6話 魔王様(女)は優しいそうですよ?
「で……、心当たりとはなんじゃ?」
あの後、僕たちは魔王様に案内され、今は魔王様の部屋にいる。部屋には豪華なテーブルやクローゼットがあり、僕たちはテーブルを囲うように座っている。何か空気が重い……。僕ここにいる意味ありますかね……?
「はい……。近頃奇妙な事件が多発しているのをご存知でしょうか……?」
「それって…ある一定の場所で大勢の魔族が殺されたあの事件か?」
「はい……。そのとおりです」
確か前に魔王様に聞いたことがある。魔族は基本魔力が多く、中には魔王幹部と同等の魔力を持つ者も現れることがあるらしい。そんな強い魔族が殺された……?それも大勢……?僕は無意識に固唾を飲み込んだ。
「今私の部下が調査中で詳しくは分かりませんが……、殺した可能性のある者が……“魔族”らしいのです……」
「……!?」
それはシュリにとって衝撃的な事らしく、まるで信じられない物でも見ているような顔をしていた。魔王様も顔を強張らせている。
「そんな……ありえない……。同種族同士で殺しあうなどと……」
「しかし、事実です……」
凄く大切な話をしているのは分かるが、僕自身あまり理解できていない。例えるなら、父親とその友達が話しているのを傍で聞いているような気分だ。そんな状態の僕を魔王様が気づいた。
「基本、この世界では同種族で殺し合うなんて事はしません。どんな素行が荒い種族でもです。ここでは種族の繁栄は凄く難しいのです。外敵が常に身の回りにいますからね……」
それはなんとなく理解できる。娯楽で他種族を殺すような世界だ。全ての種族が敵と思っていいだろう。
「そんな生存競争が激しいこの世界で、同種族で殺し合う事にメリットなどありませんからね……。だから、今回の同種族で殺し合うのは異例の事態という事です」
なるほど…そういう事か。確かにこの世界で殺し合うなんて自殺行為だ。下手したらその種族自体が消えるわけなのだから。
「じゃが……、その事件とわしの相談と何の関係があるんじゃ……?」
「これはただの憶測ですが……、恐らく何者かが魔族の一人に何やら術式をかけた可能性があります。シュリの方も、何者かに術式をかけられた魔物が暴れまわっている可能性があるという事です…。」
「術式……じゃと?じゃが、この世界に術式を編める奴など…。……!まさか……!?」
「はい……。何者かがこの世界に潜り込んだという事です……」
「そんなことって……」
シュリはまたもや顔が暗くなる。魔王様も同様に顔が暗くなる。僕はそんな気まずい空気に晒されている。そして、僕はふと疑問に思った事を口に出した。
「僕思ったんだけど……、術式をかけた奴ってどうやってこの世界に潜り込んできたんだ?僕みたいに魔王様に連れてこられた訳ではないだろうし……」
「「……!!」」
僕の疑問に二人はハッと何か思いついたように目を見開いた。えっ?何?どうしたの?
「確かに……。この世界に入るなんて簡単じゃないはずです……」
「他に考えられる可能性じゃと…」
そこまで言うと、二人は確信したような顔をした。
「魔界召喚か…」
「それしかないでしょう。ということは……この世界に裏切り者がいるという事になります……」
「魔界召喚……?」
悪魔召喚みたいなのか……?などと考えてると、魔王様がまた説明してくれた。本当にありがとうございます……。
「魔界召喚とは、こちらの世界の住人が、自らの魔力で他の世界の住人に干渉しようとする行為です。菜糸君達の世界では悪魔召喚と呼ばれているらしいです。しかし、この行為は禁止されているはずなのですが……」
禁止されている行為を意図的に行なっているかもしれないという事か…。魔力が少ない種族では出来ないから、悪魔とか魔力が多い者が召喚されるらしい。
「本当に魔力が多い者は、こちらに人一人は召喚できるらしいです……。以前魔界召喚でこちらの世界に来てしまった人がいて……その人はすぐに魔物達に……」
それを聞いた瞬間、背中がゾワリとした。そうだ、ここは魔界なのだ…。僕は魔王城という安全な場所に居られているけど、外はいつも命の危険があるのだ。ここは、僕が住んでいた世界じゃないのだから……
「あの一件いらい、私は魔界召喚を禁止したのです……。もうあんな気持ちは嫌ですから……」
「…………」
あぁ、この娘は本当に優しいんだな……と思った。魔王という肩書きはあるけど、それと心は別だと思う。それに、魔王といっても某RPGのように悪の親玉というわけではないらしい。あくまで“魔界を治める者”という事らしい。
「魔力が多い者じゃないと魔界召喚が出来ないとなると結構絞られるんじゃない?」
「確かにそうじゃが……、それ程まで魔力が多い者などいたかのぉ…?」
「う〜ん……」
三人して眉間にしわを寄せて考えた。というか、僕はあまり種族に詳しくないから何も浮かばないんだけどね……。そんな事をしていると、突然ドアが勢いよく開いた。見てみると、部下らしき魔物が息を切らし、汗を流しながら入ってきた。
「魔王様!!大変です……!!外の様子が……」
「どうかされたのですか……?」
「外で大きなデモが起こっております……!!」
「!?」
どういう事だ……?何故デモが起こっているんだ……?とにかく僕たちは外の確認するために、外を見渡せる大広間に向かった。