65.それからそれでも
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「しかし・・・良かったのですか?姉上が認める程の戦力、それに―――いえ、今更でしたね」
「王としては良くない判断なのだろうな。国益を考えれば損と言える。だが、私は人を駒のように扱いたいとは思えないのだ。それでも文句があるのであれば・・・」
「王にならなかった。弟を恨むことだな」
ワハハハッと笑い声を上げる。隣でその弟が溜息を吐きながら抗議する。
「私ですか...。判断したのは兄上ですから責任はご自身で取ってくださいね」
「わかっているとも、戦力としてであれば、同盟国もできたことだ。以前よりも増したと言える。どれだけ、準備しようとも不安は結局残るのだ。好きにさせてやりたい」
同盟国になったとはいえ、他国に軍事主力を握られるなどガラード国次第で明日にでも滅びかねない危機的状況に変わりはない。
わかりきった言葉は一先ず飲み込んで。話を続ける。
「兄上がそうしたかったからですか」
「それもあるな。だが、同じ場所で停滞してしまうよりも外に出た方が遥かに人は成長できるとは思わないか?未来の国益としてはプラスかもしれんぞ」
「それまで・・・存続していれば、そうかもしれませんね。頑張り時ということですね?陛下」
「う、うむ・・・」
突如、意気消沈して椅子により深く腰掛ける。
「しかし・・・波乱の時代に王になってしまったものだな・・・。境界の障壁が弱まってきているとは・・・世界に何が起きているというのか―――」
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馬車旅は順調である。
これまでの経験値があるのだ、順調じゃない方がおかしいだろう。だが、国が危機に瀕している状況なのだから順調な方がおかしいのかもしれない。
魔物討伐も一々降りたりすることもせずにネルが遠距離で仕留めている。命中率が百発百中はそうなのだが、威力も高く、操作も自由自在に操っているのだ。練度が極まっている。
僕はネルの魔法が巧みなことは知ってはいるつもりだったが、今までの馬車旅と比べてもここまで楽になることに感動している。マロさんは驚いていないようにも見えたが、
「かなり~威力が高くなったね?魔力量は持つのかな」
たしかに、大きな魔法を使えば魔力消費はとんでもないことになる。それに、操作し続けているのだ。さらに、魔力消費は止まらない。
「考えて使ってるからね。使えなくなる、なんてことにはならないよ」
「よかった~それなら楽ちんだね」
ムっとネルが御者席から振り返り睨む。穏やかな、静かで落ち着いた馬車旅が終わってしまうような気配を感じたので割り込んだ。
「じ、実際、魔力量がかなり多そうだよね。すごいなぁー」
―――くそう・・・。
僕の未熟な語彙力ではこれが限界だった。だが、ネルはそんな僕の言葉に乗っかってくれる。
「多い方なんだろうね。どうしてかはわからないんだけど、子供の時から魔法を使い続けてたからなのかな」
「ん~どうだろうね。私も子供の頃から生活魔法くらいは使ってたけど、そんなに増えなかったな~」
「それもそうだね。魔法を使うことだけなら、王国民で魔法に触れてない子供の方が珍しい」
僕は触れてこなかった側だね・・・。
「なら、才能って話になるのかな。それは少しつまらないね」
「つまらない?」
「そうさ、画期的な魔力を増加させる方法があったら面白いと思わない?」
「面白いかなぁ?」
面白いかどうかはともかく、あるならやってはみたいかもしれない。魔力が多いことに越したことはないからね。
「そんなことよりも~」
なんだろう。少し溜めを作っている。
「どうして使う魔法が全部、龍の形をしているの~?」
たしかに・・・。僕はネルの魔法はすっかり龍のイメージがあったからこそ、気にならなかった。マロさんからすれば変わっている。
「そ、それは・・・」
ネルが顔を赤らめて言葉に詰まる。
「いやぁ・・・。ははは...。芸ばっかりしてたら...魔法のイメージが変わっちゃってね・・・。形は変えることができるんだけど...こっちの方が使いやすくて...」
言い淀みながらも説明する。
ネルとしては、魔法のイメージが土台から変わってしまう出来事だったからこそなのだが、それは恥ずかしくて言えなかった。
「はえ~そんなこともあるんだね~」
簡潔に返事をする。かなりの珍事ではあるのだが、そこには触れない。マロイトも人との距離で入り込みすぎない方が良いことがあるのはわかっている。特に魔法のイメージに関しては人の本質が見えかねないのだ。
そうと限った話ではないのだが、触らぬ方が良いこともあるだろう。
「疲れたら言ってね。僕が代わるからね」
「ネルちゃんに任せて私たちは休めばいいんだよ~」
「大丈夫だよユイト。代わる時は絶対にマロイトさんに代わってもらうからね」
え~。という言葉が平原に響く。
港町を出て既に十七日以上経っている。もうすぐ国境沿いだ。それでも、まだまだ東だというのだから、クロイトの居場所はこの国ではないということがわかる。なら、行くしかないだろう。
新たな国へ――




