164 継承権の順番
カシスは、『ジェゼロ王からの命』で、子息のユマ様の警護についている。
忠誠を誓っているのはジェゼロ国、ひいてはジェゼロ王に対してだ。優先順は明確だ。現国王のエラ様、次いでララ様とソラ様。ソラ様に関しては王を継がないと言われているが、ララ様に何かあった場合、王位を継ぐことになる。
ユマ様は王位継承権が産まれた時からない。王の子であることは間違いがないため、警護に付くことに否はない。正式に議会院より成人の認証が下りたため、現在はジェゼロ王族の立場を辞している。重要度に関しては、国政に関わるオオガミよりも低くなる。
ジェーム帝国内には、現在ユマ様しかジェゼロの血筋はいない。そうなれば、優先順位をつける必要はなくなる。だが、今自分はユマ様を二番手にしてしまっている。
「ご迷惑をおかけしました」
ルサ様との茶会の翌朝、ユマ様が改めていう。
「今後は、お気を付けください」
そう言いながら、頭の中ではユマ様の警護長を辞するべきではないかと考えていた。
現在、自分はユマ様よりもルサ様の命を優先している。それはエラ様の命からも反することだ。だが、間違っているとわかりながら、正せていないのだ。
何事もない振りをして、その日の仕事を過ごす。ルサ様が関わらなければ、問題はない。
翌日、ルサ様からの呼び出しがあり、研究所内のルサ様の部屋へ向かった。
「遅いぞカシス。それで、ユマは怒っていなかったか?」
開口一番、問われる。
「あの毒は何ですか。今後、どのように気を付けるべきでしょうか」
ジェゼロの神子の血を継ぐ者は神に選ばれし存在だ。それは比喩ではない。実際に、普通の人とは違う。ユマ様も、あれほどの大怪我を負いながら、数日で動けるまでに回復した。普通であれば、死んでも可笑しくない状態だったというのに。
自分は、その特異性を知っていた。前国王は殺しても死なないような相手だった。それこそ、ご自身の母親から暗殺を試みられても、その度に死地から蘇るような方だった。
「ああ、あれは私しか知らん処方箋だ。作れるものはいないから安心していい。それにしても、大雑把で障害が出ていないか心配していたが、ユマは随分と高い毒体制を身に着けているようだな。私並みだぞ」
あっけらかんと笑っているが、最も手にして欲しくない相手がその薬を所持しているということだ。
「ユマ様は、絵を描く際に悪癖がございました。鉱物系の毒も取り込んでいたのでしょう。去年、薬草園に来た際にお止めしました。背が伸びられているので、それらの毒の影響はかなり抜けているのだと思いますが、耐性は残っているのでしょう」
ルサ様の世話をしているミイサが補足した。
「なるほど、成長に疎外が出るほどとなれば、普通ならば死んでいても不思議がないな。一代だけにしておくにはもったいない程ジェゼロの特性を育んでしまっているな」
なにやら誇らしげに頷いている。
「ルサ様……ユマ様にアッサル国へ出向けなどと、何故無謀な提案を。ユマ様が本気にしたらどうなさるおつもりですか」
「可愛い可愛いエラの子が、行かない訳がないだろう。直接解決した方が簡単なんだからな」
「ユマ様は既に成人して、ジェゼロの名を名乗れません。そのような状況で、他国と交渉したところで、どうなることもないでしょう」
ユウマ・ジェゼロである間は、ジェゼロ国の保護がある。今のユマ様はあまりにも無防備だ。保護がなくとも、エラ様の長子である事実は変わらない。
「ならば、戦争の指揮を執らせるか? まあ、それもいずれは必要だろうが」
「全て帝国に任せればいいでしょう」
「別にそれでもかまわないが、その場合、最悪帝国が攻め込まれて死者多数出した上に、領土が奪われる。そうなったら、どうなるだろうな」
「帝国がアッサル国程度に負けるとでも?」
今回はユマ様がアゴンタ・ルールーと関わったために他の者が死ぬという訳ではない。ユマ様を諭し、帝国軍とアシュスナ・ルールーたちに一任すればいいと考えていた。
帝国がわざわざ負けるような悪手を打つ必要がない。
「これは忠告だ。ジェームの神は善神ではない。それこそ、一部の人間のためならば平気で全てを屠る。ユマに与えられた課題だ。人に任せるというのも決して誤りではないが、投げだすことなど神は許さないだろう」
「神………」
実際に、ジェゼロの神を知っている方の言葉に息苦しくすら感じる。
「ああ、お前にとってはとても残念な事だが、ユマはジェゼロの神には王として認められないが、ジェームの神には愛された」
ルールー統治区を任された時点で、可能性は頭にあったことだ。
帝国について細部まで知っているわけではない。
帝王を選ぶのは神であり、その言葉を伝えるのは唯一無二の神官だと言われている。
何よりも、現帝王の在位は既に四十年近くなっている。歴代の統治期間を見ても最長と言えるような長さだ。安定してはいるが、帝王が変わればどうなるかわからない。何よりも、帝国領はあまりにも強大になってしまった。次の帝王にそれを扱いきれる人材がいるのか……。ジェゼロだけでなく世界の懸念事項だ。
「帝王の後継者候補だという事ですか」
口に出したくない言葉に、ルサ様はふっと笑った。
「ジェゼロへ逃がすか? 線路は帝国が抑えているぞ」
ユマ様は馬術にも長けている。野営訓練なども受けている。日数はかかるが、人目につかぬように移動する技術はある。
「……ユマ様の技量を見るためだけに、戦争を治めろと……。ユマ様は、エラ様の子ですよ」
「ああ」
言いながら、視線を逸らした。
「そうなんだよ。しかも、エラに負けず劣らず可愛い! この世で可愛い生き物はエラだけだと思っていたのにな。初めてあれを見た時の衝撃がわかるか?」
「やはり、エラ様だけを人間だと思っておいででしたか」
この人は、歪んでいる。そうなっても仕方ない生き方だったのは知っている。
唯一王位を継ぐ存在でありながら、それを疎まれた。
「馬鹿いえ、そんなやばい病を患ってるのは私じゃない。シューセイやエユ、他にも人間は結構いたからな」
その人間にまで平気で毒を試す時点で、到底まともではないだろう。
「……こちらには?」
「ふっ、ジェゼロ以外に人間がいるのか?」
ぞっとするのはどこまで冗談かわからないからだ。
「次はいつ茶会をできるかな。飲んでいれば互いに楽しく過ごせそうだ」
「申し訳ありませんが、ユマ様は飲酒を控えるとの事です。これ以上の失礼はできないと」
胃の痛いやり取りをして、呼び出しから解放される。
ユマ様を見てからルサ様に度々呼び出された。最初は胃が荒れたが、ミイサが胃薬を用意していた。そんな優しさを見せるならば、こちらには連れてきてほしくなかった。
通常業務に戻ろうと研究所内を歩いていると、すっとミトーが現れる。
何かの報告かと思ったが、挟み込むように後ろからトーヤもやってきた。
「カシス隊長。ユマ様が授業に出られている間に話しがあります」
「ご同行を」
まだ若い警護二人が、厳しい眼をこちらへ向けていた。よくよく考えてこの場を選んだのだろう。ユマ様の部屋ではアリエッタもいる。いざとなった時、帝国の警護の助けもない。何よりもここにいる間はユマ様ご自身の警護を減らしても多くの危険はない。最終的に決行を決めたのはルサ様の部屋から出てきたことでか。
「ああ、いいだろう。場所はどこにする」
ユマ様が時間契約者を買ってきたときには、どうしようもない世間知らずだと呆れたが、ユマ様は私よりも余程人望を持っているようだ。
久々更新です。
なんか、この話、永遠続きそうで怖い。
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