32.いっぱいあるよ・・・
武闘大会は三週間後。
それまでやることは沢山ある。ユウジは訪問。ネルは大道芸。僕は・・・ない。
やらなきゃいけないことはないけど、やりたいことはある。まず、防具を買うことだ。大会は魔法禁止なのだ。使った所でバレないのではとネルが言っていたが、禁止なことをやろうとは思えなかった。小市民である。
他にも、武闘大会に出るのだから、なるべく鍛えて強くなるべきだろう。
ということで・・・。僕は今、自由組合で依頼を探しに来ています。
嫌々ではあります。やりたくありません。ネルもそんな僕を見て、お金なら芸で稼いだ分があるから買うよと言ってくれてはいた。その天使の誘惑を全て断ち切って、強くなる必要もあるから。となんとかここまで来ていたのだ。対人戦の経験は得られないだろうが、少しは・・・為になるはず・・・。
受付の人に近寄って聞いてみる。
「すみません、強くなれる依頼はありませんか?」
「つよく?...強くなる依頼ですか?」
「はい」
意味が伝わらなかったのだろうか。考え込んでしまう。
「すみません、強くなるとはどういった類の依頼かお聞きしても?」
「えーと、戦う?魔物とか人とか、鍛えられそうな依頼?です」
「・・・ランクなどはいくつでしょうか?」
見た目が子供なのだ。血の気の多い依頼は出しにくい。かといって、望む依頼を出すのも受付の仕事なのだ。まず、実力を確認して適正な依頼を探そうと聞いてみる。
「Dランクって聞きました」
「D・・・ですか、だとするとー。どぶさらい、清掃、荷運び・・・。荷運びはいかがですか?」
荷運び・・・身体を鍛える意味は薄い気がするので。首を振って他の依頼はありませんか。と悲哀な表情でもう一度聞いてみる。
「う~ん。近くの弱い魔物は高ランクの方がついでで倒すので...依頼はありませんし・・・」
受付の人がこちらを見つめて、決心したようにこそこそと紹介する。
「実は...依頼ではないんですが・・・最近、高ランクの方々には話したのですが、北の山脈。ゼル樹海の魔物を狩ってくると報酬がもらえますよ」
ゼル樹海。あの大きな山の麓にある森。ユウジさんが言っていたな、魔物恐慌がどうのって・・・大丈夫なのだろうか...。
「あの~...。魔物恐慌などは大丈夫なのですか...?」
受付に合わせるようにひっそりと聞いてみる。
「?もちろんです。少数がなにかした所でどうともなりませんよ」
子供を諭すかのように安心させる。
山脈か・・・距離はあるだろうが、帰って来れるのだろうか。帰って来れるのであれば、悪くはない気がする。幸い、依頼ではないらしいので日時は決まっていない。なら、まずは確認だろう。
「ありがとうございます。知り合いに確認してみて問題なければそうしようと思います」
「はい、お気をつけて」
自由組合を後にしてユウジ家に帰宅する。運が良いのかユウジがいたのですぐに聞いてみることにした。
「ユウジさん、自由組合の依頼でゼル樹海って所に魔物討伐をしにいってもいい?」
一応、計画に支障がでないのかも含めて。
ユイトなら実力に心配はないだろう。
「ああ、構わない。だが、中層以上は危険だ。気を付けた方が良い。ただ、上層は絶対に入らないように。入れないとは思うが」
あっさりとした承諾を頂いた。受付の言葉通り、そこまで気にするようなことではないみたいだ。過敏になりすぎてたのかな。
「なら、行ってこようかな。どのくらいかかるのかな。間に合うよね?」
「馬なら・・・ゆっくり七日くらいだろう。今からか?ネルーロに聞かないのか」
そんなわけがない。出発は明日にしよう。・・・道中も魔物は出るんだろう...どうせね...。
そうして、久しぶりに家でのんびりとした時間を過ごす。だが、なんだろう。今まで気にしたことがなかったのに。一人でいるのが・・・こんなにも静かだったなんて。
静かな部屋で寛ぐ時間のはずが、心が休まらずに時間は経過する。・・・いつの間にかネルが帰宅していたらしい。
おかえりとただいまの挨拶を終えて、さっそく本題に入る。
「依頼を探したんだけど、良いのがなくて・・・ただ、山脈で魔物討伐すれば報酬があるみたいなんだ。だから、行こうかなって」
「いいと思うよ。ユウジには聞いたんでしょ?なら、賛成だよ」
肯定してくれた。続けて、
「なら、また、馬車?いや、馬かな。での旅になるね」
「あれ?ネルは来るの?来ても大丈夫なの?」
ネルには大道芸があるのだ。中央から離れることができないと思っていたが。言葉の抑揚的に一緒に来る話しぶりに聞こえた。
「もちろんだよ!なに?置いていくつもりだったの!?」
大袈裟なリアクションで非難する。ここまでの付き合いで冗談なのはわかっているが・・・。
「いやー...路上での芸はいいのかなって・・・。もちろん!ついてきてくれたら嬉しいよ!」
取り繕うように言ってはいる。少し前までは一人で行く気満々であったが・・・二人で行ったほうが楽しいことに気づいたのだ。ついてきて欲しい。でも、邪魔はしたくはないのだ。
「道中の街でも公演してれば十分、名声に繋がるだろうし。帰ってきたら大々的にやれば、しばらくぶりってので大盛り上がりだよ。たぶんね」
そう聞けば、問題はなさそうに聞こえる。
「なら、ついてきて欲しいな」
フフッと口角を上げて――
「もちろん。どこまでもついていくよ」
そう。言ってくれたのだった。




