31.逸話の存在
話に夢中になりすぎたせいで気が付いたら中央付近まで来てしまっていた。そのことに気が付いたネルが恥ずかしそうにしながら二人で慌てて来た道を遡り、ユウジ宅まで帰る。
ユウジはもうすでに帰宅していたのだろう。セルドラと二人で出迎えてくれた。それから、今日のことを報告する。ネルと二人で話したことと同じように語るとユウジはとても嬉しそうにお礼を述べていた。
一通り落ち着きを取り戻してから、明日の予定について話し合いをしながら、セルドラが用意した食事にありつく。夜も更けてきた段階でお開きとなり、借りている部屋に別れて就寝する。
――翌日――
エントリーのためにユウジさん。それと、ネルの三人で武闘大会会場まで向かう。
昨日今日で大道芸をやるよりも噂が広まってからやった方が効率が良いとのことで、ネルはお休みしていた。
そのため、僕達のエントリーについてくることになった。会場は北西方向にあるらしい。昨日と同じ西から行くのかと思ったが、北の中くらいの通りから行った方が早いらしいので、北の通りに向けて三人並んで歩いている最中である。
「おい、あれ・・・」「龍の・・・」「東で見た・・・」
などとこそこそ話が聞こえてくる。特に僕とネルは気にせずに歩いていたが、ユウジは聞き耳を立ててホクホク顔をしている。
「順調だな・・・」
感無量なのだろう。呟かずにはいられないようだ。
「あれが―――」「例の―――」「噂の―――」
――『龍神の遣い』
それを聞いて。ブフッ!!!っと口から空気を吹き出すネル。
「なにそれ!?!?大層な名前すぎるよ!!!」
この国は二つ名をつけたがる文化があることは知っていたが、どうしてそんな贅沢な名前になったのか問いただしたい気持ちが前面に現れる。
「龍神とはな・・・。古臭い一部の獣人が聞いたら激怒しそうだが、"最上級"の異名なのは間違いないな。聞いてはいたが・・・それほどだったのか...」
感心しているユウジを他所にネルはがっくりと肩を落とす。
「ふふっ。ネルならぴったりだよ!」
復讐のようにからかいを入れられたと思ったネル。
「アシュラに言われたくないよ・・・」
なんとか言い返すがキレがない。
「いや、本当に思ってるんだよ!ネルの魔法はすごかった。まるで生きているかのような素晴らしい生命力を感じる魔法だった!憧れるよ!」
本心だろう。自信はあったのだ。褒められて嬉しくないわけがない。ただ、大袈裟過ぎた場合の厄介ごとを想像してしまい訂正したかっただけである。
「でも、学園ではあんなに派手な魔法を使ってなかったよね?あ、派手な魔法はダメって言われたね・・・」
それを言われてたのはユイトだけである。派手な魔法を使わなかったのは、魔法で目立ちたくなかったからだからだが、それを説明すると深堀しかねないのでそういうことにしておく。
「学園ではダメだったからね。それに、水なら下手なことをしない限り安全でしょ?だから使ったんだよ」
「なるほど~」
感心しているが、ネルでなければあの魔法は操れないだろう。わかっているのかわかっていないのか。そんなこと興味ないのかすらわからない返事をする。
「それなら、次は俺も見ておきたいな。今後の計画の参考になるかもしれん」
ため息をあからさまについて。
「勝手にどうぞ・・・。さあ、ほら。ついたよ。ここでしょ?」
指を指した方角に見える巨大な建物。一部に煉瓦が使われているが大部分はまさに石。円形の壁がそこにはあった。獣人であっても七万人は入れそうな圧倒的な存在感を放っていた。――受付ってどこ!?
広すぎてどこが入り口なのかわからない。寧ろ、どこからでも入れそうにも見える。
「受付が見えない・・・。人結構多いね。大会は今日じゃないでしょ?」
再確認する。今日じゃないことは聞いているが人の多さに疑問を抱いたからだ。
「もちろんだ。この、キングコロッセウムでは、武闘大会がメインだが無い日には別の行事で使うことも多い。今日は・・・まあ、なんかあるんだろう」
自慢げに説明をしてはいるが、今日の催しは知らないみたいだ。
「受付は正面を入ったら、だ。大体わかりやすいところに作られてるからな」
そのまま、ずかずかと進んでいく。受付まで行って名前を告げる。
「アシュラです。武闘大会のエントリーをしにきました」
闘技場での態度はしなくていいだろう。あれは、舐められないようにと考えただけなのだ。兜も・・・まあ、なくてもわかるはず・・・。
「はい。アシュラ様ですね・・・ありました。......ノヴァ様からの推薦ですね・・・。頑張ってくださいね」
少しの哀れみの視線を受けながら手続きを完了して日時を教えてくれる。そのまま、戻っていく。なんでなのかを考えた所で答えが出るはずもないが...ユウジが答えてくれる。
「気にするな。ノヴァさんが推薦する奴ってのは一回戦で落ちるってのがお決まりなんだよ。だから、どうせ敗退するんだろうなって見られたってだけだ。ユイトなら勝ち上がれる!まあ、負けても出たってだけで目標は達成してるんだ気にしなくていい」
説明と励ましを同時にしてくれる。まあ、理由がわからないのが気持ち悪かっただけで気にしてはない。そんな後ろから大音量が聞こえてくる。
――おおおっと!!!赤い流星が全勝を勝ち取りましたぁ!!!!優勝!!!!グラヴィティレッド!!!!!!
今日も会場は盛り上がっているようであった―――




