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未定世界の知り方を  作者: むち神
第四章 【死角の動き】
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72.鈍器

 すぐさま、振り返り同じ人物を探しに走り出す。お金を作りに来たのに盗られるなんて最悪すぎる。ネルやマロイトにも申し訳ない。


――どこにいったんだ!?


 人の気配はある。だけど、どれが誰かなんてのはわからない。同じような背丈の人物を手当たり次第に視認して判別していくが、見つからない。

 背丈だけではなく。持ち物の形状も判別できるようであれば、なるべく見分けながら探すがそれでも見当たらない。あまり時間も経っていないのだ。そこまで遠くには行ってはいないはずなのだ。


――どこに・・・相手も走ったとして、このぐらいが限度だよね・・・


 路地に座り込んだおじさん、歩いているおじいさん、早歩きで走っているお兄さん。

 財布を取ったのが若めの男だということは、はっきりとわかっている。お兄さんを追いかけて顔を覗こうと近づいていく時・・・。


 これはもはや、勘としか呼べないだろう。お兄さんよりも前を歩いていた小さな男の子。全速力で接近して腕を掴む。


「財布、返して」


 怖がる様子もなく。ただただ、驚いた様子で固まった男の子が――


「どうして、わかったんだ」


 ・・・と肝が据わった態度で認めた。

 

 どうしてと言われたら、ユイトは勘と答えることしかできないだろう。

 細かく説明するには、言語化能力が不足していた。とはいえ、同じ状況に他の誰かがなったとしても、大抵の人間には説明できないことに変わりはないだろう。

 原初魔法で感じた物、魔力の質とでも呼べばいいのか、それらが似通っていたこと。それに加えて、ユイトが感じた・・・相手の微弱な感情。


「わかんないよ・・・。とりあえず、返して」


 逃げる様子がないことから、捕まえていた手を開放して展開していた魔法も抑え、ただ返還を要求する。


「返すさ」


 落ち着いてゆっくりと口を動かしながらも、返すと言ってくれたことに胸をなでおろすが・・・。


「君が生きていたらな?」


 君と言い終わるよりも前に、背後から強く殴られた。衝撃で倒れる寸前に見たのは、走っていたお兄さんや座り込んでいたおじさん。歩いていたおじいさんまでもが、僕に襲い掛かってくる姿であった――



 ―――――――――――――――――――――――


 倒れた子供を前にして、一人の男が別の子供に話しかける。


「ボス・・・。スリですかい・・・」


 大人の男が子供に対してまるで上位者のように敬いながらも、またいつものことをと・・・苦言を呈す。


「昔からの癖だからな、立場が変わろうとも関係ない。ま、昔と比べてスリルはなくなったな」


 話しかけられた子供も、それが当たり前とばかりに軽口を返す。


「クセ...。しかし・・・このガキどうするんです?」


「この街の奴じゃなさそうだしな。厄介ごとに巻き込まれても面倒だ。その辺に転がしとく」


「それにしても、ボスがスリで捕まるなんてねぇ。一体なにもんだったんだ?」


 すらすらと決断を下していた口が止まる。

 なぜバレたかは全くわからない。顔も身長も髪も変化しているのだ。見た目でバレる要素は皆無。ならば、匂いや服装かとも思うが街の匂いに紛れて判断なんてできないだろう。嗅覚が鋭い種族にも見えない。

 服装は特注の物で目立つが、スリをした後は着替えるようにしている。穴はない。


「誰だろうと今は関係ない。なにもなけりゃしまいでおさらばさ」


 他の人員が服を漁り金目の物がないかを調べる。この者達は富豪ではないが、限界と言う程、追い詰められている訳ではない。ただの習慣、反射の類だ。こういう状況ならこうするというだけのこと。

 ただ、金目の物を持っていそうなのが転がっている状況になったから、ついでに他も探しておくのだ。この場にいる全員がそれを理解している。

 誰かがなぜかを問うのなら、作法と答えるだろう。何作法かは知る由もない。


 手慣れた様子で、特に意気込みもなにもなく無心で漁っていた一人が、いつもとは違う物でも発見したかのような声を出す。


「ボス!みてくだせえ!」


 呑気に雑談をしていた子供が、面白い物でも見つかったんだろうと宝探しでお宝を発見した探索者のような気持ちで微笑みながら、ゆっくりと近づく。


「なにが見つかった?」


 だが、このニヤつきもすぐに無くなる事態になる。


「それが・・・これを見てくだせえ」


 中年の男が指差した先は、倒れた人物の服などではない。さらに上、地面に転がり落ちた物を指していた。それは、角の形をしていた。


「こいつ・・・魔人族じゃねえんじゃねえですかい?」


 仮に、角が取れただけなら変装も考えられただろう。だが、身体を漁っても特徴が一切出てこない。

 ボスと呼ばれた男の子と似たような存在も考えられはするが、確率を考えればあり得ないだろう。それよりは、魔人族以外の可能性が遥かに高い。


「人間だな」


 楽しげだった雰囲気は、もはや無くなっている。


「どうしやす?」


「・・・売りだ。不運な奴だな」


 人間の入国は禁止されているが、そんなことはどうでもいいことだ。現実。人間を見つけて、買い手がいる。高く売れるから、売る。

 それと同時に、忍びない思いもある。安ければ人身売買なぞしなかっただろう。だが、感情などの些事で得られるものはない。



 ユイトはそのまま、見知らぬ者達に運ばれていった―――

 

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