37.遺恨なし
一頻り笑った後、気になっていた確認事項を質問する。
「そういえば、ユイト君と登録されていますが、アシュラ・・・とは偽名ですかな?」
ユイトの表情がピシっと強張る。逆にネルは気楽に答える。
「そうですよ。目立つのが嫌だったので偽名を使ってるんです。違反になりますか?」
「いえ、問題ありませんよ。では、ネルーロ君も偽名でしたか」
「あ、偽名じゃありません。偽名を名乗るより前に・・・別の名前が噂になりましたので・・・」
「ふむ。わかりました。では、ユイト君の名前をアシュラへと変更しておきましょう。試した真似をしたお詫びとしてどうでしょうか?」
ユイトは偽名が問題なかったことに安堵して元気にお礼を言った。
「ありがとうございます!」
「では、行きましょうかな」
そういって、ガルタダは立ち上がり扉へと歩き出す。ついては行くが・・・どこに行くのだろう。もう終わったはずでは・・・。
先ほどの受付がある大広間。二階の手すりに片手を置いて、ガルタダさんが大声で発表する。
「注目!今日!!新しいAランクが誕生した!!アシュラ!!!そして・・・龍神の遣い!!!」
うおぉぉぉと雄たけびを上げる人達。まるで、自分のことのように喜んでいる。
発表するのか...。言って欲しかった気持ちを置き去りに横を見る。
ネルは死んだ魔物のような目をして諦めたのだった・・・。
組合を出る時に沢山声をかけられた。おめでとうだとか、すごいなとか。ド直球の誉め言葉が多く照れてしまう。
「自分よりも年下が高いランクに上がったのにみんな祝ってくれるのは、器がでかいなぁ」
とネルも感心していた。その言葉を聞いて、僕も誇らしくなってしまうのは、獣人を身近に感じ始めた証拠なのかな。ちょろすぎるのかな僕。
そのまま、組合の横にある解体所へと移動する。普通は解体所からの証明書を受け取って、受付で換金してもらうらしいが、今回は特別に解体所でそのまま、換金してくれるそうだ。
お金を受け取る。――すごい金額だ・・・。
「Aランク一体。Bランク四十体。Cランク二十体。Dランク五体。計六十六体。金貨二百五十枚になります。昇格おめでとうございます!」
笑顔で渡してくれる。一体ずつがデカかったこともあり、山を築いたにしては少なくも感じる。
もちろんありがたいが、疑問が残る。
「あの、そんなにきっちりとした討伐数じゃないと思ったんですけど・・・」
目算ではあるが、ぴったりではないはずだ。貰いすぎてたら申し訳ない。
「その通りなんですが、死骸が重なってわからない部分もあり・・・。支部長から多めに見積もって良いと許可を貰っております!昇格祝いとのことです!」
いいのだろうか・・・。貰いすぎている気がするが、祝いを断るのも申し訳なく思う。ぎこちない笑顔で両手で受け取る。
「お互い、小金持ちだね!」
これで小金持ちなのか、大金持ちとはどれほどの金貨を抱えているのだろう・・・。
二人で解体所を後にする。
「今日はどうするの?討伐はさすがにやらないよね?」
当然だよねと聞いてくるが。
「いや、今日も魔物討伐に行こうかなって。色々と掴めたから、伸ばしたいんだ」
魔物はうんざりしている。だが、昨日の苦労は全部。僕が悪いのだ。驕りをなるべく消して、もう一度。
「え~。今日も行くなんてすごいやる気だね。なら、今回は僕もいくからね」
「いや、ネルは――」
「行くからね?」
強い重圧感だった。これには森で鍛錬を積んだ僕でも――
「はい」
頷くしかできなかった。やはり、慢心は禁物だと。町の中で心から理解した。
森で考えたこと、学んだこと。色んなことをネルに伝えながら歩く。質問も交えてあの時どうすればよかったかも聞いておく。
「気配?あー原初魔法かな。なるほど。そういう使い方・・・たしかにね」
「夜、魔物が大量に襲って来たんだ。どうすればよかったかな」
「夜になる前に帰りなね。まあ、暗くなっちゃったなら・・・木に登った方が安全かもね」
あー。そういう手もあったのか、・・・木に登れば山脈も見えたのでは?
「まあまあ、強くなる目的だったから、夜の修行ができて生き残った方が従来の目的通りになってよかったんじゃない?」
クスクス笑っている。少し怒気があるから、怒られてるんだろうな...。
「大変だったんだよ・・・。それに、道中で戦った魔物も森の中だとすごく強かったんだから!」
暗がりの森での戦闘の難しさを実体験込みで語る。
「僕だったら死んでただろうね・・・。良く生き残ったよ本当に」
ネルなら迷子にならないだろう。なったとしても、木の上に登る発想が出てきたのだから、生き残れただろうし、帰って来れただろうがそう言ってくれる。
「死体の横で過ごしたの!?血の匂いで狂暴な魔物も来ちゃってたでしょ!?」
驚かれたというより怒鳴られながら・・・。樹海へ進む。
Aランクの一流達が・・・森の前で叱りつけ、叱られながら。入っていったらしいという噂が少しだけ広まった。




