四十話 見えざる魔女たちの水を差される楽しい宴
「えっと、仲良し同盟締結を祝して僕なりにできることを考えた結果こういう場を設けさせてもらうことになりしました…………僕の手料理で恐縮ですが楽しんで頂ければと思います」
堅苦しいというか自分でも似合わない物言いだと思いつつ僕は口にする。最初はこんなことをする予定はなかったのに、主催者として挨拶の一つでもするべきだと結が言い出して皆もそれに賛成してしまったのだ…………それにしても、最初に気聞かされた時もそうだったけど仲良し同盟とか気が抜ける名前はどうにかならなかったのだろうか?
「く、くふふ…………その照れの入った表情もそそるの」
「お、王子様……かわいい、ふひひ」
「陽おにーさんなんかすごい!」
「うんうん、陽君の気遣いお姉さんは嬉しいわ」
「もっとシャキッとした方が格好いいですよ、ニーサマ」
手料理ではなく僕の戸惑う表情を肴に魔女たちが一様の反応を見せる…………いやまあ、楽しんでくれるなら何でもいいんだけどさあ。
「ま、まあとにかく冷めないうちに食べて欲しいかな」
それはそれとしてこのパーティのための料理は結構気合いを入れて作ったのだ。できれば暖かいうちに食べて欲しい…………なんだかんだで手料理の機会は延び延びになっていたのでようやく結にも食べてもらえるのだし。
「確かに自分から料理役を買って出ただけあって美味しそうなの」
「ありがとう、でも飾り付けの方も結構頑張ったよね」
キッチンも備え付けられていることもあって会場はいつもの倉庫だけれど、僕が調理している間にパーティー会場のようにテーブルが並べられて周囲の飾り付けもされていた。恐らく魔女の力も使ったのだろう…………段ボールも見当たらないしまるで違う場所のようだ。
「飾りつけは舞も手伝ったんだよ!」
「そっか、えらいね」
「うん!」
頭を撫でてあげると舞はとても喜ぶ…………彼女は割りと僕に近いくらい背が高いのでやはり違和感はあるけど、その表情は誉められて喜ぶ子供そのものだ。
「わたくしも頑張ったのよ?」
「わかってるよ…………その、撫でた方がいい?」
「それは恥ずかしいの」
全裸に一枚羽織の方が絶対に恥ずかしいと思う…………というか結は地味に嫉妬深いというか自分も構ってもらいたがるなあ。意識しないと。
「ニーサマ、この唐揚げとても美味しいです」
もぐもぐと頬を膨らませて夏妃が寄ってくる…………僕が決意を伝えて一番変化があったのが彼女だ。変わったというかぶっちゃけ別人になったのかと疑うくらい僕への態度が一変してしまった。
以前は嫉妬からの僕への敵意が剥き出しだったのが、今は完全に従順な妹みたいな態度になってしまっている。
「こらこら夏妃ちゃん、美味しいのはわかるけどちょっとはしたないわよ?」
「あ、ごめなさい姉さま!」
「んふふ、別に怒ってないわよ」
謝る夏妃にニコニコとした表情で返す美優からは前に感じたどこか寒々しいような印象はない。はしゃぎ過ぎた妹を微笑ましく見守っている印象だ。
「このアップルパイとっても美味しいよ、陽おにーさん!」
「ありがとう、いっぱい食べてね」
「うん!」
やはり子供らしく甘いものが好きなのか舞はデザートとして作ったアップルパイやプリンなどを一杯に頬張っている…………やっぱりその姿と体型には違和感あるなあ。
「甘いものばっかりじゃなくてあっちの野菜も食べるんだよ」
「むー、わかってるよー! ちゃんとお野菜取りなさいってお母さんにも言われてたし!」
それでもやっぱり印象としては子供なのでつい口に出た小言に、今度は不満を現すように舞はその頬を膨らませる。よくよく考えてみれば見えざる魔女となった彼女にバランスのいい栄養なんて必要ないかも知れないけど、舞の場合は普通の人間と変わらない生活を送らせた方が精神状態は安定するだろう。
「うん、えらいえらい。いっぱい食べて大きくなるんだよ」
「えー、舞はもう結構おっきいよ?」
「…………その自覚はあるんだね」
てっきり姿形も子供なのだと思い込んでいるものと思っていた。
「さて、そういえば切歌は?」
舞が再びデザートに夢中になったので僕は切歌の姿を探す。こんな雰囲気ならば普通に過ごしてくれてるんじゃと期待したけれど、ぱっと見まわした限りでは見当たらない…………もしかしていつものように物陰とかに潜んでいるのだろうか。別に無理に矯正するつもりはないけれど、せっかくお祝いに作った料理なのだから床で食べたりせずに楽しんでもらいたいなとは思う。
それに、だ。自分から潜んでいるといっても他の皆は話しかけられているのに自分だけ話しかけられないというのも疎外感を覚えるだろう…………何とか見つけて話しかけないとと僕は目を凝らして周囲をもう一度見まわす。
「あ」
すると僕はその姿を見つける。料理を並べたテーブルから少し離れたところに小さなテーブルを置いて切歌は取り分けた料理を食べていた。彼女が食事を取っているところを始めて見るけれど、まるで獲物を横取りされることを恐れるような小動物の所作だ…………音を立てない最小限の動作で、周囲に気を配りながら少しずつ料理を口に運んでいる。
「えっと、切歌?」
「っ!?」
近づいて声を掛けると目が合い、椅子から転げ落ちそうな勢いで切歌はびくりとする。
「お、王子様!? な、なんで?」
「いや、なんでも切歌が一人でいるなら声くらいかけるよ」
同盟締結のお祝いの場ではあるが同時に懇親会のようなものなのだ。彼女の性分はわかってはいるけれど、無理のない範囲で周りと彼女の橋渡しするのもが僕の役目だろう。
「ひ、潜んでた、のに」
「あ、やっぱりそうだったんだ」
切歌のいる場所は決してメインのテーブルから遠い位置ではない。それなのに一度は僕も見逃したし、他の皆も気を遣っているのではなく単純に気づいていない様子だった。だから切歌が自分の守る西都の気配を見えざる獣から潜ませているように、この場でも自分の気配を皆から潜ませていたんじゃないかと思ったのだ。
「ま、魔女でも、簡単には、気づけ、ないのに…………」
「ええっと、それは多分切歌が本当は気付いて欲しかったからじゃないかな?」
僕は見えざる魔女や獣が認識できるだけで殆ど常人と変わらないみたいだし、考えられる理由はそれだけだと思う。僕や皆から隠れたいと口にはしていても、心の奥底では見つけて欲しいと感じていたのではないだろうか。
「そ、そうなのか………な?」
「きっとそうだよ」
自信なさげに呟く切歌に僕は頷いて見せる。
「まあ、それでもいきなり無理をする必要はないよ…………でも、僕も付き添うからみんなに一言ずつくらいは挨拶しないとね」
「う、うん…………頑張って、みるね、えへへ」
少し前向きな表情になって切歌は小さく微笑んでくれた。
「ところで料理は気に入ってくれた?」
それはそれとして僕は手料理の感想も気になる。
「あ、うん。美味しい、よ」
「なにか気に入ったものはある?」
「ピ、ピザ、とか…………美味し、かった」
「そっか、ピザか。生地から作ると美味しいんだよね」
できれば焼きたてならさらに美味しいのだけど、ホスト役である僕が料理ばかり作ってるわけにもいかないので少し冷めてしまっているはずだ…………それでもまあ、買って来たものとはまた別ものの美味しさがある。
「陽、そんな引きこもりの相手ばっかりしないでちゃんとわたくしの相手もするの」
不意に声と共に肩に重みが掛かる。視線を肩に向けると不満そうな表情の結がそこへ顎を乗せていた…………拗ねたような表情が少し可愛らしい。
「ええと、引き籠もりはちょっと言い方が悪いよ」
「こんなパーティーの場で力を使ってまで潜んでる方が悪いの」
「えっとまあ、それは…………」
僕も少し否定しきれなくはある。
「む、結ちゃん、ひどい」
「どうせ半分くらいは陽が来ることを期待してたくせによく言うのよ。皆で仲良くしましょうと言った端から彼を独占しようとするなんていい度胸なの」
それは僕自体も指摘したことではあるけれど…………そういう見方もできるのか。
「そうそう、出来れば私にも個別の時間が欲しいもんだな」
けれど更なる説教を結が口にする前に、そんな声が不意に響く。
「む、結ちゃん…………今の、って」
「気のせいではないの、この楽しい楽しい場でこの上なく不快な声が聞こえたの」
戸惑うような表情を切歌が浮かべ、結の表情が不快げに歪む。
「おいおい、不快って失礼だな…………その楽しい場とやらは私のおかげで成立したんだぜ?」
さらに響く声…………僕の気のせいでなければその声は僕自身から聞こえていた。もちろん僕は喋っていないけれど、発生源は僕自身の位置…………下、だろうか? 僕ははっと気づいてズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。
「いつの間にか通話になってる?」
全くそんな覚えはないのに、スマホは着信元不明でいつの間にか通話状態になっていた…………使い慣れたものが想定外の挙動をしていることに僕は不気味さを覚える。取り落としたりはしなかったけど、反射的にスマホを持った手を自分から遠ざけていた。
「おいおい、そんなびびんなくてもちょっとハッキングして操作しただけだぜ? 余裕がないせいでスマホも昔から一切進化してねえからな、セキュリティもザルなんだよ」
見えざる獣に追いやられて都市に籠るようになって技術の発展は停滞している。電話の向こうの彼女にとってその停滞した技術をいじることなど容易いことらしい。
「晴香、余計な話をしてないで本題があるならとっとと話すの」
無駄な話などしたくもないというように結が促す…………気が付けば他の三人も集まって来ていた。美優と夏妃は結と同じように不快げに顔を歪め、舞だけはただ何が起こっているのかが気になるという興味本位の表情だった。
「はいはい、旧交を温める気はないってことな」
電話越しに肩を竦める様子が見えるような声色だった。
「ま、私の用件は唯一つだよ…………手を貸せ」
手助けを求める言葉と裏腹に高慢な物言いで彼女、晴香は続ける。
「この世界を救うには、お前らが必要なんだよ」
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