忖度とかそういうのいらないから
「こんなもんかなぁ」
草原から移動して近くの森に入り、草木を集めて作った超絶原始的な服をしげしげと眺める。
一先ず、大事そうなところは隠れている。
別に誰が見ているわけでもないのだが、心の問題だ。
「ほー、結構器用なもんですなぁ」
「もっと文化的な生活がしたいよ」
「それはあんたのこれからの腕次第でーす。期待してるよ!」
もっともな話だ。
文化どころか、自分の他に人もいないのだ。
まずは、社会を創り上げねば。おいしいご飯の為にも、温かいお風呂の為にも。
そういえば、この本に服が欲しいとか風呂に入りたいとか、そういうのを書いたらどうなるんだろうか。
――いや、やめておこう、きっと望んだものが出てくるけど、そういうチートは好きじゃない。
気を取り直し、森を見渡す。
触った木の感触はとてもリアルで、まさしく僕がイメージする木そのものであり、何か変わったところは無さそうだ。
植物に関しての記述は、ドンダールの生まれた大樹と、そこから生まれた数多の植物のことだけ。それで、ここまで精巧な木が生まれるのだから、やはりこの本はすごい。
そして、あの天に掲げられたガリオーン、すなわち太陽も、元居た世界とほぼ同じ能力を備えているようだ。人間である僕が生きていくに十分な暖かさを与えてくれる。
ん、そういえば、あの太陽、あの位置から変わっていなくないか。
「それにしても、いつまで経っても夜が来ないね」
「そりゃあだって、夜のこと書いてないじゃない?」
「……えっ、そういうこと?!」
結局のところ、この“創世の書”で設定を造らなければ、この世界は機能しないということか。
勝手に加筆して修正するくらいなら、そういうところも汲み取ってくれればいいのに、実に面倒くさい。
しかし、書かなければ実現しないなんて、そんなことが元の世界で起こればたちどころにいろんな場所で不具合が起きそうだが、この世界ではそれでも自分が生きていける環境が整っている。
もはや物理法則は役に立たないとみていいだろう。いや、物理とかよくわかんないんだけどね。
創世の書を開き、夜についての加筆を行う。
『いつからかガリオーンは母を求めて、母なる大地の周りをまわり始めた。これにより、昼と夜が生まれた』
こんな感じかな。天動説を地で行くこの加筆が、果たしてどう処理されるのか。
検証にはしばらくかかるね。
「それで、この後どうする?」
「うーん、どうしようかなー。夜が来るなら寝る場所も作らないといけないし、ちょっとお腹も空いてきた気がするんだよね」
ああー、お腹空いたな。
そんな言葉を紡いだ時だった。
どさり、と音がして、自分の目の前に何かが落ちてきた。
果物だ。
驚き、上を見上げると、目の前の木にだけ不自然に果物が成っていた。
さっき見た時には、全くなかったはずのものだ。
「えっ、なにこれ、こわっ!」
「あー、これはあれだ、神様が作った最初の人だから、植物が忖度したね」
「そんたくって、なんでそんな難しい言葉知ってるの」
もう一度創世の書を開いてみた。
『初めての人間は、神々によってトリッシュと名付けられた。トリッシュは多くの神の祝福を受けた人間であり、全てのものに愛された。木々は自らの恵みを、獣たちは自らの命すら差し出した』
えっ。
「なにこれ、こんなの書いた覚えないんですけど……えっ、こんなことあるの?」
「あ、それ、多分うちの上司の仕業っすね。なんか、『最近の若い奴はこれくらいしてやらないとすぐ根を上げるからさぁ』とかって」
「命すら差し出すとか恐いわ!」
だってこれ、もしお腹が空いているところにウサギさんとかが出てきたら、喜んで火に飛び込んじゃうあれでしょ?
こっちが狩るのはまだしも、差し出されるとかなんかもう、心が痛い。
「即刻やめさせろ」
「ええ、でも、そしたらすぐ根をあげてしまうんじゃ」
「ぐ、いやまあ、便利さは魅力だけど、確かにそうだけど、最初からチートが過ぎる……!」
「まあ、そういうんなら加筆すれば上書き出来るんじゃない?」
「あ、そうか。えーっと、どうやって書こう」
ペンとあーだこーだと言う間に、結局以下のようにまとまった。
『初めての人間は、神々によってトリッシュと名付けられた。トリッシュは多くの神の祝福を受けた人間であり、全てのものに愛された。トリッシュには神々の恩寵が与えられた』
「まあ、そんなもんちゃいますか。結局さっきの内容と似てますけど」
「うるさい、さっきよりはマシ!」
結局、一人っきりで何もないところに放り出されて、何の武器もないのは怖いという結論に至り、恩寵だけ頂く内容となってしまった。恩寵がどういう内容になるのかは、これから次第ではある。生き物が命を差し出さない程度で頼みたい。
じーっとその文章を読んで考えていたら、じわじわと加筆の文字が浮かび上がってきた。
ははぁ、なるほど、こうやって加筆されているわけか。って、ちょっとまて!
『しかし、神々は同時に試練も与えた』
「し、試練!? なんで?! なんで試練なんて勝手に与えられてるの?!」
「ありゃ、こりゃあ難儀だね」
「他人事みたいに言ってんじゃないよ! どどどどうしよう、試練って一体どんなのよ!」
「んー、そりゃああんたの作った世界だから、あんた次第だろうけど……まあ、12個くらい、いろんな化け物と戦う系のやつやらされたり、シラミをつぶせと言われて大ムカデと戦わされたり、増えすぎた人類もろとも大洪水で流されたりとか、そんな感じ?」
「具体的すぎる! そして嫌すぎる!」
急いで、『軽めの試練』と加筆したが、何故かその文字は速攻で消えた。
ペンをぶん投げた。
初評価いただきました。嬉しさが限界突破。




