8.ご存知ですか
薄暗い夜でありながらも、昼のように明るい部屋の中にいる男が二人。
声を潜めながら話をする男と服装は平民と比べるまでもなく煌びやかな服装に身をつつんだ。赤髪の男。
「聞きましたか、今年に入ったライト学園の特異クラスになにやら類を見ない、存在がいる。そんな噂を」
「聞いたが、それがなんだというのだ。今話すようなことでもあるまい」
二人が先ほどまで話していたのは国に関するもの。それを、一市民である人間の話を割り込ませるのはおかしいと至極真っ当な意見である。
「いえね、魔法の威力が個人のそれではない。さらに、魔力枯渇も起きない。そして・・・原初魔法」
「を一度で成功させた...か。他国の人間ではあるまいに、優秀な人物の噂で片づけて問題ないのではないのか」
「私がこの目で見たのです。あれは、個人の範疇を超えています。それどころか、まだ魔法を覚えて一年すら経っていないのです。もしあれが、国に牙をむく。それだけならまだしも、他国に利用されるようなことがあればとんでもないことになりかねないと考えます」
「それほどか⁉であれば国の管理下にいれるべきかもしれんが、ライト学園にいるのであったな。いや...尚更問題なさそうに聞こえるが」
「いえ、いずれ国の要になる可能性も考えられるので常に監視下における場所。城での教育に切り替えるべきでしょう。指導者には騎士団長をつけて補佐を何人かつければ万全でしょう」
「あの子か影響を受けて過激になるのではないか?それに、儂の弟も学園にいる。安心しているのだがな」
「さすがに生徒の人数が多すぎます。クラス管理できているのは一教師だけでしょう。未来のことを考えればこの国で一番優秀な者をつけて育てるべきと具申いたします」
「それに、急がねば少年の身に危険が迫る可能性がある情報も耳にしております。正式に招くと時間がかかってしまうので、多少強引に明日にでも城に来て頂いた方が良いでしょう」
「・・・・・そうか。わかった。任せよう」
「ハッ!」
言葉を置き去りに部屋を出ていく男。
そのまま、扉を護衛していた三人、そのうち一人の騎士と一緒に長い廊下を歩いていく。
しばらく無言の時間が流れて、内容が決まったのか部屋から出てきた男が口を開く。
「明日はライト学園のユイト少年を城に連れてきてくれるよう指示しておいてください」
「わかりました。余程の事態ということですね」
「そうですね。いずれ国か....................危険........」
ゆっくりとその場を離れた。部屋からでてきた男。
騎士は思考を巡らせる。城に招くのではなく連れてくる。さらに、国、危険と来た。つまりは、罪人。しかも、城の地下牢は極悪人もしくは、貴族だが・・・。今回は、平民だろう。他国の間者が入り込んだのを掴み逃げられる前にということか...?しかし、少年。だからこそなのか?....。とりあえず、連れてくれば問題はないだろう。
あの人は、言葉が少なくて困る。優秀であるのは間違いないが。明日すぐにということは準備も急がねばならない。個人だ。武力はそこまでは必要ないだろう。
命令を受け取った騎士が、廊下を移動しながら城の護衛をしている別の騎士達に声を張り上げて伝える。
「ライト学園在籍!ユイトという少年の身柄を連行するぞ!準備しておけ!明朝だ!」
「「ハッ」」
――その場に盗み聞きしている少女がいることに気づかずに
え⁉私がユイトのことを話したせい⁉捕まっちゃうの!?ど、どうしよう・・・・。
関わりのある友人なのだ。
時間はある。今からお父様に話してなんとか...。無理だ。城の騎士が動くということは父の命令だろう。父は国のためであればどんなことをしてもおかしいと思わない。であれば、私がなにを言った所で無駄どころか反対すれば知らせることもできなくなってしまう。
――まずは近づかないと
話はそれからだ。扉を開けて。部屋の近くの廊下をうろうろと護衛していた騎士の横を通り過ぎる。
「どこに行かれるのですか?」
「城を歩くだけよー!」
これなら大丈夫。城とは要塞であり一つの部屋である。城に侵入できるような者がいるならば、城のどこに居ようとも関係ないのだ。城の中にさえ居るのであれば、まあ....問題ない。城の住人が危険であろうと夜とはいえ皆が動き回っている場所なのだ。誰にも見つからずに犯行に及ぶなど難しい。
だが、
――私なら出れる。
城を知り尽くしているお父様よりは劣るだろうが、かなり知っているはずだ。隠れた道、脱出口、秘密基地、人があまり通らない道。それらを駆使して、外に出る。
第四王女として産まれたルキ・ストライト。男の子なら過去の英雄ルーキンス、女の子であってもそれにちなんだ名前にする予定であった。そして、特異体質が判明する。
わからない、両親よりも身近な人たちの残念な目線。惜しむような目を向けられていたのか、意味がわからなかった。
この国で昔は特異体質は異常な力とされ、狂っている。異常体質。悪魔。そんな呼ばれ方をしていたらしい。だが、時は流れ当時の王様の息子に発現する。その息子こそが、初代ストライト。歴史的偉人。この国にとっては最高の王と名高い名君とされている。国を革新的に変え名前も変えすべてを変えたとされている。だからこそ、特異体質と改名されたのだ。この国の言葉で特異とは優れていること。劣っているとされ、恐れられていた力を我が物にした王。
だから、王には特異体質が望ましいのだ。だが、男児の特異体質が産まれなかった。その時に産まれた王女こそが、ルキ・ストライト。
本人は知らない。皆が気をつけていた。男であればという言葉。
皆は知らない。皆が向けてくる目線。その目に不安を覚え続けた少女の気持ちを。
他の王女にもいるのだ。特異体質は、だがそろそろと。そろそろ産まれて欲しい。そんな気持ちが高まっていた時だっただけなのだ。
外に出て学園の方向に向かって走るルキ。そんな毎日を過ごしていたからこそ。学園の居心地の良さは言うまでもなかった。特に、ユイトは何も知らない。それを知った時に人生で初めて完全に打ち解けたと思えたのだ。
国より友を選ぼう。――どっちにしても、王様にはなれなかったわね。
微笑みを浮かべて。
クロイトが学園からの帰り道。脳内に声が届く。
――クロイト先生⁉ユイトが騎士団に拘束されることになったわ‼どうしましょう‼‼
「なんですって⁉」
頭をフル回転させながら考える。たしかに、外からあまりに有用に見えるかもしれませんが・・・。
あれは、本人を犠牲にしている力だというのに...。学園にいる間は大丈夫だと確信していた。卒業している時に国に仕えるのであれば自身の意志で決めれる。強制であれば、私が助力してどうにかと思っていたのにこれでは・・・。
「わかりました。任せてください」
――ごめんなさい。それと、そちらの声は聞こえないの。だけど、なんとなく気持ちは伝わってくるの。任せますわ.....!!
ルキは他にも特異な力で伝え始める。
さっそく、クロイトは寮に走り出す。
――まず、ユイトさんに伝えなければ...!それから....