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全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
第一部 

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五十一話 見えざる魔女のいない日

 中央公園のベンチからの眺める空は大抵が晴天だ。その明るい日差しは本物の太陽光を取り入れているもので、そうでない日であってもスクリーンには晴天が映し出される。


 そのせいもあってか慰霊いれいの地でありながら公園に暗い雰囲気はない…………単純に日光浴に訪れる親子連れの姿も多かった。


「隊長、宮崎」


 公園の中央にそびえ立つ慰霊碑を見上げながら先日の見えざる獣の襲撃で消え去った二人の知人を僕は思い出す。世界がこんな風になる前は一人ずつ墓石で弔っていたらしいけど、土地が限られる城塞都市では誰もが荼毘だびにされて合同の慰霊碑に祀られる…………あの二人に関しては死体すら残らなかったけれど、そこに眠っているのだと思うしかない。


 隊の異動は何回かあったから隊長とはそれほど長い付き合いではなかったけれど、宮崎とは入隊以来の間柄だった。入隊直後でまだ体力も無かった時期に辛い訓練を励まし合って乗り越えて、隊が別になった時も交流は途切れなかった。


 どんな関係だったかと問われれば親友だったと答えるしかない…………そんな親友のことを僕はずっと思い出さないようにしていたのだ。


「昼月、逃げろっ!」


 だって思い出すとどうしてもあの瞬間が思い浮かぶ。あの時宮崎に突き飛ばされなければ僕は消えていた…………彼は僕の代わりに死んだのだ。それを追い出すとどうしようもない自分の無力感と、やるせの無いいきどおりが湧いて来てしまう。


 ただそれでも、それはいつか向き合わなくてはいけない事だった。だから結がくれたこの休日に向き合うことを僕は選んだのだ…………遅すぎると宮崎なら文句を言うかもしれない。いや、彼の事だから苦笑して僕の肩を叩くだけだろうか。


「宮崎、君が生きていたら僕よりうまくやれたのかな」

 

 宮崎は如才ない人間で交友関係も広かった。恋多き男でもあって色んな女性に手を出していたけれど不思議と険悪な事態におちいったことはない…………あいつだったら見えざる魔女との関係もうまくやれただろうし、今の僕のように期待にプレッシャーを感じることもなかったかもしれない。


「…………駄目だな」


 こんな思考はそれこそ宮崎に頭をはたかれそうだ。生き残ったのは僕で彼はもうこの世には存在しない…………だから全て僕がやるしかないのだ。


「いつか、この絶望的な世界がどうにかなったら…………」


 何もかもうまくいったその時は、


「宮崎は、世界を救った男を救った男になるね」


 きっとその名前も歴史に残る。


 それであいつは浮かばれたりはしないだろうけど……………僕の心が少しは救われる。


                ◇


 あれから昼まで慰霊碑を見て過ごして中央公園を後にした僕は、昼食をとってから今度はかつてお世話になった孤児院へと足を運ぶことにした…………前の部隊にはやはり少し顔を出しづらかったからだ。


 別に宮崎以外の隊員と仲が悪かったわけではないけれど、格別親しい隊員が他にいたわけでもなかった。そして支倉指令のおすみ付きで部隊から離れて自由に行動する今の僕の立場は皆にはいささか説明しづらくどうにも腰が引ける。


 そんな理由もあって僕は亡き友人への挨拶を済ませてから孤児院を訪ねる事にしたのだ…………入隊してから一度も顔を出していない孤児院へ。


「お久しぶりです、院長先生」

「あらあら、随分立派になったわねえ」


 目の前の老女は記憶にあるよりもいくら老けていた。もちろん僕がこの孤児院にお世話になった頃から院長先生はすでに中年を過ぎて老境に差し掛かっていた。それでも当時の先生は溌溂はつらつとしていて、今のような少し弱弱しい印象などどこにもなかったはずだ。


「手紙は何度も貰ったけれど、こうして顔を出してくれるのは初めてだったわね」

「…………すみません」


 僕としては頭を下げるしかない。生みの親よりも長く育てて貰った育ての親に対してと考えれば親不孝この上ない話だ。


「訓練が忙しかったし…………散々反対されて防衛隊に入った手前顔が出しづらくて」


 有望な働き口がいくつもあったのに僕は防衛隊への入隊を選んだ。当然それは院長先生も含めて孤児院の皆からは反対されたし根気強く説得もされた…………それでも僕は意見を変えず、最終的には半ば強引に孤児院を抜け出して入隊を決めてしまったのだ。


「それでもわざわざ手紙を送ってくる辺りはあなたの真面目なところね」

「…………流石に何の近況も知らせないのは不味いかと思って」

「そういうところよ」


 おかしそうに院長先生が僕を見て笑う。昔からこの先生は院の規則に原則であっても気さくで孤児からは慕われていた。規則違反についてもそれを必ず罰しはするけれど、なぜそれが駄目なのかを穏やかにさとしてくれるから二度同じ違反をする孤児は少なかった記憶がある。


「わたしとしてはそんなあなただからこそちゃんとした仕事に就いて欲しかったのだけど」

「…………防衛隊もちゃんとした仕事ですよ」

「そうね、ごめんなさい」


 謝罪を口にして院長は目を伏せる。


「私も駄目ね、子供たちには広い視点を持つように教えながら一つの意見に囚われてしまって…………あなたが真面目に続けているのだもの、防衛隊も世間一般で言われているような組織ではないのでしょうね」


 申し訳なさそうに僕を見る院長に、僕の方こそ申し訳なくなる。世間一般からの評価も半分くらいは間違っていないのだ。確かに訓練そのものは厳しいし防衛隊員は見えざる獣の襲撃に対して出動はしている…………けれど防衛隊員自身も見えざる獣の存在に懐疑的でやる気に欠けているのは事実だった。


「それで、長く顔を出さなかったここにあなたがやって来たのは先日の事件が原因?」

「…………僕の隊の隊長と、親友が亡くなりました」

「そうだったの」


 僕を見る院長の表情は痛ましそうだった。見えざる獣の実在を強く訴える事も出来ない支倉司令は結局あの襲撃による防衛隊への被害を、防壁での演習中に偶然発生した毒ガスによる事故として世間には発表した。


 もちろん現場にいた防衛隊員たちはそんなものでは説明できない現象を目の当たりにしている…………けれど多くの都民は一部の陰謀論者を除いてその説明で納得した。もちろん納得して批判が消えたわけではなく、無駄に人命を危険にさらす防衛隊の訓練についての批判を連日ニュースは行っている。


 その後の舞の一件も合わさって防衛隊は今かなり叩かれていた…………まあ、ある意味平常運転だ。


「でもそれで、怖気づいたというわけじゃないのね」


 困ったように僕を見て院長は微笑む。


「私としては、それであなたが危険な仕事から遠ざかってくれた方が良かったのだけど」

「先生、それでもこれは誰かがやらなければいけないことで…………それをやるために僕は防衛隊に入ったんですよ」

「そうね、あなたはそういう子だったわ…………貧乏くじをわかっていて引いてしまう子」


 諦めたように院長は息を吐く。


「でもそれを決めているな私の顔を見に来る必要も無かったんじゃない?」

「それはその…………知り合いからアドバイスされて」

「あらなんて?」

「自分の守るべきものを思い出して来るようにって」

「あらあら」


 おかしそうに院長が笑う。


「こんなお婆ちゃんを今更守らなくたっていいのよ? 守るんならもっと若くてかわいい子を守らなくちゃ」

「からかってますよね…………いや、もちろん院長だって守る対象でしたけど」


 別に守る対象が一人と決められているわけじゃない。僕の手が広くないことはわかっているけれど、せめて僕は自分が顔を知る相手にはみんな死んで欲しくないと思う。


「優先順位の問題よ。そりゃあ私だってできるならこの院の子供たちを何よりも優先したいと思うけど…………一番に守るのはやっぱりあなたにとって一番に大切な人でしょう?」

「…………」


 そう言われて頭に浮かぶのは結や切歌、舞や美優に夏妃という見えざる魔女の面々だった。 まだ僕は彼女らを愛せていないと思うし、それは多分彼女たちに罪悪感があるせいだろう…………それでも僕は僕よりも強い彼女らを守ると決めた。


「その顔、思い浮かぶ相手がいるのね?」

「…………はい」


 素直に僕は頷く。もちろんその対象が複数だとは口が裂けても言えなかったが。


「それなら一つアドバイスをしておきましょう。あなたは誠実で優しくて多くの子供たちから慕われていたけれど、その分親しい相手に対しての気配りがおろそかになる事があったわ」

「…………そう、ですか?」


 僕はそんな意識まるでなかった。


「ええそう…………そうでなかったら進路を巡ってあんな大喧嘩にはならなかったはずよ? あれはあなたが親しい相手に普段から気持ちを伝える事をおこたっていたから起きたの。あの子たちからしたら青天の霹靂へきれきだったはずよ?」

「言われてみると…………確かに」


 みんなに伝えたのは防衛隊に進むと自分の中で確定させてからだ。だからこそ反対されても頑なに僕は意見を変えず、そのせいで喧嘩になって皆とは疎遠そえん


 今のところ僕は良くも悪くも結たちを気を配らなくてはならない対象として扱っている。けれどもしその関係が進んでもっと親しくなった時、このままでは同じことを繰り返してしまう可能性があるかもしれない…………院長の言葉をよく覚えておかないと。


「そういえば、皆は元気にしてますか?」

「ええ、それぞれの職場で活躍しているみたいですよ」

「そうですか」


 それは良かったと僕は思う。疎遠になってしまったとはいえ幼いころを共に過ごした馴染みであるのには違いない…………元気でやっているならそれでいい。


「近況が聞きたいのなら歌穂かほは此処で働いていますよ」

「いっ!?」


 僕は思わず表情を崩す。歌穂は色んな意味で一番顔の合わせづらい幼馴染だった。彼女とは告白しなかったもののお互いに意識していて…………だからこそ当時一番の怒りを僕へと向けていた。


「あいつ、まだ怒ってますか?」

「ええ、時々あなたの名前を出して愚痴ってますよ…………つまりまだ未練があるってことね」

「…………」


 僕は思わず院長室を見回す。いきなり飛び込んで来たりしないだろうか。


「心配しなくても今日はあの子は買い出しに行かせています…………私も落ち着いてあなたと話がしたかったですからね」

「…………人が悪いですよ」

「あら、悪いのはあなたの方よ? 誰を選ぶにせよ互いの気持ちにはきちんと決着を付けなければ未来に陰を残すだけなんだから」

「…………はい」

「今とは言わないけれどきちんとけじめはつけなさいね」


 相変わらず院長先生は優しくも厳しい…………その未来の為にも、この東都を僕は守らないといけない。


 改めて僕はそう決意した。


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