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突然の知らせ

初めて長編に挑戦してみました。マイペースで更新していく予定です。

アンナはいつものように小鳥の鳴き声と窓から差し込む緩やかな朝日で目を覚ました。

枕元のベルを鳴らすと、隣の部屋に控えていたミモザが、水の入った桶など、身支度に必要な道具一式を乗せたワゴンを押しながら入って来た。


「おはよう、ミモザ。今日もいい天気ね。」

「おはようございます、アンナ様。この国は大抵いい天気じゃないですか。」


アンナがいる後宮は、乾燥地帯に位置するアナストシア帝国の首都にあるため、1年のうち雨期のふた月を除くと大抵晴れているのだ。

アンナが身支度をしている間に、ミモザは食堂へ朝食を取りに行った。

アンナに付いている召使はミモザただ一人なので、アンナは大抵の事は自分でやるようにしている。


アンナの部屋は広大なアナストシア帝国後宮の片隅にある。寝台を置くだけで半分のスペースが埋まってしまう程の小さな部屋が2つあるだけの小房であるが、アンナに不満はなかった。東側にある窓からは朝日が降り注ぎ、部屋全体を明るく照らしてくれるところは特に気に入っている。


今の皇帝の後宮には、妃が十数人暮らしているが、いずれも豊満な体とあふれ出る色気を持つ美女ぞろいで、16歳になった今でもここに来た13歳と時と身長以外はほぼ変わらない体形と、清楚と言えば聞こえはいいが、銀髪で緑目の北欧系の幼い顔立ちのアンナは、全く皇帝の好みではないらしく、後宮に入れられて以来一度も閨に呼ばれたことは無かった。


皇帝に気に入られれば、広大な房に住み、たくさんの召使達にかしずかれた贅沢な暮らしも夢ではないが、それをアンナは望んでいなかった。このまま忘れ去られた存在として平和な日々を過ごすことが唯一の望みであった。


皇帝の好みに外れるアンナが後宮に入った理由は、アンナが神聖皇国からの人質だからである。


神聖皇国は小さいながらも独自の宗教を持ち、神官長が国王を兼任している国である。神聖皇国は少数の神官兵の他、軍隊を持たない国家であったが、神聖国を侵略しようとする国には神罰が下るという伝説があるため、長い間他国からの侵略を免れていた。


しかし、近年勢力を伸ばしているアナストシア帝国は宗教を否定する軍事国家であったため、神聖皇国は侵略を恐れ、恭順の意を示すために毎年貢物を送ると共に、人質として王女であるアンナを帝国の後宮に差し出したのだ。


アンナの日々の暮らしは実にシンプルだった。後宮では1年を通じて様々な催し物があるほか、妃同士の付き合いも多いが、アンナが呼ばれる事は殆どなかった。朝食を取ったあとは、図書室へ行き本を読み、午後は広大な後宮の庭を散歩するくらいである。


後宮の妃達は本にはあまり興味が無いらしく、後宮の図書館は訪れる者もなく寂れていた。蔵書数も少なかったため、アンナは既に全ての蔵書を読み終わり、今は二巡目に入ったところであった。


月に1度は神聖皇国にいる父や兄たちに手紙を書き、近況報告と共にどうしても必要なものを送ってもらったりしていたが、先月出した手紙の返事がまだ届いていない事が気がかりだった。


その日も朝食が済み、図書室へ出かける準備をしていたところ、めずらしく皇帝付きの高位侍女がアンナの部屋を訪ねてきた。


「アンナ様、朝早く申し訳ございません。皇帝がお呼びですので、至急金陵殿までいらして頂けますか?」


金陵殿は表の宮殿と回廊で繋がった建物で、後宮での行事の際や、皇帝との謁見などに使われる。金陵殿を中心に東西南北に4つの宮殿があり、それらが妃たちの住居となっている。ちなみにアンナの房は南宮殿の一角にある。


皇帝からの呼び出しなど初めてのことなので、アンナは不安な気持ちになりながら、その侍女の後についていった。


外廊下を通り金陵殿の広間へとアンナたちは入った。広間の奥は一段床が高くなっており、皇帝の玉座が鎮座している。アンナはその床から1メートルほど離れたところで待つように言われた。しばらくすると皇帝入室を知らせる先触れが来たので、その場所で両膝を付き、両手を胸の前で交差して待った。


皇帝が共の者を数人引き連れて入室してくる気配がしたので、アンナは面を伏せた。


「アンナ妃、面を上げよ。」


椅子に座る皇帝の背後に控える従者の声に、アンナは少し面を上げた。皇帝の顔を見るのは後宮に入った時以来なので3年ぶりである。肩にかかるほどの長さの、ゆるいウェーブの黒髪を持つ中肉中背の男性で、意地の悪そうなグレイの目以外は特徴らしい特徴はない。敢えて言うのであれば、豪華すぎる衣装が平凡な顔とミスマッチであった。


(皇帝はこんなお顔だったかしら?)


アンナは皇帝の顔を全く覚えていなかった。


「アンナ。久しいな。息災であったか?」


「お気遣いありがとうございます。陛下に置かれましてもご機嫌麗しゅう存じます。」


「そのように畏まらずとも良い。楽にせよ。」


「はい。ありがとうございます。」


「実はそなたに知らせねばならぬことがあるのだ。」


皇帝が側にいる侍女に目配せすると、その侍女が蓋の付いた円筒形の陶器の入れ物を持って前に進み出た。そしてアンナの前にそれを置くと下がっていった。


「中を見てみよ。」


アンナが蓋を取って中を覗くと、陶器の中には生首らしきものが入れられていた。


「ヒッ・・・・!」


アンナは直ぐに目を反らし蓋を閉めた。


「陛下…。この首は何でしょうか?」


恐々と聞くと、皇帝は同情めいた表情をしてアンナを見つめたのち呟いた。


「その首に見覚えは無いか?」


嫌な予感がする…。帰ってこなかった手紙の返事…。アンナはまさかと思いつつも、勇気を出して再度陶器の中を覗いた。


陶器に入っている首は、白髪の混じる長髪と白い髭を長く伸ばした初老の男性であった。

目を瞑っている顔には幸いな事に苦悶の表情は見られない。


「お、お父様!!!」


アンナは悲鳴を上げた。


「陛下!なぜお父様がこのようなお姿に?」


皇帝はため息をついて悲しそうな顔をしていたが、目は笑っているように見えた。


「余の弟がこの国の将軍なのは知っておるか?こやつが困った奴でな。軍部を掌握して不必要に他国への侵略を繰り返しておるのだ。元老院や皇帝の余ですら奴を止める事ができぬ…。」


皇帝はその後も何やら話していたが、アンナの耳に届く皇帝の声は徐々に弱まり、それと共に頭は真っ白になり何も考えられなくなった。唯一、皇帝の弟の将軍が父を殺したということだけ心に残った。


気が付くとアンナは自室の寝台に横たわっていた。目からは涙がとめどもなく流れて枕を濡らしており、召使のミモザが心配そうな顔をして側に控えていた。目が合うとミモザはハンカチを取り出してアンナの頬をぬぐい、背中に手をまわしてゆっくりとアンナを起こしてくれた。その後、しばらく姿を消したかと思ったら、手にティーセットを持って戻って来た。


「アンナ様よろしかったらこちらをどうぞ。気分が落ち着きますよ。」


アンナはゆっくりと手を差し出しカップを受け取った。それは暖かいミルクティーだった。

何も言わずにただ側にいてくれるミモザの存在がありがたかった。


「ミモザ。ありがとう。」


アンナがミルクティーをベッドで飲んでいると、先ほどの高位侍女がアンナの部屋を訪ねてきた。


「アンナ様、お話があります。」


そう言うと、ミモザの顔をチラリと見た。ミモザは軽くお辞儀をして部屋から立ち去った。

アンナはなんとかベッドから出て椅子に座ろうとしたが、うまく立ち上がることができなかった。


「アンナ様、そのままで結構です。楽になさってください。この度は本当にご愁傷さまでした。お心お察し致します。」


「お心遣い痛み入ります。」


アンナは何とかそれだけ答えたが、今は何も聞きたくないし考えたくなかった。


「陛下におかれましては、アンナ様に大変申し訳ない事をしたとお申しになり、何とか償いをしたいとの仰せです。」


「償いと言われましても…。」


今更何を言っているのだろう。何を償うと言うのか…。それよりもアンナは兄たちや国民の安否が気になった。


「お兄様たちは無事なのでしょうか?」


侍女は何も答えず目を瞑ると、首を小さく横に振った。


(お兄様たちも皆殺されてしまったのね…。)


更なる絶望がアンナを襲った。もう枯れてしまったと思った涙がまた溢れてきた。


侍女は更にアンナに近づくと、耳元で囁いた。


「陛下はアンナ様に復讐の機会を与えたいとの仰せです。」


「復讐…?」


「陛下でしたら、『下賜する』という名目で疑われずにアンナ様を王弟殿下のおそばに送ることが可能です。そして、か弱い女性にならば殿下も気をお許しになるでしょう。」


侍女はそういうとニンマリと笑った。


アンナは復讐と言う言葉で頭がいっぱいになり、侍女の表情を不審に思う余裕がなかった。


(お父様やお兄様の復讐?そうよ。もう私には生きている意味など無いのだから、いっそ将軍を殺して私も死ぬというのもいいかもしれない。)


アンナは侍女を見つめると、小さく「よろしくお願いします。」とだけ答えた。

世界観はあまり細かく設定していません。ツッコミどころが満載かも知れませんが、ゆる〜く読んでもらえると嬉しいです。

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