11話 魔王様(女)はすごいらしいですよ?
『君、どこから来たの?』
『……あっち』
『あっちって?』
『…………』
『いや、指差してる方なのは分かってるんだけどさ……』
誰かの会話が聞こえる。聞いたことがある……懐かしい声だ。この声は……僕か?相手は……ダメだ、思い出せない……。
『君、名前は?』
「ーー……』
『へぇ〜……可愛らしい名前だね』
『……ありがとう』
『あれ?頬が赤いけど大丈夫?』
『……大丈夫』
誰だっけ……?断片的にしか思い出せない。でも、今でも覚えている特徴があった。それは……
『綺麗な黒髪だね』
『…………』
『あれ?顔真っ赤だけど大丈夫?』
『……うん』
その会話を最後に、僕の意識は暗転した……
◇ ◇ ◇
「ーー君ーーと君!」
どこからか声が聞こえる。薄っすら目を開くと、誰かが僕を起こそうとしている。でも、空が薄暗くて顔がよく見えない。
「ーー糸君!菜糸君!!」
「ん……?」
声がはっきり聞こえるようになった。声に主はすぐに分かった。だって、こんな可愛らしくも、凛々しい声を出せるのなんて一人しかいないんだら……。目を開けると、目頭に涙をいっぱいに溜まった涙を堪えながらこちらを見ている魔王様の顔が見えた。彼女の顔を見ていると、泣き顔も可愛いなぁ……なんて場違いな事を考えていた。
「良かった……!なかなか目を覚まさないので心配しましたよ……」
「ごめんなさい……って、ここは?」
体を起こしてやっと気づいた。僕がたった今寝ていた場所は、見渡す限り真っ白な岩で出来た岩が立ち並ぶ場所で、あまり魔物から見つかりにくい場所を選んだらしい。
「ここは死国山の麓です。報告にあったのはここら辺のはずなんですが……」
「おーい!!魔王様ー!!」
ふと、どこからか僕たちを呼ぶ声が聞こえる。
「随分遅かったですね」
声のする方を見ると、大きな翼を広げ、こちらへ飛んでくるメイガルの姿があった。その姿は悪魔の王に相応しい力強さと華麗さが伝わってくる。メイガルはゆっくりと地面に降りると、羽を徐々に小さくしていき、羽をしまった。
「それに、菜糸君も一緒とは驚きました」
「魔王城にいると、襲われる可能性がありますからね……」
「あぁ〜たしかに。この前グンセオも襲われてましたもんね」
メイガルはその時のことを思い出したのか、にししっと無邪気な笑い方をする。いや、助けてあげろよ……と僕は心の中でツッコんだ。さすが悪魔の王……。
「っと、ここです」
メイガルが足を止め、目線向けた場所には、異様な存在感を放つ洞窟があった。まるで見つけてくださいと言わんばかりに……。
「本当にここなの……?」
「はい。ここに怪しい奴が入っていったのを僕は見ましたから」
岩陰に隠れ、洞窟の様子を伺う。門番もなにも雇ってないなんて不用心すぎるんじゃないか……?なんて思っていたら、メイガルの顔が急に強張った。
「あのコウモリ達に気づかれないようにして下さい。恐らくあのコウモリは使い魔の類でしょうから」
「使い魔……?」
それって、魔王様が僕をこの世界に連れてこさせた張本人ではないか。でも、魔王様のって魔物じゃなかったっけ……?あんな小さいのが使い魔って……。
「もともと使い魔というのは、情報収集や伝達などが主な仕事なんです。魔王様のシャドウデビルの方が異例なんです」
「へぇ〜……」
思わず声がもれた。やっぱり魔王様って凄いんだな……異例の事をしちゃうんだから……。すると、メイガルが僕が関心している姿を見て、少しだけ補足を入れた。
「ちなみに、あのシャドウデビルは自分から魔王様の使い魔になりたいって言い出したんですよ?」
「マジで!?」
自分から使い魔になりたいなんて……知らない僕でも異例の異例という事はすぐに分かった。魔王様すげぇ……。
「いっ、今はそんな話どうでもいいじゃないですか!!」
魔王様が顔を真っ赤にして話を終わらそうとする。その顔を見ていると、もっとからかいたくなるが今はグッと我慢する。……あとでもう一度掘り返そう……僕は密かにそんな事を決意をした。
「あのコウモリに見つかると黒幕にもばれちゃうんですよね……」
「えっ……?じゃあどうするの?……」
あの洞窟に入るなら、あのコウモリをどうにかしないとダメだ。しかし、自分達の姿を見られずに排除するなんてできるはずが……
「いや、一人だけあのコウモリを排除できる奴がいます」
「えっ!?誰!?」
「リアスです」
リアスって……あぁ、そうか!!リアスは吸血鬼の女帝だ。吸血鬼といったらコウモリ。コウモリになって、あのコウモリを仕留めるって事か!なるほどなるほど……
「リアスのコウモリに、あのコウモリと一緒に別の場所に移ってもらいます」
「まさかのコウモリ生存ルート!?」
まさかコウモリを生存させるとは……真っ先にコウモリを殺そうとした僕の心は汚れてしまっているのだろうか……?まぁ、何はともあれあの中に入る作戦は考えた。あとはリアスをここに呼べば……!
「呼んだ?」
「わぁあ!?」
突然、背後から声がした。振り返ると、妖艶な体を見せつけているリアスの姿があったーー。




