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全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
第一部 

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四十九話 見えるだけの彼の役割

「で、その肝心の見えざる獣の拠点というのはわかっているの?」

「無論だ…………まあ、この辺りにある一つだけについてはだがな」


 もっとも重要な事を尋ねる結に晴香は頷くが、答えそのものは完全なものではなかった…………けれどそれはそうなのだろうと僕は驚かなかった。この世界を採掘するのが目的であるなら一つだけではなく世界中に拠点を作るはずだ。


「それでもよく見つけたものなのよ」


 珍しく感心したように結が晴香を褒める。


「見つけたというか概ね推測だがな。衛星からの映像で獣の出現する場所や消える場所なんかを統計取って絞り込んで何とかってところだ」

「…………人工衛星凄すぎない?」


 もちろんそこに晴香の地道な努力があるのは認めるけれど、この辺りだけとはいえ人から見れば広大な範囲を監視できる人工衛星の性能が凄すぎる。


「というかそれって見えざる獣も映るってことだよね?」

「ああ、なにせ葉山の野郎が死ぬ前に打ち上げた特別製だからな…………欠点があるとしたら魔女以外にはその映像が確認できないことくらいだ」

「ああ、やっぱりそこまでうまくはいかないのか…………」


 そもそも常人にも見えるのならもっと大量に打ち上げて利用されていたはずだ。


「私が思うに多分衛星もドローンもまともに作られたもんじゃねえな。一般に使われてるレーダーなんかと精度が違いすぎるし耐久性もおかしい…………葉山の野郎も何か力が使えてそのおかげだったんじゃねえかと思ってる」


 葉山龍太郎という科学者が見えざる魔女ほどではなくともそれに近い存在だったではという話は僕も信憑性があると思う。それであれば魔女ほどでなくとも何かしらの力を使えた可能性は確かにあると思う。


 それに見えざる獣のいる距離と方向が曖昧にわかる程度のレーダーと、その姿を捉えられる人工衛星とでは性能の違いがおかしいというのももっともな話だ。前者は常人にも扱える技術だけで作られていて、後者は何かしらの力を使った結果と考えれば納得できる。


「それで、場所が分かってるなら後は乗り込むだけなのよね?」


 手柄の上げ時と言わんばかりのやる気溢れた表情で夏妃が口を開く。その表情はちらちらと僕に向けられていて、ニーサマの為にも頑張りますよと言わんばかりだった。


「いや無理だ」

「はあ?」


 はっきりと否定された言葉に夏妃が怪訝を通り越して苛立ちを見せる。


「それ、どういうことよ」

「場所の当たりはついてるが正確な位置も入る方法もわからんという話だ」


 晴香は言い訳する様子もなく、ただ予め伝える予定の事実を伝えるように淡々と答える。


「すごいの。これまで話していたことの前提が全て覆ったの」


 皮肉を込めた物言いで結が晴香を称賛する。確かにこれまでの話は全て最終的に見えざる獣の拠点を破壊するという結果に繋がる前提で話していたもので、そこが崩れてしまうと全部台無しだ。


 これまでの会話が分かっていることは増えたけど現状は変わらないという徒労でしかなくなってしまう。


「申し開きはあるの?」

「私が言うのもなんだがお前らさっきから直情的過ぎるだろ」


 確かに晴香と違って粗い言葉遣いではないものの結たちは直情的だ…………でもそれは多分怒りっぽいのではなく晴香に対する恨みつらみが重なっているせいで、隙があったらぶっ殺してやろうという精神になっているからではないだろうか。


「まずなんでわからないかを説明すると、奴らの拠点がこの世界に存在してないからだ」

「拠点が異世界にあるって言うのだと、さっきの晴香ちゃんの説明と矛盾しないかしら?」


 素早く美優が指摘する。晴香を追い詰めようとすることに関しては普段は温和に見える彼女も例外ではないらしい。


「そうだな、だから私はこっちの世界と向こうの世界の間…………次元の狭間みたいな場所があってそこに拠点を作ってるんじゃねえかと思ってる」

「…………ちょっと、荒唐無稽こうとうむけい、かな、ふひひ」

「根拠はある」


 ひっそりと指摘する切歌に語気を強めて晴香は断言する。


「見えざる獣が異世界から直接現れてるならもっとこの世界の大きな影響があるはずだ。なにせその瞬間には異なる世界同士が接続することになるわけだからな…………世界の根幹と繋がってる私達にそれがわからねえはずもねえ」

「それが無いのはその次元の狭間でワンクッション置いてるからってこと?」

「そうだ」


 晴香が頷く。彼女らや獣が見えるだけの僕は世界との繋がりとやらも限りなく細いものなのだろう…………だからその感覚はわからないけれど言っていることは想像できる。


 確かに二つの異なる世界同士が接続するともなればそれが穏当に済むわけもない。世界そのものとの繋がりの深い見えざる魔女であれば何か感じられるだろうし、獣の出現頻度を考えればうっかり気付かなかったという事もないだろう。


「自身の不備をごまかすための後付けにも思るけど一応は納得してやるの…………でもそれじゃあまだ足りないのよ?」


 確かに結の言う通りそれはまだ解決に繋がる話ではない。見えざる獣の拠点の場所がより明らかになっただけであり、そこを見つけて侵入する方法はまだ語られていないのだ。


「次元の狭間といってもこの世界の外殻をぺろっとめくれば獣共の拠点に繋がってるわけじぇねえ。パラレルワールドが無数に存在する以上は世界と世界の愛だなんてもの無数に存在するわけだからな、獣共の世界と私達の世界の間を見つけなければ意味はねえ」

「だから正確な入り口を知る必要があるの」


 見えざる獣がこの世界に侵入する入り口であれば、確実にその間に繋がっている。


「で、さっきも言った通りその入り口のあたりはついている」

「あたりでは意味が無いの…………お前にもわかっているはずなのよ」

「えっと、大体の場所が分かってるなら手当たり次第じゃ駄目なの?」


 気になって僕は口を挟む。見えざる獣が様々な場所から現れる事を考えると入り口それ自体は複数あるのではないかと思う。それこそ拠点から採掘目標に近い位置に入り口をいくつも増設しているのではないだろうか…………それであれば適当に試しても可能性はある。


「それでは駄目なの…………さっきこの女が言った通り次元の狭間なんてものは一つではないはずなの。その入り口から僅かでもずれていれば別世界との狭間に繋がる可能性が高いの」

「それにそもそも入り口を開けるかどうかが問題だ」


 結の駄目出しに付け加えるように晴香が続ける。


「見えざる魔女の力ってのは結果に対するイメージが重要だ。そこに入り口があるかもなんてあやふやなイメージじゃそもそも入り口を開くとすら出来ねえよ」

「…………というか次元の狭間への入り口を開ける魔女がこの場にいるの?」


 再び根本的な疑問を結が口にする。確かに次元の狭間への入口なんてものは簡単に開けるものではないだろう。見えざる獣はそういう機能が付いているのだろうけど、そうでない僕らが頼れるのは見えざる魔女の力くらいだ。


「それに関しては私の力なら多分開ける…………後は切歌の力でもいけんだろ」


 切歌は潜むという想念を世界に刻み込んでいる。その力なら確かに入り口の向こ

うへと潜むなんて使い方もいけるかもしれない…………自分でもいけるという話だけどそういえば晴香の力に関してはまだ聞いていなかった。


 結たちから恨まれている彼女にとってその力は自衛のための生命線だから、最初に聞いた時はまだ教えられないと答えてくれなかったのだ。


「それは朗報なの、つまりいざという時にお前を切り捨てても問題ないという事なのよ」

「はっ、保険の大事さもわからねえ奴は愚かだと思うがな」


 切歌という代わりがいても現状で入り口を開けるのは二人。確かに保険という意味ではまだ晴香には大きな価値のある人数だ。


「ふん、まあいいの。さっさとその入り口を見ることのできる魔女の居場所を言うの」

「え?」

「え? もなにもそれ以外にあり得ないのよ。そんなもの現代科学でどうにかなるわけがない以上は見えざる魔女の力で見つけるしかないの」

「あ、そうか…………そうだね」


 考えてみたら当たり前だ。あれこれ見つける方法を錯誤するよりもそれが見える力を持った魔女を連れて来るのが一番早い。


「それで、どこのどいつを攫ってこればいいの? お前の事だからどうせ生き残ってる魔女の力も概ね把握しているはずなの」

「それは当然把握してるが…………その中にいるなら最初からお前らのようにそいつも呼び寄せてると思わねえか?」


 確かにその方が無駄はない。


「それは力の持ち主がわたくしたちのように話が通じる相手ならの話なの…………だからこそそいつを捕まえて優しく教育をしてあげられるだけの戦力を集めたのではないの?」

「…………まあ、それもある」


 渋々といったように晴香が頷く。


「確かにお前の言う通り私の把握している他の魔女の中には入り口が見えるであろう奴はいる……………だがそいつと接触するのは最後の手段だ。リスクがでけえ」

「それはわたくしたち六人がいても?」

「そうだ」


 この場の見えざる魔女が全員でもリスクがあると晴香は断言する。


「そんなリスクを冒すのは今あるものを試してからでいいだろ?」

「それがないからその話をしているのではないの?」

「いや、ある」


 きひひ、と笑みを浮かべて晴香が僕に視線を向ける。


「そこにいるだろう? 獣共の入り口を見る事の出来る可能性のある男がさ」

「え?」


 僕は思わず自分を指さす。


「いや、僕にそんな力は…………」

「ある」


 僕自身でもわからないことを晴香は断言する。


「そもそもお前はほとんど普通の人間の癖に私達が見えてるのがおかしいんだよ…………それはお前が世界の根幹に繋がった時に刻み込んだのが見る事だからじゃないかと私は思ってる」


 結達集められた少女達が見えざる魔女となる際に世界に刻み込んだ想念。それを元に彼女たちは世界を改竄することができる。


 僕はその想念として見る事を刻み込んだと晴香は言ってるのだ…………そして僕にはその心当たりがあった。もしも僕が今の状態になったのが見えざる獣の襲撃によって隊が崩壊したあの時ならば…………見えざる獣のその姿さえ見えればと心の底から願っていたのだから。


「つまり僕はずっと見るという力を使ってるってこと?」

「まあ、私達より世界との繋がりが小さいからそれこそ見る以外の汎用性も利かねえんだと思うがな、見たいと思ったものを見る力があるんじゃねえか? 実際に舞が襲って来た時には結にも見えなかった糸が見えたんだろ?」

「あ」


 あの後も色々あって完全に意識から抜けていたが確かにそんなこともあった。


「喜べよ、男の見せ所だぜ?」


 きひひ、と晴香が嗤った。


 とてつもなく大きな責任が、僕の肩にまたのしかかった気がした。


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