36.いくから...
目を覚ましたのは昼だった。朝に眠ったのだから、昼に目覚めてもおかしくない。だが、あんなにも疲れていたのに少ししか眠ってない気がしてしまう。二度寝を試みてみるが眠れなかった。
残念な顔をしまって、ベットから降りて、階下へと向かう。
宿の中、食事処が併設されている。そこにネルはいた。
「おはよ。疲れは取れてなさそうだね」
「少し残ってるけど、寝たくても眠れなくてね・・・」
ハハっと笑い。
「意外と疲れてる時って早く起きちゃうよね。あ、自由組合に来て欲しいって言ってたよ」
魔物の代金だろう。目的を達成した実感がやってくる。さっそく向かおうとした所でお腹が鳴る。
ネルが優し気な視線を向けて手招きしながら、
「まずは、一緒に食べようよ」
急ぐ必要はないのだ。それもそうだと思い。
「わかった」
席に着いて、注文する。夜中は神経を集中することに注力していた。なにも食べていない。最近は健康的な生活だったからお腹が減ることも多い。
テーブルの上に置かれたのは、なにかの肉をパンで挟んだ。簡易的な食べ物。普段ならなんとも思わなかったが、魔物を見すぎたからか、匂いを嗅ぎすぎたせいなのか。食欲が失せていく・・・。
「食べないの?おいしいよ」
「食べるよ」
とはいえ、お腹は減っている。我慢して即座に飲み込む。
食べ終わった後、自由組合へとネルと一緒に向かう。場所はネルが知っているのでついていった。
木の扉を開けると囁き声が聞こえる。
「あいつがAランクの・・・」「――ファングを倒した」「えげつない量の・・・」
視線は僕に注がれている。
倒したのはネルがいたからだよ・・・。一人じゃ無理だった。
無視して受付まで向かう。
「呼ばれてるって聞いて来ました」
「はい!少々お待ちください!」
受付さんが受付から離れてどこかに消えた...。奥の方から、大きな翼を小さくしまった。白髪のオールバック。スリムな体型で黒服を着た男が受付へとやってくる。
「私はこの支部長であるガルタダです。あなたがアシュラ君ですな。どうぞこちらへ」
ネルと一緒に受付から出て二階の部屋へとついていく。部屋のふかふかのソファーにお互い腰かけてから本題へと入る。
「さて、まずは確認から。ヒュージファング、並びに他多数のBランク以下の魔物を討伐したのはあなたで間違いありませんかな?」
「いえ、ヒュージファングは・・・牙の大きい奴ですよね。こちらのネルと一緒に倒しました。一人じゃ無理でした」
正直に一部を否定する。
「ふむ。では、他の魔物はおひとりで、ですな?」
「はい」
ふーむ。と考え込んでいる。信じられていないのだろう。僕ももう一度やりたくない苦行だったのだから、信じられなくてもなんとも思わない。
「死骸も多く。目撃者も多数。しかし・・・Dランク。ふ~む」
ネルが干渉する。
「ランクはこの前登録したばかりなんですよ。たしか・・・ラルトって名前の街なので確認は取れますよ」
信じられていないことが不快だったのか。ニヒルな笑みで語る。
「いやはや、失礼しました。もちろん、信じてはいるのですが、確認を取るにはどうしようかと・・・ありがとうございます」
なにかの応報が始まっている雰囲気がある。・・・気にしないことにした。
「では・・・。私の権限でユイト君はAランク。ネルーロ君はBランクへと昇格させていただきましょう」
本来なら驚き歓喜する場面。だが、ユイトは辞む。おかしいと。
「待って。ネルがBランクなら、僕もBだよ。一人だったら死んでたくらい強かったんだよ?それを、ネルがいたからこそ倒せたんだから、Aランクになれるはず」
昇格条件などはよくは知らない。でも、評価で僕が上。ネルが下になるのを否定したい。絶対に。
「ですが、ランクとは信頼度も含むのでな。この人なら、絶対になんとかしてくれる。安全だ。実力とは別にそんな意味があるのです」
「なら、僕も満たしていないよ。知らないことは多いし、いつもギリギリで絶対なんてなかった。ネルがBなら僕もBランクにして欲しい」
同等であればいいのだ。
他と違う折衝。直談判に戸惑いを見せるガルタダ。上げてくれと言われたことは多い。下げてもいいとは・・・。面白く感じて、冷ややかな笑みを顔に出す。
「であれば、二人をCランクに下げさせていただきますよ?組合の評価を軽んじてもらっては困りますな」
「あ、それならいいです。ありがとうございます」
開いた口が塞がらなくなってしまった。
組合の評価を上げるだけで生活水準に雲泥の差ができるのだ。誰もが上げたがる。Aランクに飛び級などあり得ない事態。だが、ガルタダは組合の中でも信頼が高く。その権限を有している。最近、山脈の監視のためにも派遣されてきたばかり辣腕。
そんな、偶然も手にしているというのに・・・興味がない様子に愕然とする。
ハハハっと広めの部屋に響く。
「ユイトがいいなら、もちろん僕も構わないよ。Cランクでも上がったことに変わりないからね」
ガルタダの驚いた顔を笑ったのだろう。仲間のイカれ具合を自慢げに・・・。
「あ、ネルのこと考えてなかった・・・。僕だけCランクでネルはBランクに・・・」
なんとかなりませんか?と首を傾げて甘えた表情で懇願してくる。
これにはさすがの、カルタダも笑うしかなかった。
「カッカッカ‼‼仕方ありませんな。・・・実は、龍神の遣い殿の噂は聞いております。お二人をAランクとしても誰も文句など言わんでしょうな」
急な変化に当惑するユイト。恥ずかしそうに大袈裟ですよと否定するネル。
久方ぶりの支部長の笑顔が自由組合に鳴り響いていた――




