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私、ニセモノ令嬢から帝国皇子の愛され侍女になったようです  作者: 奏多


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46 雨宿りが必要になりました

申告他もろもろでお休みしてましたが、ちょろちょろ再開いたします

本日「薬で幼くなったおかげで冷酷公爵様に拾われました」コミック4巻発売です

 敵がいなくなるまで、二時間ほどかかった。

 行ったりきたりと何度も、傭兵達は丹念に私達がいる周辺を往復していたのだ。

 藪に分け入ってまでしつこく確認し続けていたんだけど、一人残らず殲滅するように言われてたのかな?


 日が陰り風が温度を下げる頃になって、ようやく街道を進んだまま戻ってこなくなった。

 敵も仲間達と情報交換をするため、合流地点を決めているのだろう。

 どこで見かけたかを情報交換して、また違う場所を探すか、ここを探しに戻るのかもしれない。


(トール達は無事に逃げ切ったのかな……)


 そんな事を考えつつ、私はレゼクと共に馬を走らせる。

 私達は傭兵達が去って行った街道を避け、山間の道へ向かっていた。

 最初こそ、風と馬の蹴り出す土で私達の後ろには土煙が上がっていたが、やがて小雨が降り出した。

 土を舞い上げていた山道がぬかるみはじめる。


「この先に村や人家はあったでしょうか……」


 私は寒気で身震いしつつ、外套のフードを被った。

 本当は地図を出して確認したいが、濡れて使い物にならなくなっては困るので出来ない。

 そして昨晩も地図を見たはずなのだが、頭がぼんやりして上手く思い出せないのだ。


「もうしばらく馬を走らせればありそうだ。この山間を抜けた向う側だな」


 レゼクがきっちり記憶していた事に感心する。

 この皇子様、けっこう記憶力がいいよなと思いながら、私は黙々と先行するレゼクについていく。


 雨脚は少しずつ強くなっていった。

 そのうちに外套にも水が染み込んできて、寒い。

 村についたら、まずは屋根のある場所を探さないと。


 でも、宿という物自体がそんなにポピュラーな存在ではない。

 町ぐらいの規模なら、行商人が泊まれる場所もあると思うけど、村だったら無理だろう。

 民家の軒先か納屋を借りることになる。


 そういえば、納屋で眠るのは何年ぶりかな。

 寒さに前傾姿勢になりつつ、昔のことを思い出す。

 両親がまだいた頃、怒って納屋に閉じこもった時以来だろうか。

 

 懐かしいなと思いつつ、身ぶるいする。

 体がだるくなって、鞍にどっかりと座ってしまう。


 馬も乗っている人間が走る体勢ではないのを感じてか、速度をゆるめた。

 ちょっと休みたい。

 そう思って馬首に頬をつけて抱きつく。馬の首はつやつやしているけれど、毛は固い。

 そして雨に濡れて冷たい。


 ――寒い。


 馬が揺れなくなる。

 ぼんやりとその変化を感じながら、もう平坦な道に出たのだろうかと目をとじたまま考えた。


「おい、リリ!」


 呼ばれ、私はハッと目を覚ました。

 急いで起き上がろうとするが、体がだるくて瞼が重い。

 揺れないと思ったら、馬も異変を感じて立ち止まっていたらしい。


「すみません、すぐ起きます」


 謝り、馬を歩かせようとした。

 が、その腰を掴まれて抱き上げられる。

 あっという間にレゼクの馬に乗せられて、一体どうしたのかと首をかしげた。


 自分で馬を走らせるからと、断る暇すらなかった。

 呆然としていると、レゼクが馬を進め始める。


「落ちないように掴んでろ」


 レゼクに言われるがまま、私は自分を抱える彼の左腕に捕まる。

 寒さでかじかんだように、手にうまく力が入らない。

 それでも必死に掴んでいると、レゼクが私を抱え直してくれた。


 包み込まれるような温かさ。

 ほっとして、それからあらためて自分の状況に恥ずかしくなって、ついうつむいた。

 こんな風に守るように抱え込まれる状況になるのは、父親の馬に乗せてもらった時以来だ。

 子供みたいで恥ずかしい。

 かといって、今は支えてもらわないと本当に落馬しそうだったので、大人しくする。


 ややあってこの状況に慣れてきた頃、レゼクがぽつりと言った。


「口を押さえた時に、少し熱いような気はしていた。病み上がりで無理をしたか?」


「無理をしたつもりはなかったんです……雨に濡れたせいで、ぶり返したのかもしれません」


 思えば出発時も雨に降られたのだった。

 その後も少しは休息したものの、衣服も多少生乾きの上、馬を走らせたりと風にあたってばかりいた。

 風邪が治りきらないうちに、体を冷やしたせいで悪化したのだろう。

 なんとなくそうは思うのだが、きちんと説明するには、なんだか口が上手く回らない。


「すみません、足手まといに……」


 なんとか謝ると、レゼクは気にするなと言った。


「これだけ降っていては、敵も動けない。休むのならいまのうちだ」


 ずいぶん優しいことを言ってくれる。

 見上げるとレゼクにも雨は降り注ぎ、金の髪を色濃く変え、顎先を伝って私の肩におちてくる。


 やがて私達は、小さな村にたどりついた。

 夕餉の支度をはじめているのか、家々からは細い煙が上っていて、なんだかのどかだ。

 でも雨風が強くなってきているから、外を歩いている人間はいない。


 レゼクは見回したうえで、ある一軒の家に近づく。

 村の端の方にある家だ。それほど大きな家ではないが、馬を飼っているのか厩舎が横にある。


 そういえば自分の馬はどうなったんだろう。

 自分の馬のことをすっかり忘れていた。視線をめぐらせると、レゼクの馬の斜め後ろから、大人しくついてきていてほっとする。


 レゼクは家の近くに来て耳を澄ませていた。


「聞こえるんですか?」


「ああ、多少は」


 聖女の騎士というのは耳がいいらしい。

 そしてよしと判定したらしく、馬から降りた。

 私も抱きかかえるように下ろしてもらう。しかも抱えたまま、レゼクは家の扉を叩こうとしていた。


「え、あの、重いでしょうから……」


 これから見知らぬ人に泊めてもらえるよう交渉するのだ。荷物があっては邪魔だろう。


「この方が切羽詰まってる印象を与えるし、男一人より女がいた方が相手も気がゆるむはずだ」


 交渉のための材料として、いかにも難儀していることを見せつけたいらしい。

 そうまでして交渉を迅速に進めようとしているのは、私のためでもあると思うと、申し訳なくなる。

 なので、大人しくお任せすることにした。

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