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全裸の魔女と世界を救う話  作者: 火海坂猫
第一部 

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32/175

三十話 体は大人で中身は子供な魔女

 人のものを勝手に使っちゃいけませんっておとーさんは言っていたけど、ここは舞以外の人はいないし舞がここに来たのは大きい人が言ってたから…………それならきっとここのお人形は舞の為に用意してくれたものだよね?


 これまでジャック以外と遊べなかったから舞はお人形さんでいっぱい遊んだ。おとーさんとおかーさんを探したかったけどどこにいるかわからないし、ジャックも二人が迎えに来てくれるまでここで待てばいいって言った。


 でもしばらく遊んでいたらお人形さんはみんな壊れちゃった。途中からは遊び終わったら壊れないように大切に保管するようにしたのに、置いておくだけで変な風になっちゃった。


 お人形さんがいなくなって退屈していたら研究所で会った女の子からお手紙が来たの。それには男の子がいる場所が書いてあって、舞はすぐにジャックとお出かけすることにした。今までもジャックがいるから寂しくはなかったけど、男の子に会うのは久しぶりだからとっても楽しみだった。


 男の子がいるってところに着いたらそこにはお人形さんが一杯だった。舞のはみんな壊れちゃったけどこんなにたくさんあるなら男の子と一杯遊べる。今度は壊さないように気を付けなくちゃってジャックには優しく操るようにお願いした。


 男の子は舞が思っていたのより年上でおにーさんだった。でも優しいおにーさんに見えたから舞はたくさん遊んでくれるかもって嬉しかったの…………それなのに横にいたおねーさんが舞の邪魔をした。だから邪魔者を何とかしてってジャックにお願いした。


 ジャックは舞の友達でとっても頼れる子。いつも舞がお願いすればそれを叶えてくれる…………なのにジャックはおねーさんたちにやられちゃった。そうしたらいきなり首が痛くて血がたくさん出てきて、ジャックが何かしてくれたけどどんどんと寒くなった。


「もうしばらくしたらあの娘は死ぬのよ」


 おねーさんの声が聞こえる。死ぬって、舞が死ぬの? 死ぬっていうのは動かなくなって何も考えらえなくなって舞がいなくなっちゃうってことだよね?


 嫌、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!


 舞は死にたくない、死にたくない、死にたく


                ◇


「ん」


 ジャックとの話し合い(?)が済んでしばらくすると不意に舞が呻く声が聞こえた。見やれば彼女は少し身じろぎしてその目をゆっくりと開く…………その瞬間に僕の隣へと移動していたジャックがぴょんと飛び上がった。


「ジャック!」


 自分の胸の上に着地したジャックに舞が目を見張る。


「もー、舞に飛び乗っちゃ駄目って言ってるじゃない!」


 頬を膨らませて怒って見せながらも声は弾んでいて楽しそうだ。その仕草は幼い子供そのもので、その相反するグラマラスな体型を思わず忘れそうになる。ジャックもしまったというように頭を掻いて見せて舞から目を背けて、それに舞がまた笑う…………こんな風に二人は暮らしていたんだなと僕は理解する。


 自分を認識できる他者が存在しない孤独の中で、舞はジャックという友達と過ごすことでそれを紛らわせてきたのだ。


「ええと、舞ちゃん?」


 その二人の様子に割り込むには気が引けたけど、黙っていて驚かれても困るかなと僕は口を開く。それに舞は僕へと顔を向けてまた驚いたように目を見張る。


「おにー、さん?」


 呆然と呟く舞のその表情が次第に青くなって、怯えるように周囲を見回す。それでようやく自分が荒野ではない場所にいる事に気付いたようだけど、それよりも確認しなければというように焦った表情を僕に向ける。


「あ、あの…………こわい、おねーさんは?」


 結に殺されそうになったことをしっかりと覚えているのだろう、舞のその表情は完全に彼女に怯え切っていた。これを見越していたから結は部屋の外で待機することにしたのだろうけれど、彼女が近くにいる事を伝えて良いものだろうかと僕は躊躇う。



 いくらその姿が見えなくても近くにいると分かれば舞は怯えるだろう。けれど結は美優に約束した手前出来る限り早く舞と和解しようと考えているはずだ…………それにいつまでも会わないまま逃げている事も出来ない。


「…………」


 僕はそっとジャックに視線を送る。舞の見えざる魔女としての力はジャックが全てだ。もしも彼女が恐怖に怯えて結たちがいなくなることを望めば舞はジャックに頼る…………僕も説得はするつもりだがやはり一番宥なだめられるのは関係が深いジャックだろう。その存在理由からすると難しいだろうが、彼にしかできないことだ。

 

 こくり


 と、小さくジャックが頷いたように見えた。僕としてはそれを信じるしかない。


「舞ちゃんの言うおねーさん…………結はこの部屋の外にいるよ」

「!?」


 びくりと体を震わせて舞は逃げ道を探すように周囲を見回す。倉庫内をパネルで仕切って作られたこの部屋の入り口は一つだけど、逃げようと思えばどこからでも逃げられる。けれど舞にとっては見えない結がどこにいるかもわからない。


「ジャ、ジャック…………」

「舞ちゃん」


 ジャックに助けを求めようとする舞を落ち着かせるように僕は話しかける。その意を汲んでくれたのかジャックも舞の肩を落ち着けと言うようにポンポンと叩く。そんなジャックを彼女は少し驚いたように見るが、それが怖さを薄れさせることになったのか少し表情が落ち着く。


「舞ちゃん、結と切歌はもう君を傷つけたりはしない…………僕がさせない」


 少し考えて僕は付け加える。いきなり恐怖の対象である二人がもう危険ではないと伝えても納得はしてくれないだろう。それよりは僕は二人から舞の盾になると伝えたほうが安心させられる…………とりあえず、彼女が怯えずに二人の前に立ってくれないとどうしようもないのだから。


「お、おにーさんも舞を守ってくれるの?」

「うん、ジャックと一緒に舞ちゃんを守るよ」


 向けられたその目を逸らすことなく頷いて見せる。それに舞はほっと息を吐き、少しだけその表情がはにかむ…………けれど僕はただ彼女を守ってあげると安心させるだけではいけないのだ。それではいつかまた同じことが起きてしまう。


「でも、その代わり舞ちゃんにも約束して欲しい」

「約束?」

「そう、約束」


 真剣に、けれど舞にとって脅しに聞こえないように僕は意識して声と表情を調整する。


「まず僕は舞を守るけど、だからって二人にジャックをけしかけたりしないようにして欲しい」

「え、でも」

「二人も僕に舞をもう傷つけないって約束してくれてる…………でも、舞がジャックを二人にけしかけたらその約束は守れなくなっちゃう」


 やればやり返されるというのはわかりやすい理屈だ。今の舞は二人の事が怖くていなくなって欲しいと思ってるだろうけど、手を出せばそれこそ自分がまた怖い目に遭うと思ってくれれば抑止力になる。


「それともう一つ、この街にいる人形はみんな僕のものだから勝手に遊んだりしないこと」

「えっ!」

「約束できる?」

「…………うー」


 葛藤するように舞は眉を歪めて泣きそうな表情を浮かべる…………そんなに人形遊びが好きだったのか。しかしこれは僕としても絶対に妥協できない事柄だ。これを舞が約束してくれな限りは僕も彼女を守るという約束を守る事はできない。


「おにーさんと一緒なら、遊んでいい?」

「…………小さいお人形ならいいよ」


 この場合の人形は東都の住民ではなく本物のお人形だ。孤児院では下の子と遊んであげる事は少なくなかったから、普通の人形で遊んであげる分には抵抗はない。


「それに約束してくれればお人形遊び以外にも色々遊んであげられるよ」

「…………ほんと?」

「うん、噓じゃない」


 孤児院の予算は潤沢だったが流石に玩具にまで予算は多く振り分けられず、あるものでいかに新しい遊びを生み出すかがそこで暮らす子供たちの楽しみでもあった。ジャックと二人でずっと過ごしていた舞の考える遊びよりはバリエーションに富んでいるはずだ。


「それなら舞、約束する」

「ありがとう」


 僕は頷いて舞に微笑みかける。


「あっ、約束するならあれしないと駄目だよね?」

「あれ?」

「えっと、指切りげんまん!」

「ああ」


 子供らしい発想に僕は納得して小指を差し出す。それに舞は嬉しそうにすぐ自分の小指を絡めた。


「それじゃあええと、僕は舞ちゃんを守るし一緒に遊んであげる」

「舞はおにーさんのお人形で勝手に遊んだりしないし、あのおねーさんたちと喧嘩しない」

「よし」


 僕は頷いて舞を見る。


「指切りげんまん嘘吐いたらはりせんぼんの―ます」


 そして二人で唱和した。


「じゃあ、これで約束だね」

「うん!」


 頷く舞に笑顔を崩さないまま内心で僕は安堵する。とりあえずはこれで舞とジャックの双方との和解は済んだ。もちろんこの後に舞を結と切歌に会わせて和解させるという難題は残っているけれど、ここまで落ち着いてくれれば会わせていきなり殺し合いを始めるなんてことはないはずだ。


「それじゃあ舞はもう少しここで休んでて。後で何か…………そうだな、お菓子でも持って来るよ」

「あ、あの! おにーさん!」


 椅子から腰を上げた僕に舞は慌てたように声を上げる。とりあえず大人しくしてくれるよう約束したことを結たちに伝えてこようと思ったのだけど、流石にすぐに部屋を出ようとしてしまったのは早かったかもしれない。


「なにかな?」

「あの、ね…………舞を、その」


 けれど恥ずかしそうに口を濁す舞は僕が離れるのが不安といった様子でもなかった。


「言ってごらん」

「その、舞を…………一回だけぎゅーっとして欲しいの」

「…………」

「駄目?」


 不安そうに舞が僕を見るが、答えるのに躊躇ってしまったのは彼女がその思考や言動と裏腹にグラマラスな体型をしているからだ…………抱きしめれば当然その感触がダイレクトに僕へと伝わってくることだろう。


「いいよ」


 しかし僕に断るという選択肢は与えられていない。ここで断れば舞が消沈するのは明らかであり、そもそもこんな風に人のぬくもりを求めるような孤独へ彼女を追いこんだのは僕ら守られるだけの人間なのだから。


 舞は子供だ、その事を強く頭で意識しながら僕は彼女を抱きしめた。


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