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第22話


 アノーマリー12について補記


 帝都太田区の■■家に在住。■■家は帝國内でも有数の上流階級の一族であり、帝國の政治経済に関わる者や、魔法技術に携わる者など、優秀な人材が多い。

 現在、12とファミリー・ネームを共有している者は以下のとおり。 


A:女性。Bの秘書。壮年? 非常に小柄であり、顔つきは少女のように見える。

B:男性。帝國政治家。■■大臣。壮年。異界のシティとの交流に積極的。

C:男性。■■■■会長。老齢。常に奇妙な杖を携帯している。

D:女性。魔法技術分野の研究者。壮年。■■大学教授。

E:女性。若年。SNSなどを用いたビデオ・ゲームの配信活動を行う。

 

 上記の5名が12と同じく不死性を有するのかは現在のところ不明。調査を継続。

 






 アパートを出ると、ユリはすぐに藤宮を追った。街頭に照らし出された夜道を駆け抜ける。

 幸いというか何というか、あの藤宮ふじのみやのやつがユリの家へ押しかけてくるときはいつも徒歩だった。タクシーすら使わない。表通りから外れた人気のない路地ということもあって、すぐに見つけることができた。

 それでも、やつはいつもセカセカと早歩きするものだから、追いつくのには少々苦労した。身長差がありすぎて歩幅が違うのだ。


「っおいテメー! ……こ、このヤクザ野郎!」


 肩で息をしながら大きな背中に向かって怒鳴りつけてやると、藤宮は大げさにため息をついてから立ち止まった。そしてゆっくりと振り返る。


「あの……何度も申し上げたと思いますが。私はヤクザではありません。弁護士です」

「ヤクザじゃなけりゃなんなんだよ! よくも母さんを泣かせやがって! 弱い者イジメして、そんなに楽しいかよっ!?」

「心外ですな。弱い者イジメだなどと、そんなつもりは毛頭ありません」

「ふざっけんなよ! よりにもよって今日……今日に来やがって!」


 ユリは拳を握り締め、今にも殴り掛からんばかりの勢いでわめいた。怒りと悲しみがゴチャゴチャに煮詰まって、頭が破裂しそうになっていた。

 母さんはこの日のために、無理して仕事を休んでくれていた。ユリの誕生日を祝うために、ほんとうにささやかな、小さな幸福の時間を共有しようとしてくれたのだ。

 だから、それをぶち壊しにしたこの男のことが心底憎かった。

 それだけではない。大好きな母さんをあんな風に追い詰めて。土下座までさせやがって。

 ……ああ、母さん。私の前であんな惨めな姿をさらすことになって、どんなにか辛かっただろう。

 それも全部、この男のせいだ。どんな理由があったとしても、この藤宮という男もケイコたちと同じ。

 ユリと母さんを苦しめる憎悪の対象でしかない。


「あー」


 涙ぐむユリを見て、藤宮がやおら天を仰いだ。くしゃくしゃと頭をかきながら、唸り声をあげる。


「そっかそっか。今日ってお前の誕生日だったな。そりゃ、悪いことしちまったなぁ……」


 藤宮が慇懃な言葉遣いをやめた。そして目を細め、こちらを見つめる。

 ユリはこの男の、この目つきが大嫌いだった。嫌悪でもなく侮蔑でもない。その瞳の中にあるのが、疑いようのない憐みの色だからだ。

 ユリたちの生活水準は世間様に比すれば、確かに高いとは言えない。それに母さんの仕事だって大っぴらに口にできるようなものでもない。

 だが、それが何だというのだ。それでもユリは幸せだ。母さんと2人で、精一杯幸せに生きているのだ。同情されるいわれなどない。

 ましてやその幸福をぶち壊したこの男から憐れまれるなど、とてつもない屈辱だ。

 だがそんなユリの思いなど知るよしもなく、藤宮は目じりをちょっと下げる。


「すまんかったな。仕事とは言え……」

「うるせっ! このヤクザヤロー! 今さらそんなっ」

「ったく、相変わらず口の悪ぃガキだ。誰の影響だ? 母親か?」

「か、母さんは関係ない!」


 慌てて否定すると、藤宮は「おっと。そりゃ失礼」と肩をすくめた。大げさな仕草に、またカッとなる。


「金が欲しいんだろ!? オラ、持っていきやがれ!」


 握り締めていた財布を力いっぱいに投げつけてやる。至近距離だったのにも関わらず、藤宮は動じることもなく片手でさっとそれをキャッチした。顔面に命中するはずだったのに。くそっ。


「オイオイ危ねぇな。何すんだよ」


 苦笑する藤宮。全く意に介していない。完全に子ども扱いだ。


「うるせー。その金をくれてやるから、今回はそれでいいだろ!」

「あのな。ガキの小遣い程度でどうにかなる金額じゃぁねぇんだよ。こんな……」

「10万入ってる! 確かめろ!」

「え? マジで?」


 そこで藤宮が初めて驚いた顔を見せた。財布の中身を確認し、さらに目を丸くする。


「オイオイオイ。どーしたんだよ、この金? まさか……」

「ふつーにバイトして貯めたんだよ! 悪いことなんてしてねー!」


 とはいえ牛乳配達みたいなまっとうな仕事ではないのだが。

 とにかく、本当はそのお金で自分用のスマホを買うつもりだったのだ。だから母さんからのプレゼントを貰った今となっては、癪だがコイツにくれてやっても問題はない。

 

「……なるほど。頑張ったな」


 藤宮の表情が緩んだ。この男がユリに対してだけときたま見せる、妙に気安い笑顔。ユリはこれもまた大嫌いだった。

 いつも母さんをいじめている罪滅ぼしのつもりなのか、この男はユリに対しては妙に優しい。『勉強は問題ないか』とか『学校は楽しいか』とか、馴れ馴れしく聞いてくるのだ。まともに答えてやったことはないが。


「どうだよ。これで文句ねーだろっ」


 精一杯凄んでみせる。しかし藤宮は首を横に振った。


「いいや、駄目だ」

「はぁ!? まだ足りねーってのかよ!?」

「俺が金を払ってもらう相手はお前じゃねぇ。お前の母親からだ。だからこの金はどうあっても受け取れない」

「な……なんだよ。同じ金じゃねーか!」

「いいや、違う。まったく違う」


 藤宮は膝を曲げて姿勢を低くすると、あえてユリに視線を合わせて諭すような口調で言った。


「俺が―厳密には俺の依頼主が欲しがってるのは、お前の母親が稼いだ金なんだ。だからお前からの金はどうあっても受け取れない。お前、頭良いから……分かるだろ?」

「そ……」

「ほらよ。返すぜ」


 そっとユリの手を取り財布をのせると、藤宮は立ち上がった。やっぱり馴れ馴れしく、ユリの頭をポンポンと軽く叩きながら。


「わざわざあの“ババァ”にこき使われて稼いだんだろ? もっと大事に使いな」


 そう言い残すと、背中越しに手を振りながら藤宮は去って行く。残されたユリは言葉もなく、ただそれを見送るしかなかった。

 

前作『不死者の旅行記』もお読みいただけますと、より楽しめます。

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