9.これ・・・また、出るの
なにやら騒がしい。
ユイトは閉じていた目を開ける。
扉を誰かが叩きながらなにかを話している。起きたては耳が聞こえずらい。目も見えずらい。一体なんだというのだろう。明日で良いのでは。
起きるのが面倒で嫌なせいか夜の悪人であれば、わざわざ扉を開けない方がいいのではないかと起きなくて済む方向に考えがシフトしていく、重要であれば明日また改めて伝えてくれるのだろう。そう思う。そうに違いないのだ。
「ユイトー。僕だよー」
聞き覚えのある声だ。悪人ではなさそうなのを残念に思いながら・・・
眠る。
「開けてよー扉壊すよ。寝れなくなるよ」
ぐっ。仕方ない。開けるしかない。はずだ。
観念して、寝具から身体を起こす。茶色っぽい布服を上下に着ている姿のまま扉の方に歩いていく。
扉の前に立ちながらも何かと格闘しながら取っ手を持ち、開ける。
「そ、そこまで嫌そうな顔しないでよ」
「大丈夫だよ」
「大丈夫そうじゃないよ。まあ、それはおいておこうよ」
「なに?」
頭を少し下げるネル。なにか謝罪することがあったのだろうかと考えているユイト。少しの間をおいて話し始める。
「なんか騎士団?がユイトを捕まえたいみたいな。だから逃げた方がいいらしい」
「え?悪いことしてないよ」
「でも逃げた方がいいっぽいよ」
そうなのか。悪いことをしなくても捕まることがあるという学びを得たのも束の間。それが、僕だというのだから。笑えない。眠たい。嫌だ。
「とりあえず、荷物があれば持っていこう。あと服も着替えた方がいいかもね」
服はこれと制服しかないんだけど。クロイトさんは買ってくれそうではあったのだが、着ない服はいらないよと断っていたのだ。必要になれば買おうとも思っていたのだが、生憎今まで必要じゃなかった。
制服に向かって歩き出し、手を伸ばそうとした時に
「あ、制服は目立つからやめた方がいいよ」
「でも、これ以外ないよ」
「行くとしようか」
自分の発した言葉を無くすように切り替えた。というか、話したことがあるような。ないような。
荷物を少しだけ皮袋にいれて、部屋を出る。どこに行けばいいんだろう。
「おっと」
ネルが立ち止まったまま、少し上を向いている。考え事だろうか。
すぐに正面を向いて歩き始めた。
脳内に何か・・・。
――ルキよ!ユイトあなた騎士団に捕まりそうだから、逃げた方がいいわよ!
聞きました。
――先生が向かってるわ!学園を出て――
脳内のルキに同じことを言われた後、
「まずは学園を出よう」
ネルにも言われる。
そうして、広い学園を出るのに時間をかけながらも苦労はなく、学園入り口までやってきた二人。そこに、クロイトが対面する。
「おぉ、今呼びに行こうとしていた所です。ルキさんから聞きましたか」
「はい」
「では・・・。西のガラード国に向かいましょう。ストライト王国も気を遣う国なので強引に追いかけることはできないでしょう。そこまで、追いかけてくるようであれば、さらに北に逃げれますし」
「いいですね。そうしようかユイト」
「はい。....ん?」
なにか違和感がなかったか?大丈夫か。
「ネルーロさんも行くんですか?!」
あ、ネルさんも来るの?
「んーはい。ついていきます。心配ですし」
「いや、しかし...」
教師として考えなければいけないことがたくさんある。家族は?この子の将来は?どうするべきか。考えながらもあくまで一教師。時間もどれくらいあるのか正確にはわからない現在。生徒の決めたことを後押しすることにした。
「わかりました。急ぎましょう」
東の空がほんの少し明るくなり始めた頃。学園に向かって団体が歩いてくるのが見える。まだまだ、暗いがそれでも、相手からも見えてしまった。
「...!逃げてください」
「!?そこの者達!止まりなさい!」
ネルを先頭にユイトがその後ろを追いかけて離れて行く。騎士達はそれを追いかける。それを、クロイトは一人で止める。
「貴様は!わかっているのか!この学園の教師だろう!なぜ、我々の邪魔をする!」
「教師ですが、治癒魔法士でもあります。傷をつけるのを見過ごすわけには――」
「教師とはいえ、この人数勝てるとは思ってないだろうな。わかりきったことで無駄に傷を負う必要はないだろう!!」
「たしかに、ですが・・・まだまだ暗い」
「?即刻道を開けなさい!」
片方の眼鏡を懐にしまいながら言う。
「暗闇で私に簡単に勝てるとは思わない方がいい。かなり眼が良いので」
「仕方ない!あいつは治癒魔法士だ!致命傷でなければ構わない!」
その言葉を合図に戦闘が始まる。光を放ち。水を飛ばす。それらに紛れて。不可視の魔力がクロイトに迫っている。
すべてを弾く、避ける。当たらない。
「ど、どういうことだ・・・!なぜ、当たらない」
騎士団の基本の戦い方だ。攻撃魔法を放ち。それらを囮にしながら、不可視の原初魔法で相手のバランスを崩す。その間に攻撃魔法で追い打ちをかける。対個人において必勝パターン。知っているのならば、大きく回避して避ける。それを、最小限に近い動きで防いで避けて見せている。――ありえない。
「時間稼ぎに十分な人材でしょう?こちらも攻撃させてもいますよ!」
勇ましいことを言ったところで、実はそこまで優勢ではない。相手を倒さなければ終わりはない。時間を稼がねばならない。なのに、時間はクロイトの敵となっている現状。ユイトについていくのは不可能だと見切りをつけた瞬間であった。
――心配な部分がまだまだ多い少年。あーどうか世界よ。私はもういい...
観念。諦念。嫉妬。それらは含まれていた。それでも、これまでの人への感謝を前に押し出し願う。
――良い人に出会うように。綺麗な世界を見れるように。生きやすいように好きに生きて欲しい。
そうだ、そうだった。生きやすくあってほしい。クロイトの世界への願いはたったそれだけだった。だから、ユイトにこそそうあってほしいと思ってしまった。――我儘でしたね...。




