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モブですらない令嬢は、推しスチルを最前列で拝みたい! 〜ヒロインでも悪役令嬢でもない私のイベント鑑賞計画〜  作者: キモウサ


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第十二話:推し活は情報戦です!

 「わぁ! 今日もいい天気ねぇ! 気持ちいいー!」


 「ご機嫌だな」

 


 ヴァンが差し出した手を借りて、馬車を降りる。


 いつもは侍女のエルザが付き添ってくれるのだけど、お母様のお化粧係として彼女が必要になったため、しばらくはヴァンが代わりに付き添ってくれることになったのだ。


 不審げな目を向けるヴァンを見ても、思わず笑みがこぼれるほど、私は上機嫌だ。

 

 「まあね……うふふ」


 御者の隣に座っていたヴァンは知らないだろうけれど、私は馬車の中でにやにやが止まらなかった。

 


 「今日から私の学院生活が始まるのよ! 楽しみだわぁ」


 「いや、入学式は昨日だっただろ?」



 違う、違うのだよ。ヴァン君。


 最前列で乙女ゲーム『君のハートは誰のもの?』――通称『君ハー』のイベントとスチルを見るという、私の夢の生活は今日から始まるのだ。


 まず、悪役令嬢のエレオノーラ様の取り巻きの一員になれた。


 これでエレオノーラ様関係のイベントを、見逃すことなく最前列で見物できる。


 そして、昨日はヒロインのアデルを学校へ通わせることに、ひとまず成功した。


 アデルの中の人が、ちょっと気弱なのは気になるけど、ヒロインが学校に来ないことにはストーリーが始まらない。


 とにかく舞台は整ったのだ。


 途中で従者の待機室へ行くヴァンと別れて、ウキウキしながら教室へと入る。

 


 「エレオノーラ様、おはようございます!」


 「あら、コレット。おはよう。なんだか楽しそうね?」

 


 にっこりと微笑んでくださるエレオノーラ様は、今日も眩しいほどに美しい!

 

 赤みの強い栗色のドリル髪もきっちり巻かれていて隙がない。


 悪役令嬢は、こうじゃなくっちゃ!

 


 「コレット様、あの……焼き菓子を屋敷の料理長に頼んで作ってもらいましたの。お昼にでもお味見してくださいます?」

 


 そんな可愛いことを言ってくれるのは、エレオノーラ様のガーデンパーティで会ったリディア・フォンテーヌ伯爵令嬢だ。


 リディア様はガーデンパーティで、エレオノーラ様と対立するヴァルモント公爵夫人に難癖をつけられ、頭から熱湯をかけられそうになった。


 そのときに私がヴァルモント公爵夫人に林檎を投げつけたことを見ていたそうで、とても感謝してくれた。

 

 実は後で、フォンテーヌ伯爵家からお父様に御礼状が届いたくらいだ。


 そういう経緯もあって、リディア様は私にとても良くしてくれている。


 他の取り巻き令嬢も、悪役令嬢の取り巻きだから、もっと怖い令嬢軍団なのかと思っていた。


 でも皆、とても感じのいい、上品なご令嬢ばかり。私は子爵家で、彼女たちより家格が低いというのに、誰も嫌な態度をとらない。


 そしてなにより、意外だったのはエレオノーラ様だ。


 外見だけ見ると、高慢な貴族令嬢に見える。


 でも実際は、とても面倒見がよくて、困っている子を放っておけなくて、しかも褒めると少しだけ照れる。


 つまり、ツンデレ気味。


 美人さんがちょっと顔をそらして、照れている表情を隠そうとするなんて可愛すぎる!


 そんな感じで、前世で病院暮らしだった私にとって、実質、初めての学校生活は楽しくて仕方なかった。


 同じクラスに、攻略対象のユリウス王太子殿下や、その側近の令息たちがいるのも、目の保養になる。

 


 「はあ、イベントやスチルのシーンを見るのが楽しみだわぁ!」

 


 ヒロインのアデルが推し活を始めれば、ストーリーも動き出す。そう思って待っていたのだけれど……。

 


 「全然、始まらないけど、どうなってんの?」

 


 いつまで待っても、なにも起こらなかったのだ。

 


 +++

 


 「絶対、おかしい……」


 もう、学校が始まってから十日ほど経っている。


 それなのに、ゲームのストーリーが始まらない。それにアデルが私の教室に来たのが、たった一回だけというのも変なのだ。


 私はユリウス王太子殿下と同じクラス。


 マルシェ男爵家にお邪魔してアデルをヒロインに変身させたあと、「絶対、推しのユリウスを見に行きますぅ!」と言っていたのに。


 最初は、知り合いである私へ挨拶に来たふりをして、ユリウス殿下を見に来た。


 そのときは、顔を赤らめて「やっぱり、カッコいいですぅ」とか言っていたのに、それっきりだ。


 毎日、来るかと思っていたのに、なんだか拍子抜け。


 ユリウス殿下以外の攻略対象と交流しているのかといえば、それもない。

 

 ユリウス王太子殿下に、宰相令息、騎士団長令息、王立学術院長官令息。

 みんな、私と同じクラスなので、動向が掴みやすいのだ。


 とにかく、この四人はいつもつるんでいて、授業の合間の休憩は教室内で過ごし、お昼は王太子専用の部屋で一緒にランチ。


 放課後はすぐに学校を出て、どこかへ遊びに行っているようだ。


 つまり、アデルが攻略対象に会ってる時間はないってわけ。

 


 「もー、スチルどころか、イベントの匂いすらしないわぁ……」

 


 最後に男爵家でアデルと会った時、彼女は「イベントやスチルを見たい。攻略対象を近くで見るんだ」と意気込んでいた。


 もちろん、気が変わったのかもしれない。


 ゲームの世界を楽しむより、現実の世界として、新しい友達と仲良くなりたいという気持ちになったとしてもおかしくない。


 私は、それを否定する気持ちはない。

 アデルは、アデルらしく楽しい毎日を過ごして欲しいと思っている。


 でも、アデルがイベントを起こすつもりがないとなると、イベントを見たい私としては、他の動きをしないと駄目だろう。


 

 「まずは、アデルの気持ちを確認よね?」



 そう思った私は、昼休みにアデルのクラスを見に行くことにした。

 


 +++



 「……楽しそうね」


 そこにいたアデルは、同級生らしい令嬢たち数人に囲まれて、楽しげにランチをしていた。


 焼きたての小さなパンを手に、ふわふわ笑いながら会話に加わっている。


 顔色も悪くないし、髪も綺麗に整っている。制服もきちんと着こなせている。


 うん、クラスにすごく馴染んでいる。

 新しいお友達もできたみたいだ。

 

 それは良いことなんだけど――。


 「……イベント、どうするんだろう」


 「コレットお嬢様、私がアデル様に声をかけてまいります」



 後ろに控えていたエルザが、悲痛な面持ちでアデルに近づいていった。


 あー。私が友達を失った……とか思ってるんだろうね。

 

 せっかく、アデルと仲良くなったのに、アデルは同じクラスで他の友達を見つけてしまった。

 そんな風に思ってるんだろう。


 エルザが話しかけると、アデルはパッと顔を明るくして、振り返って私を見た。


 笑顔がやっぱり可愛い!周囲の視線がアデルに集まる。

 

 アデルは視線に気づかないようで、そのまま私のほうに来る。


 んー、令嬢としてのマナーがまったくなってないけど、それは後でお説教するとして、今は他に聞くことがある。


 

 「コレットさまー!お会いしたかったですー!」



 令嬢にあるまじき大きな声で挨拶をしてくるアデル。

 さりげなく、教室の端っこに連れて行く。


 

 「アデル様、ご機嫌よう。学院での生活はいかがかしら?」


 「はい、とても楽しいです!お友達もできました!今も皆でお昼ご飯を一緒にとってました」



 嬉しそうに話すアデルを見て、少しほっとする。


 前に見た、あのぼろぼろの姿を覚えているから、変化の大きさを感じる。

 


 「ねえ、アデル様。楽しそうで安心致しましたわ。ところで、最近、ユリウス殿下のお姿をお見かけになりました?」



 そう聞いた瞬間、アデルの笑顔がぴたりと止まった。



 「そ、それが……」

 「うん」



 私も思わず、真顔で返事してしまう。



 「どうやって、その、そういった方たちに声をかけたらいいのか、分からなくて……」



 あー、なるほど。

 私と同じところで引っかかっているというわけか。


 王太子殿下や高位貴族の令息に、何の用事もないのに話しかけるなんて、普通に考えたら無理なのだ。


 彼らの予定すら分からないしね。


 しかもアデルは元平民だ。

 まだ貴族社会に慣れていない。


 友達を作って、一緒にランチできるようになっただけでも、かなり頑張っているといえる。


 ただ、彼女はヒロインだ。

 全てのイベントは、ヒロインがいる場所で起こる。


 イベントが起こる場所や時期は、だいたい分かっている。

 アデルがその場所に行けば発生するんじゃないかな。

 

 なぜ、イベントが起こる場所に行かないんだろう?

 


 「アデル様なら、物語の場面が起こる場所に行けば、お目当ての方に会えるはずですわ」

 


 アデルは申し訳なさそうに視線を落とす。



 「実はイベントのこと、あんまり覚えていないんです。ヒロインとして頑張りたいとは思うのですが……」



 その言葉に、私は少しだけ考え込んだ。


 つい最近、転生したことを知ったというアデルは、前世の記憶が私より薄い。

 『君ハー』のことも、私より覚えていないのだろう。


 それならば――。



 「アデル様、放課後、談話室にいらしてください。私がしっかりサポートいたしますわ!」



 ヒロインよりヒロインのことを知っている、このコレットにおまかせあれ。



 +++



 「コレットお嬢様。その時間、騎士団長令息様はお一人で、剣の特別授業を受けられているはずですわ」


 「あら、そうなの? じゃあ、この日の昼休みに……誰かと出会えないかしら?」



 侍女のエルザが小さな手帳を、手元でぺらぺらとめくる。

 


 「その時間でしたら、ユリウス殿下がお一人で過ごされる可能性がございます。殿下の日頃の行動を考えますと、中庭あたりが狙い目ですね」

 


 そう言い切って、にっこりと微笑むエルザ。


 放課後の談話室で、私はゲームの中で起きたイベントを時系列で整理しようとしていた。


 そしたら、エルザがガンガン指摘をしてくれたのだ。

 

 

 「その日は毎月、ユリウス殿下の公務があります」


 「宰相令息は三日に一度の割合で、放課後に一人で図書館へ調べ物をしに行かれます」

 


 そんな貴重な情報を教えてくれた。

 


 「エルザさん、凄いです!まるで腕利きスパイみたい!」

 


 パチパチと拍手するアデルに、エルザは少し照れたように笑う。

 


 「スパイがなにかは存ぜませんが、お褒めいただき嬉しく思います。ですが、このような情報は他の従者も知っております。待機室でよく話されていますから」



 最初はエルザに聞かれないようにやっていたイベント日程の書き起こし。


 もう、途中からエルザに参加してもらうことにしたのだ。


 エルザには、実在の人物を参考にしたお芝居の脚本を、アデルと書くつもりだと説明してある。

 

 この世界にない試みのようで、エルザはやる気満々になっている。



 「できた!すごいわ!こんなにちゃんとしたイベント日程表ができるなんて」

 

 「エルザさんのおかげです!とても分かりやすいです」


 

 エルザのおかげで、攻略対象の行動がかなり分かり、イベント日程表をつくることができた。


 これを利用すれば、アデルは自分が起こしたいイベントを選べると思う。

 

 アデルの推しキャラは、ユリウス殿下だ。

 となると――。

 

 

 「次は……中庭ね」


 

 時期的に起きてもおかしくない、中庭でのユリウス王太子イベント。


 木に登って降りられなくなった子猫を、ヒロインとユリウスで助けるイベントだ。


 今度こそ、本物のイベントとスチルを、目の前で見学できそう。


 ……できるよね?


 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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