第四章 死闘!VS再生体!3
左右真っ二つになる自身を想像した矢先!
甲高い唸りを上げるリアクターエンジンが轟いた。同時に脇の茂みからライドマシンが飛び出し、トオルと再生体の間に割って入る。
ガキィィィィィィンッ!
かち合う鋼の音に目を向ければ、見覚えのある男の背中が眼前にあった。
「危ねぇとこだったな、トオル」
ライドマシンの後部座席で、再生体と鍔迫り合いをしながら振り向く長二郎。目に活力が宿り、顔色も以前のような血色が戻っていた。
「間一髪だったねー、トオルちゃん」
とハンドルを握るトキンも、ニッコリと微笑んだ。
「助かった……」とトオルは安堵の息を吐きながらヘナヘナと腰を抜かした。
同時にジャリンッ! と相手の剣を弾く長二郎に合わせて後方へ跳び退ける再生体。
「俺が来たからには、もう心配はいらねぇぜ」
そう言ってライドマシンから降りる親友に、再生体が不愉快な面持ちで叫んだ。
「貴様っ! 何者だっ? 何故、拙者の邪魔だてをする?」
トオルを仕留め損ねた再生体がイラ立ちを露わにしていると
「俺か? 俺はこの『魔剣ヴェルファー』を造りだした真の所有者だ」
すると再生体は持っていた剣を今一度確認し、感嘆の声を漏らした。
「貴様がこの剣……いや、この『ヴェルファー』なるものを造ったと言うのか……。なるほど、なかなか良い仕上がりだ」
「何を知ったことをぬかしてやがる。いいか、良く聞け、再生体。この姉妹剣はなぁ、俺の持つ『ネーヴェル』と、てめぇが盗んだ『パンツァー』がひとつになって、初めて『魔剣ヴェルファー』として真価を発揮するんだ」
アニメ設定の講釈をたれながら刃先を向ける長二郎に、再生体もギュッと柄を握り直した。
「貴様の言う剣の真髄は理解できん。また盗人呼ばわりされても否定もせん。だがしかし、深月への愛を貫くためならば、拙者は悪にもなろう」
「愛のために自ら悪道に堕ちるのは勝手だがな、だからと言って正当化されると思うなよ」
「承知の上だ」
「その心構え、上等だ」
「芝山田くん! バカなことを言ってないで彼を止めて!」
その叫び声に、長二郎が崖上で囚われている深月に目をやった。
「おや、誰かと思えばボブ子じゃねぇか? しかも、どこかで見た悪党までいやがるときたか」
するとジャゲが、口の中の触手をグヂャグヂャと動かして不敵に笑った。
「そう言うてめぇはぁん、エテルカとイチャついていたのじゃ猫の仲間じゃねぇかぁん」
「そうちゃん! ガンナーレースの時に一緒にいたヤツちゃん!」
「何だ、もう一匹いたのか?」
銃を構えるビヂャに、長二郎は超然としたまま笑みを浮かべた。
「人をモブキャラ扱いすんじゃねぇぞ。良いか、耳の穴かっぽじって良く聞け。俺の名は芝山田長二郎。人呼んで『愛の傭兵(仮)』とは俺のことだ」
初めて耳にする二つ名。その親友のアドリブっぶりにトオルはあきれるだけだった。しかし、それよりも気になるのは、すっかり落ち込んでいた長二郎が元気になっている理由なのだが。
「何がぁん、愛の傭兵だぁん? 自分で言ってて、恥ずかしくないのかぁん? そもそもぉん、お前しか武器を持っていない状況でぇん俺たちに勝てるとでも思ってるのかぁん?」
長二郎以外、丸腰同然のトオルたち。超人的パワースキルを備えたクレアは別として、トオルは非力な地球人。トキンにいたっては最初から戦力外だ。その戦力差にジャゲが高笑っていると、突如として一人の女性が空から舞い降りた。
「その相手に、今から貴方はやられるんですよ。ジャゲ」
長二郎の脇に降り立つ人物を見れば、大人版クレハ・ガゼ・エテルカが立っていた。
――何で、エテルカさんが?
すると頭上でも同じ疑問を発していた。
「な、なな、何でエテルカが、この星にいるちゃんよ?」
驚くビヂャに続き、ジャゲもこんがらがった触手を元に戻しながら、額に冷や汗を浮かべていた。
「ま、待て……エテルカがいると言うことはぁん……まさか……」
それに応えるように、別の方角から抑揚の無い声がした。
「……当然、私もいる」
声のする巨木の中腹に目を向ければ、太い枝の上で黒羽を広げている人物がマシンガンのような銃を引っさげて立っていた。
海賊頭首ラ・クロウ・ディアのお出まし。その物静かな美少女の存在に、ジャゲとビヂャの声が二度ひっくり返ったのは言うまでもない。
「ディ、ディアっ!」
海賊の下っ端二人だけではなく、親玉二人の登場にトオルが我が目を疑っていると
「ディアとエテルカは連中を捕まえに、遥々、この地球まで来たんだとよ。さて、それは良いとして、まずは状況確認をしようか。見たところ、ボブ子を人質にしたジャゲがトオルを殺せと再生体を焚きつけているといった感じだが……間違ってないな?」
断定する長二郎に、トオルはクレアと一緒になって頷いた。
「長二郎さんの言うとおりですぅ!」
「ふーん……」と長二郎が訝しんでいると、ジャゲがヒステリックに叫んだ。
「お、お前らぁん全員、武器を捨てろぉん! さもないとぉん、このメスの命はないぞぉん!」
深月のこめかみに銃をグリグリと押し当てるジャゲ。このままではちょっとした弾みでもって深月の頭を撃ちかねないだろう。すると真っ先に再生体が声を上げた。
「ま、待てくれっ!」
「何だぁん、何か文句でもあるのかぁん、この役立たずめがぁん!」
「文句はない。だが、ここは拙者に任せて欲しい。この者たちは必ず拙者が仕留めるから、ミヅキを傷つける真似はしないで欲しい」
再生体の熱願に眉をひそめるジャゲ。そして……
「お前一人で、この連中を片付けようってのかぁん?」
「そうだ」
「ふーん。だとよぉん! どうなんだぁん、てめえらぁん?」
と、トオルたちを睨み回すジャゲ。
「望むところだ」
「チョージローの意見に、私は従うのみです」
「……エテルカが言うなら私も」
「もしかして、私も頭数に含まれていたりするの? いやだーん!」
「微力ながらぁ、私も加勢しますですよぉ」
トキンを除き、次々と同調する声にトオルも腹を決めた。
「もちろん、僕だって!」
多勢に無勢。戦う気のないトキンを除いても5対1だ。いくら相手が再生体と言えども勝機は充分にあるはず。
「と言うわけだから、トキン姉ちゃんは、もう帰ってもいいぜ」
「言われなくても、そうさせてもらうわよ」
騒動に巻き込まれまいと、ライドマシンに飛び乗り、早々に去っていくトキン。長二郎はそれを見届けると、首を回して首元をパキポキと鳴らした。
「これで心置きなく闘えるってもんだ」
「遠慮は要らぬ。死ぬ気で挑んでこい」
するとエテルカもレッグホルスターから銃を引き抜いた。
「長二郎から伺ってはいますが、貴方、相当強いらしいですね。なので、全力でいかせてもらいますよ」
相変わらずの二丁拳銃。そしてそれに従うように、ディアも再生体の背後に降り立ってマシンガンを構えた。
「……コレで蜂の巣」
再生体を挟み撃ちする格好に、エテルカが露骨に嫌な顔をした。
「ディアさま。間違っても私たちを撃たないでくださいね。それと被験者は殺さずですからね」
「……少しは私を信用して欲しい」
100%の確率で的に当てることの出来ない腕前。とは言え、万が一ということもあり、トオルはクレアと共に射線上からソロリソロリと逸れた。すると再生体は奪った『パンツァー』を円月状に振り、川の水を豪快に跳ね上げた。陽光を受け、キラキラと光り舞う水飛沫。その目眩ましのような動作に対し、ディアが反射的にマシンガンの引き金を引いた。
ズガガガガガガガガッ!
耳障りな不協和音が周囲に木霊した。そのどさくさに紛れ、鬱そうと生い茂る森林の中へと逃げ込む再生体。もちろん巻き添えを予期していた長二郎とエテルカ、そしてトオルもクレアに抱えられるように茂みに逃げ込んだ。
ピュンッ! ピュンッ! ピュンッ! ピュンッ!
目標を絞らず、考え無しの乱射。それにより川の水面から何十もの水柱が上がる。
「相変わらず下手くそですね」
茂みをかい潜りなから毒づくエテルカ。その近くで再生体を見失った長二郎が歯痒い表情をみせていた。
「チッ、こしゃくな真似をっ! この混乱を利用して俺たちをバラバラに分散させるのが狙いか!」
視界が拓けた川辺よりも、生い茂る森の中の方が得策と考えた末なのだろう。
――それでも再生体を追わなきゃ
トオルが茂みの中から再生体の姿を探していると
「面白そうちゃん! ワシもアイツに加勢するちゃん!」
再生体を追うように、ビヂャが嬉しそうに森の中へと飛んでいく。
「あのちっこいのが加わるとなると、面倒なことになりそうだな」と長二郎がぼやいた。
ビヂャの場合、標的としては小さすぎるため、一度森に紛れてしまうと見つけるのも困難になってしまう。力と知恵を持つ再生体と、飛び道具を所持する小人のビヂャ。その二人に対し、長二郎たちはどうやって戦うつもりなのだろう。とトオルが考えを巡らした矢先、長二郎から小瓶を投げられた。
「トオル。こいつを食っておけ」
「これは、遺伝子組み換えキャンディ」
クレアお手製のアメ玉に、トオルは親友の意図を汲んだ。
――なるほど。そういうことか
超人的パワーを備える子供と、猫の身軽な能力を得られるアメ玉。どうやら、これで身体能力を上げて闘えと言うことらしい。
――迷っている場合じゃないな
トオルはアメ玉を摘むと、包み紙を剥いて口の中に放り込んだ。すると数秒で体は幼児体系へと縮み、全身が黒い若毛で覆われた。頬に生えた髭は大気の微かな震えも感知できるほど敏感で、頭から生えた猫耳は遠方の音さえ判別することが可能となる。
――これなら闘える!
新たなる五感。その未知なる身体能力を手に入れたトオルはブカブカになった衣類を脱ぎ捨てた。もちろんトランクスを脱ぐのには抵抗あったが……全身が体毛に覆われていることも手伝って、すぐに羞恥心が消え失せた。
「トオルっ! どうだ、何か感じるか?」
数歩離れた長二郎の問いに、トオルはすぐに猫耳を研ぎ澄ました。するとどうだろうか。森の生き物を始め、地を踏みしめる再生体の足音やビヂャの羽音が耳に入ってきた。それは信じられないほど立体的で、視覚にも似た『形ある音』だった。
――電車では気づかなかったけど、保子莉さんの猫耳って、こんな風に聴こえていたのか
そのクリアな聴覚に驚きながらも、目標となる音を探し当てた。
「こっちだ! 長二郎っ!」
言うや否や、トオルは四つ脚でもって地を蹴った。再生体と決着をつけて、一刻も早くジャゲから深月を取り戻したい。そんな思いを抱え、猫の髭でもって狭い木々の間をすり抜けいく。
――近いっ!
猫耳と髭が敏感に相手の位置を感知し、急斜面を駆け登った瞬間だった。出し抜けに再生体が大木の陰から姿を現し、振り上げた『パンツァー』を猫っ子トオル目掛けて振り下ろす。だがトオルは瞬時に身をよじり、紙一重で刀をかわす。同時に再生体の頭上を飛び越え、伸ばした鋭い爪を相手の背中目掛け、袈裟懸けに振り下ろした。
致命傷を与えることができなくとも、傷を負わせることはできる。そのはずだったのだが
「甘いっ!」
再生体は背中越しに長剣を振るい、肉薄寸前でトオルの攻撃を牽制する。その鋭い刃先に、トオルは慌てて腕を引っ込め、後方に飛び跳ねて距離を置いた。
「ほぉ。あの体勢からよけるとはな」
一歩違えば『パンツァー』の餌食になっていたことだろう。しかし猫族ならではの反射神経、動体視力、身体能力の三拍子を持ち備えているのだ。そう簡単に切られるはずはない。
「大人しく諦めろ、再生体! お前は僕たちには勝てないっ!」
どんなに孤軍奮闘しようとも、こちらには親友をはじめとする強力な助っ人がいるのだ。
しかし「笑止千万っ!」と再生体が再び『パンツァー』を振るった。だが、それよりも早く猫の髭が風を捉え、トオルは無意識の内に真横の木陰へと身を隠した。が……
ザンッ!
風切り音と共に目の前の木の幹が斜めに両断され、地面に倒れた。
――な、何が起きた? まさか、風圧だけで木を切り倒したのか?
凄まじい斬撃だった。その目に見えぬ神技にトオルの背筋が凍りついた。だが再生体は喫驚し、不愉快な面持ちをしていた。
「首無しの次は猫とはな……。もっとも貴様が何に変わろうが、拙者には敵わん」
言って『パンツァー』を再度、構え直す再生体。
――あんなカマイタチみたいな攻撃を繰り返されては、いつかやられてしまう
見えざる飛び道具の対処法を模索しているところへ、厄介なのが飛んできた。
「見つけたちゃんよ!」
見上げれば銃を構えたビヂャが。
再生体ばかりに気を取られ、もうひとりの存在をすっかり失念していた。
――マズいっ! やられるっ!
正面の敵と直上の敵。だが迷っている暇はない。ビヂャの放った光線をかわし、そのままの勢いで斜面を滑落する。
「うひゃひゃ! 逃げてもムダちゃん!」
闇雲に頭上から降り注ぐ光の雨。撃ち損ねた光が一瞬にして植物を焦がしていく。同時に再生体が放つ太刀風を転がるようにして避けた。
ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!
大気を切り裂く音が唸り、猫耳の上を掠めるようにして背後の木立を切り倒していく。もし少しでもかわし損ねれば、間違いなく首と胴が離れるだろう。しかも接近戦一辺倒のトオルとは違い、相手は遠距離攻撃と接近戦が可能なのだ。圧倒的なまでに不利な状況。それを踏まえた上で、今も再生体は執拗なまでに連撃を仕掛けてくる。
ズサッ! バサッ!
次々と木々を凪倒す太刀技に葉が舞い上がる。同時に間近で激しく揺れる葉音に、頼りの猫耳の聴覚が相手を捉えられなくなっていた。それでも辛うじて再生体とビヂャの位置は掴めていたが、それも時間の問題だった。
――これでは再生体との距離感が掴めない
かと言って、肉眼で視認している暇などないのだ。勘を頼りに再生体とビヂャの攻撃から逃げ惑うトオルだったが、濡れ落ち葉に足を滑らせ、肩から地面にスライディングしてしまった。
――しまったっ!
次に太刀風を喰らえば、よけることの出来ない体勢。だが、それでもトオルは諦めることなく、四つ脚でもって湿った地面に猫爪を立てて土をかいた。
――くそっ! こんなところで、やられてたまるかっ!
同時に再生体の気配の殺気が、トオルの背中を狙っていた。
――ヤバいヤバいっ!
死に物狂いで四肢を動かす。ダメだ、間に合わない。と半ば諦めかけたときだった。
どこからともなくヒュンッ! と風音が唸った。再生体とは明らかに違う方角。一直線に再生体へと飛んでいく風。それを再生体が弾いた途端、音叉のような金属音が森中に響き渡った。
「あんまり調子に乗ってんじゃねぇぞ、再生体」
揺れる茂みから悠々と現れた長二郎に、再生体が一驚する。
「貴様、なぜ拙者と同じ技が使える?」
「お前に出来て、俺に出来ねぇことはねぇよ。あとついでに言っておくがなぁ、『ヴェルファー』は性質上、同じ剣同士ならば技の相殺もできんだよ」
初めて耳にする剣の秘密に驚きながら身を起こせば、再生体に対峙するように『ネーヴェル』を構える親友の姿が。
――長二郎も再生体と同じ技が使えるのか
ちなみに後日、聞かされた話によれば、太刀風は微妙な角度で刀を振るだけで起こるとのことだが……その真偽は長二郎本人でさえ、いまいち分かってないらしい。だが再生体は……
「つまりは拙者と貴様は互角……と言うことか」
「それはどうかな。ちなみに言っておくが、俺はお前と一対一で張り合おうって気はねぇ」
全員でお前をブッ潰してやるから覚悟しろ。と『ネーヴェル』を向ける長二郎に、再生体が眉根をひそめた。
「貴様、それだけの腕を持っていながら、剣士としての誇りはないのか?」
「誇りだぁ? そんなモン抱えてまで闘う理由なんかあるわけねぇだろ。要は勝てりゃあいいんだよ、勝てりゃあ」
チンピラまがいのセリフを吐き捨てて、ほくそ笑む親友。そして頭上ではビヂャがエテルカの攻撃から逃げ惑っていた。
シュポッ! シュポッ!
オモチャのような二丁拳銃でもって追いかけ回すエテルカに、ビヂャが言い放つ。
「この森林フィールドでは、お前の腕をもってしてもワシに当てることなどできないちゃんよ!」
生い茂る枝葉を縫うようにして飛び回られては、狙い撃つのは至難の技だろう。しかし……
「それなら貴方の体力を消耗させるまで。ゆえに力尽きた時が貴方の最後です」
セオリーどおりの作戦を口にし、エテルカがビヂャの羽根を休ませることなく撃ち続ける。その一方で『ネーヴェル』でもって再生体の相手をする長二郎。再生体の横一文字切りを『ネーヴェル』でもって受け流しつつ、カウンターを狙って乱撃していく。型にとらわれない意表を突く剣捌き。再生体が『力』とするならば、長二郎は『技』そのものだった。
「小賢しい真似をっ!」
曲芸師のような太刀回りに、再生体も剣速を上げて応戦する。
「真剣振り回しておきながら、何言ってやがる!」
長二郎はそう言い放つや否や、今度は剣を左手に持ち、上段から神速のごとく剣を振り下ろした。
「甘いっ!」
ガキンッ! と再生体に弾き返された。……が、その反動のまま柄をクルリと持ち返し、今度はすくい上げるように下段から剣撃を喰らわす。
「そんなふざけた剣技で、拙者が惑わされると思うな!」
言って難なくかわす再生体。だが次の瞬間、長二郎は相手の横っ腹へと渾身の回し蹴りを放ち、再生体を吹っ飛ばした。
「クッ!」
夕べの雨の影響により足を滑らし、姿勢を崩す再生体。その隙に長二郎は足元に落ちていた棒切れを足のつま先でもってすくい上げると、剣をスイングさせて棒切れをあらぬ方向へと打ち放った。弾かれたそれらはまるでブーメランの如く唸りを上げ……枝から枝へ飛び移っていたビヂャの後頭部に直撃した。
「痛いちゃんっ!」
頭を摩りながら姿を現した小人に、長二郎が叫んだ。
「エテルカッ!」
「了知っ!」とエテルカは神業のような射撃でビヂャの小さな銃を撃ち砕く。その阿吽の呼吸息もさることながら……いや、それ以前に親友の動きの速さに驚いた。もし猫っ子ではなく、生身の動体視力だったならば、おそらく今までの一連の動作はほとんど見極められなかっただろう。と、そこへ……
「トオルっ! ボーッとしてないで手を貸せっ!」
その疾呼に、トオルは気合いを入れ直す。
――再生体を倒さなきゃ!
再生体との距離はザッと20メートルほど。トオルは足下に転がっていたバレーボール大ほどの岩を片手で持ち上げると、再生体目掛けてブン投げた。クレハ星人ならではの怪力剛速球だ。いくら再生体と言えどもよける余裕はないだろう。だが次の瞬間、大岩は意図も簡単に切り裂かれ、再生体の両脇でゴトンっと岩塊が転がった。断面を見れば、鏡面加工されたように真っ平らになっていた。もしあの剣で首を刎ねられでもすれば、きっと痛みを知らぬまま、あの世行きとなるだろう。……と、そこへ背中から甲走る声が。
「そこの猫っ子! 私の足掛けになりなさいっ!」
振り向けば突っ走ってくるエテルカの姿が。
――足掛けっ? エテルカさんを飛ばせばいいのか?
彼女の意を酌んで、トオルがバレーボールのレシーブ態勢を作って見せた途端、エテルカが組んだ手の上に足を掛けた。そして再生体目掛けて一気に彼女を跳ね上げる。咄嗟の連携プレイ。狙い通り、エテルカは空中でクルリと回転し、二丁拳銃を再生体に向けた。
「これで終わりですっ!」
だが再生体は逃げるどころか、上空のエテルカに向かって『パンツァー』をグイッと振りかぶっていた。
――あの構えは……まさか? カマイタチ!
「ダメだっ! エテルカさんっ!」
と同時に
「させっかよっ!」と太刀風を放とうとする再生体に剣を叩き込む長二郎。いきなり射線上に立った長二郎に、エテルカは引き金を引くことなく、そのまま地に足を着けて後退する。
――僕が長二郎と連携して闘うしかない!
遠距離射撃のエテルカでは同士討ちの確率が高くなる。それよりも接近戦を得意とする自分のほうが長二郎との相性が良いはず。トオルは駿足を奮うと、再生体の横に回り込んで猫爪を袈裟懸けに振り下ろした。……が、再生体は長二郎の剣を弾き返すと、すぐにトオルめがけて刀を振り下ろす。
――クソッ! 動きが早すぎて迂闊に近寄れやしない!
猫の跳躍力を活かし、ギリギリのところで見切る。しかし、それが大きな間違いだった。次の瞬間、再生体の太い足が目の前に突き出されていた。
「くっ!」
気づけば……強力な蹴りを胸に喰らい、数メートル後ろの巨木に叩きつけられていた。
「ぐはっ!」
ドンッという強い衝撃が背中から胸へと貫く。同時に意識が途切れ、目の前が真っ暗になった。視界が元に戻った時には地に倒れていた。
ほんの数秒だけ失った意識。
その空白の時間を埋めるように、すぐに起き上がろうとした。……が四つん這いのまま体が動かなかった。手足が小刻みに震え、しかも乱れる呼吸のせいで思うように息が吸えない。
「……ハッ、ハッ、ハッ」
まったく空気が吸い込めず、浅い息づかいだけが耳に入ってくる。
――いったい、何がどうなってるんだ?
腹部の激痛に気持ちが悪くなっていき、意識を保つのが精一杯だった。
――まさか、内臓が出血してるのか?
小さな体を小刻みに震わせながら、湿った地面に爪を立てて懸命に呼吸を整える。だが止むことのない痛みが集中力を欠いていく。
――早く、早く立ち上がらなきゃ……再生体に殺される……
しかし焦るだけで、顔を上げることすらままならなかった。
「どうした、トオルっ!」
遠退く意識の中で、ガキンッと鍔迫り合う音が聞こえた。きっと長二郎が再生体を抑えているのだろう。
――ちょっとだけ……ちょっとだけ待って……長二郎……
呼吸困難の中、首を横に振って応えるだけが精一杯だった。するとクレアが駆けつけ、診断するや否や悲鳴を上げた。
「大変ですぅ! 肋骨が折れてますですよぉ!」
――骨が折れてるだって
生まれて初めての骨折。しかも肋骨とは。
「とりあえず焦らずぅ、まずは落ち着きましょう。息を吸おうとしないでぇ、全ての息を吐き出すですぅ。そうすれば自然と呼吸ができるようになりますですよぉ」
トオルは言われたとおり、気持ちを落ち着かせて呼吸することに集中した。
――漫画とかで肋骨が二、三本折れただけだって苦笑うシーンとかあるけれど……そんな余裕なんか、ありゃしないじゃないか……
脂汗か冷や汗も分からない大汗が吹き出し、押しつぶすような激痛が胸元を巡っているのだ。声など出せるはずもない。そして一呼吸ができるようになった時、新鮮な酸素が肺に流れ込んできた。
――息が吸えるようになった!
冷えた空気が肺を満たし、ようやく顔を上げられるようになった。まだ息は荒いが立ち上がるくらいのことはできそうだ。
――早く……早く、再生体を取り押さえないと……
クレアの補助の手を払い、動き始めた四肢に力を入れた。
「まだ動いちゃダメですよぉ、トオルさまぁ!」
「本当に……本当にもう大丈夫……」
再生体と闘い続ける親友とエテルカ。自分も早く加勢しなければと焦っていた。とりあえず呼吸もできるようになり、これで動けると片足を立てた瞬間
「クッ!」
脇腹に激痛が走り、また呼吸が乱れた。
「寝返りするだけでも痛いんですからぁ、強がってはいけませんですよぉ」
そう言って脇腹を中心に端末機をかざすクレア。いわゆる端末治療だ。その宇宙医療により、次第に痛みが引いていく。
「時間がないのでぇ、あくまでも痛み止め処置だけにしましたですぅ。なのでぇ、あまり無理はしないでくださいねぇ」
「ありがとう、クレア。助かったよ」
同時に猫っ子の能力を過信していたことを猛省した。
――上手く立ち回らなければ、今度こそ本当に死ぬ
『ネーヴェル』で闘う長二郎と、援護射撃を繰り返すエテルカ。
トオルはその二人の動きを見極め、再び再生体に闘いを挑んだ





