に反応してジャックはこくりとうなずいて見せる。舞のお願いには大きな力を発揮するジャックではあるが、彼女が彼をクマのぬいぐるみとして認識しているためかそのイメージを崩すような行動はできないようで意思疎通も主にボディランゲージが中心となっている。


 とはいえ現状はそれで困っているということもない。基本的にジャックは舞の願いをかなえるだけの存在で自己主張には乏しく、舞に関してのことの許可を取るだけならその程度の意思疎通でも十分だからだ。


 しかし彼に完全に自己主張がないというわけでもなく、現に今も少し落ち着かないようで時折周囲をきょろきょろと見まわしている…………それは彼の守護対象である舞が見える範囲にいないせいだろう。


「ジャック、君を舞と引き離してしまったことは申し訳なく思う…………けど、それくらいの人払いが必要な重要な話なんだってことを理解してほしい」


 僕はジャックと今回の話をするにあたって結達に話を通し、舞にも自分と離れてジャックに僕と話すようにお願いしてもらった。だから基本的には舞のそばを離れないジャックが僕と二人きりで防衛隊本部の空き室の一つにいるのだ。


「…………」


 ジャックは逡巡するようにじっと僕を見つめ、しばらくしてから再びこくりと頷いた。もしかしたらさっさと話しを終わらせたほうが舞の下に早く戻れると判断しただけなのかもしれないが、それでも話を聞いてくれるのなら問題ない。


「君も回りくどい話をせず早く話を済ませたいだろうから単刀直入に言うね…………舞は無邪気すぎて無防備すぎる」


 それが現状の彼女の抱えている大きな問題だった。しかしジャックには僕の意図が伝わらなかったのか彼は可愛らしく首を傾げただけだった…………つまり生々しい説明を僕はしなくてはいけないらしい。単刀直入と言いながら直接的な言明は避けた僕の責任ではあるけれど。


「あのね、舞は基本的に純真ないい子だと僕は思う。そんな舞が僕を兄のように慕ってくれるのは喜ばしいことだよ」


 それは僕の偽りのない気持ちだ。夏妃も僕を兄と慕ってくれているが舞のそれはまた別の印象というか方向性が違う。基本的に夏妃は僕に尽くしてくれる妹だが、舞は思い切り甘えてくる方向の妹だった。


 それが何の問題なのかとジャックは首をかしげたまま僕を見るが、おそらくぬいぐるみである彼には僕が常に直面している問題が理解できないのだろう。


「ジャック、舞は子供だ…………でもそれは心だけだなんだよ」


 そう、それが重要かつ大きな問題だった。しかしジャックはまだ理解できていないようで首をさらに傾げて人間では不可能な角度に曲がっていく。


「ジャック、舞の心は子供だけど体のほうは大人なんだ…………それはもう抜群に」


 僕の知る見えざる魔女の中で一番スタイルがいいのが誰かと問われれば迷わずに舞と答えることだろう。それくらい彼女は人の目をく体型をしているし、その無邪気な無防備さがその魅力に拍車はくしゃをかけている。


「そして僕は男であり、別に性欲が枯れているわけでもないんだよ」

 

 その点でいえば舞に限らず結達全員が刺激的であるといえる…………ただ、結達は意図的に僕に性的なアピールをしているという点で舞とは違うのだ。


 結達に関しては僕が性欲を抱いたとしても彼女たちの望んだ結果であり、僕はそれを自制はするがそれだけだ。しかし舞の場合はただただ彼女の無邪気な振舞いであってそこに何の意図もない…………そんな相手によこしまな感情を抱くのは罪悪感がひどいのだ。


 とはいえこんな話を結達にすればどんな反応をするかわからないし、当然のことながら舞本人にするわけにもいかない…………だから人払いをしてジャックと二人きりで明かしたのだ。


「…………」


 しかしジャックにはまだよくわからないらしく戸惑ったように顔を揺らす…………もしかするとジャックの知識レベルは舞と同水準なのかもしれない。舞にとってジャックは頼れる保護者であると同時に大切な友達だ。そしてたいていの場合求められる友達は自分と同等であることが多い。


 ジャックが舞の願いで生まれた存在であることを考えると、彼はやはり子供のお友達なのだろう。


「よし、一から説明する」


 しかしジャックのフォローを期待する僕としてはそのままにもしておけない。彼に理解するだけの頭はあるはずと信じて僕は人間の性欲というものを一から説明する…………最初はふんふんと頷きながらそれを聞いていたジャックだったけど次第に戸惑うようなしぐさを見せるようになった。


「!」


 そして説明を終えるとジャックは飛び掛かってきてぽかぽかと僕の頭を叩いた。もちろんぬいぐるみの手なので痛くはないが、いつでも彼はそれを致命の一撃に変えられるのも事実。別に彼がそんなことをするとは思っていないが、そうであってもヒヤッとするのは事実だ。


「ジャック、別に僕は舞にそんなことをするつもりはないよ…………むしろしないための話をしようと思っているんだよ!」


 僕がそう声を張り上げるとジャックは手を止める。それでようやく本題に入れると僕は息を吐いて彼を見つめる。


「とりあえず、舞の無防備さを何とかしなきゃいけない」

「……………」

「具体的にはって? まずは服だろうね」


 舞は自分を子供と思っているからなのか普段着に子供用の服を選ぶ。それでも一応サイズの大きいものを選んではいるようなのだけど、当然そのグラマラスな体に収まるはずもなく破けたり裂けたりムチムチになったりしてしまって目の毒だ。


「あれってジャックが作ってるんだよね? どうにかならないの?」


 あんな状態ではすぐに着れなくなってしまうだろうに、服の替えはどうしているのかと以前に舞に聞いたらジャックが作ってくれるのだと答えた。彼は自分を構成している糸を自由にほぐすことができるようなのでそれを材料にしているらしい…………それならば普通に舞に合うサイズの服も作れるはずだ。


「…………!」


 しかしそれにジャックはフルフルと首を振り、大きな服を僕の目の前に作って見せるとその手を交差して×を作った…………つまり大きい服を作ると拒否されるということだろうか。


「それなら、こう…………舞が着始めた時点で布を足すとかできない?」

「!」

 

 普通に考えればそんなことはできないがジャックは普通ではない。僕の提案にそれだ、というようにジャックは目をまたたかせて頷く。


 もちろんそんなことをすれば普通は気づくが、良くも悪くも舞は普通ではない。


「よし、こんな感じで一つ一つ解決していこう」

「!」


 僕が拳を差し出すとジャックはぽにゅりと自分の拳を合わせてくれる…………意外と付き合いのいい熊だなあと僕は思う。


「おにーさーん!」


 そんな風に僕とジャックが親交を深めるその場所に、当の舞が元気のいい声で飛び込んできたのだった。


 お読み頂きありがとうございます。

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