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全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
第一部 

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四十六話 魔女と獣の望むもの

「ヘタレなの」

「お姉さん弟君の男らしいところが見たかったなあ」

「ニーサマにはがっかりです」

「く、暗闇に、引きずり込めば、よかったかな、ふひひ」


 背中越しに落胆したような結たちの声が聞こえて来る。晴香の何の配慮もない発言のせいで妙な空気になりかけてしまったけれど、僕が現実逃避気味にその場に座り込んで皆に背を向けたことで流石に強行しようという空気ではなくなってくれたようだった…………その代わり明らかに落胆した雰囲気を四人は醸し出している。


 もちろんそれで落胆して諦めるというのならいいのだけれど、


「きひひ、まあお前らそんなに急かすもんじゃねえだろ」


 そこに助け舟を入れたのは晴香だった…………そもそも僕を追い詰めたのは彼女だけど。


「確かに私はそいつと約束…………まあ、契約を交わしたわけだがそれはあくまで五分五分の契約。私が利益を提供してそれに対する報酬を渡すって契約だ。現状で私はその利益をまだ渡せていないからな、世界からの強制力だってほとんど働いてない」


 そう、流石に僕だってそんな一方的な契約は結ばない。あくまで契約それ自体は対等であり晴香が協力を拒否するのなら僕も報酬を支払う必要はないのだ…………まあ、その前提条件として命を担保にされていたりもするのだけど。その辺りはまあ僕の性根の問題というか必要経費みたいなものだと思って受け入れるしかない。


「それはつまり契約が進めば陽もその気になっていくという事なの?」

「その可能性は高いと思うぜ? まあ、それがどういう形で現れるのかは私にもまだわからねえ。お前らに迫られることへの抵抗力が薄くなるのか、それともお前らを見るだけで興奮するようになっちまうのか…………興味深い話じゃねえか」


 本来あるべき順番をすっ飛ばして子供を作る事への強制力だと確かにそうなりそうで僕は頭が痛くなる…………僕だって人並みに性欲はあるのだ。現状でも我慢している部分はあるのにそこに世界からの強制力が働いたら我慢できるという自信はない。


「お前の思惑に乗るのは業腹ごうはらだけど俄然がぜんやる気が湧いて来たの」


 鼻息強く結が口にするがそれは他の三人も同様だった。


「お姉さんとしては弟君の望みを叶えるために頑張らないとね」

「ニーサマを支えるのが良い妹というものなのです」

「が、頑張るよ、ふひひ」


 彼女らが集まってこれまでなかったくらいに世界を救う意欲で溢れているのが僕にもわかる…………それこそ僕が自分の決意を明かした時以上に。


「あ、あのさ」


 僕はそんな彼女らに恐る恐る声を掛ける。振り返るのも怖かったが視線も向けた。


「僕はみんなを心から愛したいって言ったよね?」

「うん、なの」

「お姉さん心から嬉しかったわ」

「ニーサマ男らしかったです」

「とっても、心に、響いた、の」


 その時のことを思い出して四人が顔を赤らめる。舞だけはみんながよくわからない話を続けていることに飽きたのか、隅の方でジャックと遊んでいるようだった。


「それで、その…………僕としては体で繋がる前に心の繋がりを大事にしたいと思うんだ」


 これは決して逃げではない…………逃げではないのだ。もちろん体の繋がりも大切な事だとは思うけれど、やはりそれはゴール地点に置いておいてまずは心の繋がりを確かにすることが大事だと僕は思うのだ。


「陽がそのつもりでも契約は契約なのよ?」

「それは、頑張って我慢する」


 もちろん結の言う通り見えざる魔女との契約なのだから、契約してしまった以上その履行に対して強制力はある…………けれど実のところそれについては晴香からしっかりと説明されている。

 

 ぶっちゃけた話晴香が結たちに説明した約束の説明にはブラフの部分が大きく、見えざる魔女以外に対してはその履行を求める強制力が弱いだろういう話以外にも、そもそも強制力が働く基準に関しても甘いだろうという事だった。


 もしも僕はそんな契約は守りませんと拒否すれば話は別だけど、最終的に履行する意思さえあれば引き延ばしには寛容だろうという話だった。


「だから」

「陽」


 僕の言葉を遮って結が笑みを浮かべる…………わかってくれたのだろうか。


「それはそれ、これはこれなの」

「ええと?」


 それはつまりどういうことなのだろうかと僕は彼女を見る。


「確かにわたくしは陽に心から愛して貰いたいと思っているの」

「う、うん」

「そしてそれとは別にズッコンバッコン体で繋がりたいとも思っているの」


 話ながら結は丸めた左手に右手の人差し指を抜き差しする。


「恋愛感情と性欲は重なり合ったものもあるけど独立した感情としても成立するのよ」

「…………」


 僕はちらりと他の三人にも視線を送る。皆うんうんと頷いていた。


「それに共同作業が心の繋がりを深めることもあると思うの」


 にこりと、捕食者の表情で結が微笑む。


「とにかくわたくし…………不本意だけどわたくしたちはいつでもウェルカムなのよ」

「んふふ、お姉さんにいつでも甘えていいのよ?」

「ニーサマが望むならいつでもどこでもです」

「いつでも、いいよ、えへへ」

「…………え、ええと」


 ウェルカムどころかゴーしてきそうな四人を、どう収拾付ければいいのか僕にわからなかった。


 パンッ


 けれどそんな空気を打ち払うように手を叩いたのは当の結だった。これまで率先していた彼女の行動だけに水を掛けられたように他の三人の空気も変わる。


「困り果てる陽を楽しむのもこれくらいにしておくの…………ご褒美をもらうにはまずあの女に利益を提供させる必要があるのよ」


 切り替えるように澄ました表情を浮かべ、晴香へと視線を向ける。


「きりきりと話すのよ」

「きひひ、ようやく本題に入れるってわけか…………話なんてそっちのけでこのまま乱交パーティーでも始まるんじゃないかと思っちまうところだったぜ」

「子供のいるところでクソ下品な単語を発するんじゃねえのよ」


 散々口にしていた自分のことを棚に上げて結が口をへの字にする。当の舞とは言えばこちらの話を聞いてもいないようでジャックを振り回して楽しんでいるようだった…………体型は大人顔向けだから中々勢いが凄い。


 ジャックも僕らの知らないところで舞のストレスを発散させるため、かなり苦労しているのかもしれないな。


「あー、もうわかったわかったここは私が引いておく…………それで本題だな?」

「そうなの。どうやって見えざる獣の問題を解決するつもりなのか説明するのよ…………もちろんその内容が対価に見合わないようなら覚悟するの」

「おいおいその対価がなくなったら困るのは私よりお前らじゃねえのか?」

「…………」


 結はそれを否定も肯定もせず座った目線を晴香に向ける。僕へ要求した報酬を単純に自分だけの利益ではなく結たちを巻き込むようにしたのが彼女の狡猾なところだ。


 僕の命という担保だけなら結たちはどうにかして晴香を出し抜いて彼女だけを殺す方法を考えただろうけど、彼女が生き残る事が結たちの利益にも結び付くことでそれを回避した。


「きひひ、それじゃあ説明させてもらうが…………その為にはまず見えざる獣がどういった存在かってところから話さねえとな」


 そう語る晴香の口調は楽し気だった。知識を集める人間は自分の知らない知識を埋めることが楽しみだけど、同時に自分の知る知識を他人に話す楽しみというのも持っている。結達からは自分が知識を得る事が全てと評価されている晴香だけど、やはり知識をひけらかすのは楽しいとは感じているのだろう。


 そしてそれはそれとして見えざる獣がどういった存在であるかは僕も気になる。実際のところ二度話すのは面倒だからと具体的な事はまだ僕も聞けていなかったからだ。


「まず見えざる獣ってのはお前らも想像はしていただろうがこの世界の存在じゃねえ。あれはこの世界の外からの存在…………言うなれば異世界からの侵略者だ」

「…………まあ、確かにこの世界のものじゃないとはわたくしも思っていたの。ただ断言するからにはそれを裏付ける根拠が必要なのよ」

「もちろんだ」


 晴香が頷く。


「まず見えざる魔女には獣が見えるし、現れれば何となく居場所が分かる…………それはなんでだかわかるか?」

「なんでも何も感覚なの」


 それは口で説明できる話ではなく、結にしてみれば遠くの音を聞くのと同じ肉体に備わった感覚なのだろう。


「なんでそんな感覚があるのかって話だよ」

「もしかして」


 美優が思いついたように口を挟む。


「世界の感じてるものがお姉さん達にも伝わってるって晴香ちゃんは言いたいの?」

「正解だ」


 見えざる魔女は世界に近しい存在だ。だから世界そのものが見えざる獣の居場所を感じたのが彼女らにも伝わる…………そういうことらしい。


「と、するとなんで世界は見えざる獣の居場所を感じるかだ。当たり前だが世界には見えざる獣以外にも生物はいくらでもいる…………いやいた、か。まあ今でも各都市にはそれなりの人間がいるが私達に強く伝わって来るのは見えざる獣の存在だけだ」


 それはつまり見えざる獣を世界が特別視しているからだと晴香は言いたいのだろう。


「世界にとって私達やそこに住まう生物は存在して当然のものだ…………だから気にも留めない。しかし見えざる獣は世界にとって異物だ、だから気になる」


 自分の体の中に知らないものが入り込んでいれば僕だって気になる…………気になるどころか何とかして追い出さなくてはと焦る事だろう。


「世界にとっての異物なのだから当然世界の外から来たもの…………そういうことね」


 納得したように美優が頷く。


「推論としては特に反論する理由も無いの」


 物証を示したわけではないからあくまで状況証拠による推論。しかし納得できる範囲ではあったという事だろう…………結らしい捻くれた物言いだと思う。


「それで、見えざる獣はなんでこの世界まで人間を滅ぼしにやって来たのよ?」

「ん、ああ。さっきの侵略者っていう私の言い方も悪かったがそれは勘違いだぜ?」

「勘違いって何がよ」

「見えざる獣は別に人類が目的じゃない」


 聞き返す夏妃に晴香は答える。


「見えざる獣の目的は…………この世界の採掘だ」


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