三十八話 全裸とストーカーのガールズトーク
「全く狂人共の相手をするのは疲れるの」
美優と夏妃が去り王子様も家に戻って行ったところで結ちゃんは深い溜息と共にそう愚痴を吐いた。舞は結ちゃんのベッドでジャックと眠っているからそれを聞いたのは私だけだ。
思考が肉体にも影響しているのか舞は早い時間に眠くなるみたい…………魔女になってしばらくは私も以前の慣習で眠くなっていたけれど、今ではよほど力を使わない限り眠気なんて覚えなかった。
「ふ、二人とも、機嫌は…………よさそうだった、よ?」
私の目からはこの上ない上機嫌で美優と夏妃は帰って行った…………彼女らの守る都市はまだしばらく潜んでいるはずだけど、色々と必要な準備をして来るらしい。
何の準備をするのかわからないけれど、彼女たちには王子様から容易く離れられるくらいの精神的余裕があるという事だと思う。
「陽からあんなことを言われたなら機嫌はいいに決まってるの…………現に切歌だってずっと上機嫌なの」
「っ!?」
指摘されて私は顔が熱くなる。そんなつもりはなかったのだけれど態度に出ていたのだろうか…………でも仕方ないと思う。こんな私に寄り添う形であんな決意を聞かされたら誰だって嬉しくなってしまうに違いないのだから。
「発情した雌の顔をしているの」
「…………結ちゃん、言い方が下品、だよ」
「わたくしは肉体だけでなく精神的にもオープンなのよ」
その裸体を隠すことなく結ちゃんは胸を張る。王子様は気付いていないけれど彼のいないところでは結ちゃんは布すら羽織っていない。それどころかその内王子様も慣れるからと彼の前でも全裸に戻る算段を立てている…………やっぱり結ちゃんもあの頃とは変わってしまったのだ。
それでも性根は優しい結ちゃんのままだし、人を殺して喜んだりするよりは良かったと思う…………でも何でそんな方向にと思わないではいられない。
「失礼なことを考えている顔なの」
「そ、そんなことないよ、えへへ」
「どう見ても誤魔化し笑いなのよ」
呆れるように結ちゃんが私を見る。
「言っておくけれど、わたくしの性癖がおかしいのは認めるにしても切歌も威張れるような性癖ではないの」
「そ、それは…………」
痛いところを私は突かれてしまった。
「で、でも、私は…………は、恥ずかしいだけ、だから」
「嘘を吐くの」
「う、嘘じゃ、ない、よ」
事実として私は他人の視線に耐えられないのだ。もちろん王子様と見知らぬ他人では感じるものを違うけれど…………結局耐えきれなくて隠れてしまう。研究所で話したおかげか結ちゃんとは何とか正面を向いて話せるけれど、それも背中のぞわぞわを我慢しながらだもの。
「それもあるだろうけど理由としては半分なの」
「ぜ、全部、だよ」
「嘘なの」
結ちゃんは半目でじっと私を見る。
「それが嘘じゃないなら陽のシャワーを興奮しながら覗いていた理由を答えるの」
「っ!?」
思わぬ言葉を告げられて私は動揺を浮かべてしまう。
「な、なんで……それ、を」
「ハッタリなの」
あっさりと答える結ちゃんに私は自分が墓穴を掘ったことを知った。
「わたくしが切歌の立場なら絶対にやると思ったことを言ってみただけなのよ」
「ふ、ふへへ」
私は誤魔化すように笑うしかなかった。
「どうせ寝顔とかも見てるの」
「う、うん」
もはや認める以外にないと私は頷く。
「わたくしに帰ると伝えてもすぐに西都に戻らず陽に張り付いていたのよね?」
「…………その通り、です、えへへ」
さっきから私は笑う意外にできていない。
「大方切歌は相手のプライベートな部分を自分だけが見る事に喜びを感じるタイプなの」
「そ、そうなの、かな?」
深く考えたことはなかったけどそうなのかもしれないと思う。彼のこんな姿を見ているの自分だけなのだと、その事に優越感を覚えていなかったかと問われれば首は振れなかった。
「ちなみに陽のどんな姿が一番興奮したか答えるの」
「えっ!?」
「キリキリ答えるのよ」
「む、結ちゃん…………目が、怖い」
私の答え次第では嫉妬で燃え上がりそうな目に見える。結局のところ結ちゃんも自分以外の魔女を私も含めて認めているわけじゃなく我慢しているだけなのだ…………私に対しては他の魔女よりも緩いと信じたいけれど。
「え、えっと、ね」
とにもかくにも何かを答えなければ結ちゃんは許してくれないだろう。正直なところ王子様をストー…………見守っている時は大体興奮している。その中でも結ちゃんが納得して且つ嫉妬を煽らないようなものを選ばなくてはならない…………難易度高いよう。
「あと十秒以内に話すの」
困り果てる私を結ちゃんはさらに焦られせる…………ああもう、いいや。私は結ちゃん絡みで一番最初に思い浮かんだ王子様で興奮した記憶を口にすることにした。
「結ちゃんの裸を思い出して王子様が悶々としていた姿!」
半ば自棄になっていたからだろうか、私は珍しくつっかえることなくそれを口に出来た。
「っ!?」
流石に予想外の答えだったのか結ちゃんが目を丸くする。
「も、もう一度言って欲しいの」
よく聞こえなかったからではなく、聞こえたからこそ結ちゃんは私にせがむ。
「む、結ちゃんの裸を、思い出して……王子様が悶々と、していた、姿、だよ」
二度目となると私も落ち着いてしまっていつものように言葉がつっかえてしまう…………けれど結ちゃんは気にしてないようだった。
「く、くふっ…………駄目なの、にやけてしまうの」
とても嬉しそうに結ちゃんはその顔を緩ませる。
「その、なの…………一応確認しておくけどその相手はわたくしで間違いないの?」
少しして表情を何とか取り繕うと結ちゃんが確認してくる。
「う、うん…………その、結ちゃんの趣味について、色々と困るって……独り言で愚痴ったりしてた後、だから」
「ふ、ふーん、なの」
また少し顔がにやける。王子様に女として意識されていることがやっぱり嬉しいみたい…………少し羨ましいなと私も思う。もちろん私は全裸になる気はないし、やろうと思っても恥ずかしくてできないけど。
「でもちょっとおかしいの」
不意に一つ声のトーンを落として結ちゃんが呟く。
「わたくしの見たところ切歌に寝取られ趣味は無いの。そんな切歌がわたくしで興奮する陽の姿で興奮したとはあまり思えないのよ」
「…………」
流石結ちゃん鋭い。けれどそれに私が答えるわけにはいかない。
「もしかしてその先があったのではないの?」
「…………黙秘、します」
それだけは私は口にできない。
「ふひひ」
ただ思い出すと自然に口元が緩んでしまう。
「そのいやらしい笑みが答えのようなものなの」
「…………い、いやらしく、ない、よ?」
「自分ではわからないだけなの」
結ちゃんは呆れるように大きく溜息を吐く。
「なんだか怒る気も失せたの…………馬鹿な話はこれくらいにして本題に入るのよ」
「本題、って?」
その言葉の意味が分からず私は首を傾げる。
「そんなもの美優と夏妃に対する今後の対応についてに決まっているの」
「え」
私はますますわからなくなってしまった。
「仲良く、するんじゃ、ないの?」
「もちろんこちらからは仲良くしてやるの」
答えながら結ちゃんはやっぱりわかっていなかったと言いたげな視線を向けて来る。
「切歌、わたくしたちは今とても美味しい状況にいるのよ?」
「えっと、どういう、こと?」
私にわかるのはみんなが仲良く出来るよう努力すれば王子様も私達を愛する努力してくれるという事だけだ…………それはとても嬉しいことだけど、結ちゃんが言っているのは違う事のはずだ。
「わたくしたちが協力する姿勢を見せていれば陽はわたくしたちを愛そうとしてくれるいの」
「う、うん、えへへ」
頷きながらも想像してつい私はにやけてしまう。
「だから以前に話したように事故に見せかけてあの二人を葬るようなプランはなかったことにするの」
「うん」
それが発覚して王子様に見放されるようなリスクはとるべきじゃないと思う。
「でもそれはそれとして愛される対象はやっぱり少ないに越したことはないの」
「…………うん」
思う所がないでもないけど私もそれには同意してしまう。結ちゃんが相手ならまあ我慢できるけど、王子様が美優や夏妃の相手をしているのはやっぱり嫌だ。
「じゃ、じゃあ、どうする……の?」
「簡単なの」
尋ねる私に結ちゃんは薄く微笑む。
「あちらに自滅してもらうのよ」
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